大ヒット作『ツナグ』ふたたび!続編執筆の裏側とは

大ヒット作『ツナグ』ふたたび!続編執筆の裏側とは

『ツナグ 想い人の心得』(新潮社刊)の著者・辻村深月さん

出版界の最重要人物にフォーカスする「ベストセラーズインタビュー」。
第107回の今回は『ツナグ 想い人の心得』(新潮社刊)を刊行した辻村深月さんが登場してくれました。

辻村さんの『ツナグ』といえばシリーズ累計100万部に達した大ベストセラー。依頼人と依頼人が会いたい死者を再会させる「ツナグ」という役割を担う歩美の葛藤と成長、そして死者と生者を巡るドラマを描き、2012年に映画化もされました。

その続編となる今作ですが、当初辻村さんは続編を書くつもりはなかったとか。その思いが変わった背景にはどんなきっかけがあったのか。そして『ツナグ 想い人の心得』の物語をどう紡いでいったのか、ご本人にお聞きしました。
(聞き手・構成:山田洋介、写真:金井元貴)

■『ツナグ』続編のきっかけになった映画プロデューサーのひとこと――『ツナグ 想い人の心得』は映画化もされた『ツナグ』の続編です。ヒット作の続編ということで、執筆する際にどんなことを考えていたかを教えていただきたいです。

辻村:『ツナグ』を書いた時点では続編を書こうという気持ちは全然なかったんです。シリーズものの小説が大好きで憧れがある分、それがとても大変そうだということも想像がついたので、自分が書くことはないだろうとも思っていました。

――確かに、辻村さんの作品にはこれまでシリーズものはありませんでしたね。

辻村:そうです。ただ、『ツナグ』を読んでくださった方々からの反応を通して、思っていた以上にこの作品を必要としてくださる方がたくさんいらっしゃることが分かりました。

「自分だったらこの人に会いたい。その人とはこんな思い出があって」という思いをつづった丁寧なお手紙をいただいたり、「本の奥付にある新潮社の電話番号にかけたら“ツナグ”が出るんじゃないかと思って何度かけようと思ったかわかりません」とおっしゃる方がいたり。そういったお話を聞いているうちに、続編で歩美のその後を書いてみたいという気持ちにだんだんなっていきました。あとはやはり映画の影響も大きかったです。

――映画を見た方からの反応ですか?

辻村:それもありますが、監督やプロデューサー、俳優のみなさんが、私が考えていたくらいの情熱、もしかしたらそれ以上の熱量で作品に関わってくださったんです。自分の小説はどれも自分の子どもだという感覚がもともとあったのですが、「一人で育てていた子ども」が「みんなの子ども」になったような感じでしょうか。

映画の打ち上げの時にプロデューサーのお一人が「今後いつか、歩美くん(作中で死者と生者を引き合わせる“ツナグ”という役割を担っている少年)が結婚する時に、自分が“ツナグ”であることを相手にどんな言葉で話すのかということにもつい思いを馳せます」とおっしゃったんです。それを聞いた瞬間、その場面が頭に思い浮かんで、書いてみたいと思いました。その時はじめて続編をはっきり意識した気がします。

――プロデューサーの方の発言は今回の作品の内容とつながってきますね。個人的には最初の場面に驚きました。ツナグとして歩美がやってくるのかと思いきや……。

辻村:『ツナグ』から9年経っていて、作中の時間も7年進んでいますから、最初の場面ではまず読者の意表をつきたかったんです。

――ただ、第一章を最後まで読むと、嬉しい再会がある。これまでの読者には嬉しい読みどころなのではないでしょうか。

辻村:そう思っていただけたら、著者としては幸せです。今回のどの話にも共通していると思うのですが、「ツナグ」は「死んだ人間と一度だけ会える」という設定を通して「喪失」を描いています。だから痛みや苦しみを抱えた人たちが登場しますが、痛みや苦しみって経験した時の状態がずっと続くわけではないんですよね。もちろん、忘れるわけではないにしても、時間が経つことで傷への寄り添い方は変わってくる。続編ではそのあたりも、前作より意識した描き方になっていると自分でも感じました。だから、一章の最後を皆さんにどう読んでいただけるのかは、私自身、楽しみです。

―― 一生に一度だけ死者との再会を叶える使者「ツナグ」である歩美のところには、死者に会いたいと願う依頼人から電話がかかってきます。動機も会いたい人との関係性も実に様々で興味深かったです。

辻村:今回の再会は、前作とは趣向が違うものが多いのですが、中でもたぶん、一番その色合いが強いのが第二章の「歴史研究の心得」だと思います。これも映画の時ですが、出演された俳優の皆さんが「死者に会えるなら誰に会いたいですか?」という質問を公開時の取材で受けられていたんです。

その中で主演の松坂桃李さんが「宮本武蔵に会いたい」と仰っていて、自分にはなかった発想だったので驚きました。確かに「ツナグ」の「死者に会える」というルールでは歴史上の人物という選択肢もあり得る。ただ、もしそれを希望するとしたら、時代が違うことできっと言葉も違うだろうし、大変なことも多そう。どんな準備が必要で何をしないといけないかというのを小説の中で大真面目に考え始めたら、とても楽しかったんです。そこで「やってみよう」と。

――個人的にも「歴史研究の心得」が一番好きです。依頼人が会いたいと希望するのは戦国時代の領主「上川岳満」。読んでいて気になったのですが、この人物は実在していたのでしょうか?

辻村:読者のご想像におまかせしたいところなのですが、実は私が創作した人物です(笑)。読後に読者が思わずネットで検索してくれるようなリアリティーを持たせたい、と考えながら人物像を作り上げていきました。

――やっぱり!いかにもありそうなキャラクターづけがされているので実在の人物だと思ってしまいました。

辻村:キャラクターはもちろん、そのキャラクターが登場するためには「架空の歴史」が必要なのですが、これを書くのも楽しかったです。歴史ものは自分には縁遠い題材だと思っていましたから、こんなに大胆なことが書けるとは思いませんでした。

――「架空の歴史」のポイントになるのが、岳満が残した「和歌」です。これは専門の方にお願いしたと聞きました。

辻村:「yom yom」で連載していた時点では別の和歌を引用していたのですが、やはり時代背景も含めてぴったりくるものを入れたかったので、本にする際には俳人の川村蘭太さんにお願いして作っていただきました。

すでにある物語の中の流れに沿って、著者と小説の都合に合わせた歌を詠んでいただかないといけないわけで、しかも作中では、依頼人の男性から「あまりうまくない歌」と言われたりもしてしまっている(笑)。そんな予め定まった枠組みの中に入れ込む歌を作るというのは、ともすれば乱暴なお願いごとだというふうに取られても無理はないと思うんです。私も覚悟の上でのお願いだったのですが、川村さんはものすごく柔らかい感性を持っていらっしゃる方で、物語としての『ツナグ』がどういうものなのかを理解してくださったうえで、何案も考えてくださったんです。歌一つ一つに注釈をつけてくださったのですが、それを読んでいると、楽しみながら歌を作ってくださったことが伝わってきて、ぐっときました。

――それはありがたいですね!

辻村:本当ですよね。研究者の領域にお邪魔するわけですから恐縮していたのですが、フィクションの持つ力だとか物語や小説がどういうものなのかをご理解くださる方と巡り合えたことで、小説により奥行きが出たと感じています。

――依頼者の鮫川老人が上川岳満と会うことで、岳満の和歌の真意が明らかになるところが好きです。私たちは歴史や歴史上の人物が残したものについて様々に解釈しますが、実際に本人に会った人間は誰もいないわけで……

辻村:歴史小説や大河ドラマになぜ人が惹きつけられるかというと、今までいわれていたのとは別の人物像や歴史解釈が提示されることも理由の一つにあると思うんです。

歴史の解釈にはどうしても語る人の主観が入りますし、私たちが学校で学んできた歴史も、圧倒的に「勝った方」にスポットライトが当たっていて、「この人が正義で、この人は敗者」という目線ができてしまいやすい。でも、私たちが知っていると思っている歴史は誰かの主観であって、それだけが正しいことではないのかもしれないということは「歴史研究の心得」と銘打って書くなら必ず入れたいと思っていました。

第二回 ■もし「ツナグ」が実際にいたとしたら…… につづく

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