背景美術は「縁の下の力持ち」! アニメに欠かせない「背景」の仕事ってどんなもの?

背景美術は「縁の下の力持ち」! アニメに欠かせない「背景」の仕事ってどんなもの?

『おつかれ背景さん アニメ業界の裏側、教えちゃいます!』(なつみん/KADOKAWA)

 およそアニメの情報誌などを見ていると、表紙には注目キャラクターが描きおろされ、記事には作品の監督や主演声優たちのインタビューが掲載されている。それはこのあたりが読者の興味を惹く部分であり、作品の推しともなるからだ。しかしだからといって、取り上げられない部分が不要なものかといえば、そんなことは決してない。音響から撮影編集に至るまで、アニメ作りにはすべて欠かせないものだ。もちろん「背景」もそのひとつ。『おつかれ背景さん アニメ業界の裏側、教えちゃいます!』(なつみん/KADOKAWA)は、背景美術に携わる人々の悲喜こもごもを描いたコミックエッセイである。

 主人公の「背景さん」は、新米の美術スタッフ。「縁の下の力持ち」であり視聴者には馴染みの薄い背景美術の世界を、彼女の日常を通じて紹介していく流れだ。

 まずは簡単に背景の作業内容が語られる。背景とはキャラクターの後ろに描かれる風景などのことであり、背景美術は原画担当から送られてくる「原図」を参考に、背景を描き起こす仕事。原図の指定にはさまざまなタイプがあり、一本線を引いて「大海原」と書いてきたり、文字だけで「夜景お願いします。」というものもあったりするという。

 また近年は海外への発注も増えているのだが、それにまつわるエピソードが面白い。例えばタイに発注していた森の背景がジャングルになっていたり、中国に発注していた青空の背景が灰色にくすんでいたりと、その国特有のものが上がってくることがあるそうだ。さらには女の子の机の上になぜか「う●こ」が描かれている背景が上がってきて原図を確認すると、それは「クマのぬいぐるみ」だったとか。こういった勘違いも含めて、海外発注は気が抜けないのである。

 美術スタッフとして経験を積んできた背景さんだが、ついに「美術監督」を担当する機会がやってくる。美術監督とはその名の通り、作品の背景美術を統括する役どころ。いわば背景美術のリーダーである。しかし当然ながら、その仕事は激務と化す。予定通りにいかないスケジュールに対応し、作業をさまざまな部署に発注。上がってきた背景をチェックして、必要なら修正を加える。それらすべてを美術監督は背負わねばならず、徹夜作業はあたりまえ。特に1話につき約300枚という背景の修正作業は大変で、自分の絵を描くことはほとんどできないという。

 ちなみに背景さんは女性であり、徹夜続きとなれば着替えられないし肌は荒れ放題と過酷な状況に。それでも仕事を続けていられるのは、ひとえに「好きだから」だ。本書では背景さんが美術監督を担当したアニメが放送されたとき、辛かった記憶がフラッシュバックして号泣してしまうエピソードが語られる。そういう経験をしても続けたいと思える人が、生き残っていく世界なのだ。当然、辛いことばかりではない。自分が関わった作品が世に出れば嬉しいし、スタッフロールに名前が出ればテンションも上がる。「好き」に加えて仕事に対するモチベーションを上げる何かがあれば、長く続けていく原動力になるのだろう。

 現在、劇場で公開中のアニメ『君の名は。』は興行収入100億円突破の大ヒットとなっている。好評の理由はさまざまだが、そのひとつに挙げられているのが「背景の美しさ」だ。他にも「聖地巡礼」と称するアニメの舞台となった場所を訪れる現象が定着して久しいが、これも現地の風景を美しく描いた背景美術あってのことである。確かに表面的には声優やキャラクターデザイナー、監督あたりが注目される世界だが、背景に対する評価は間違いなく高まっている。こういう流れが励みになれば、背景美術志望の人も増えてアニメ業界の未来も明るくなるのではなかろうか。

文=木谷誠

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