本好きリビドー(122)

◎快楽の1冊
『望み』 雫井修介 KADOKAWA 1600円(本体価格)

 温かな家庭を築き、人生をより豊かなものにしたい。そういう願望はある程度の年齢になった大人であれば抱いて当然だ。しかし、そういう願望が一時期実現されたとしても、急にひっくり返ってしまうこともあり得る。明日のことは分からないのだ。
 本作『望み』は建築デザイナーとして成功を収めた男が突如、家庭崩壊の危機に直面する物語である。石川一登は東京のベッドタウンに住み、その一軒家の隣に事務所を構えている。自宅の方に住む家族は妻、高一の息子、中三の娘。妻は校正の仕事をしているが、在宅で行っているので子供たちへの世話、目配りは十分にできている。
 一登は自分の現在の成功に満足している。しかし、調子に乗っているつもりはない。長い歳月を掛けて歩んできた結果だと思っている。そのプロセスで学んできた人生哲学は子供たちへの教育に反映されてきた。彼は仕事のみならず家庭の現状にも満足していた。
 しかし息子・規士がけがで熱中していたサッカーをやめざるを得なくなったことが、一家に少しずつ不穏な空気をもたらしていく。規士の生活は乱れ始め、外泊が多くなった。素行のよくない友人と付き合いを始めたのだろうか。
 そしてある日、事件が起きる。路上で事故を起こした車のトランクから高校生のリンチ死体が見つかるのだ。その事件に外泊を続けている規士が関与している疑いが浮上した。息子は殺人犯になったのだろうか…。
 未成年の凶悪犯罪を報道で知るとき、私たちの多くは「何てひどいことを」と嘆くけれど、加害者、そして被害者の家族がどれほどの苦悩に陥るのかまではさほど想像しない。その深いところを作者は徹底的に描いている。幸福な家庭の突然の崩壊。恐ろしくはあるが珍しいことでもないのだ。絆とは理想であるが幻想でもあると感じざるを得ない。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 女だけではなく、男にも更年期障害が起こり得ることが、半ば常識として知られるようになってきた。
 では、その具体的な障害とは何か? 「集中力の低下」「無気力」「不眠」が三大症状。つまり「うつ」と極めて似ているというのである。
 そうした症状を簡単なテストによって自己採点し、当てはまる項目が多ければ要注意…そう警鐘を鳴らす本が『うつかな?と思ったら男性更年期を疑いなさい』(東洋経済新報社/1300円+税)である。
 女の更年期は閉経の時期が近づくことに伴う女性ホルモンの変化が原因。男の更年期も男性ホルモンの変化によって生じる。テストステロンという、主に睾丸で生成される分泌物が減退することで、闘争心・やる気が削がれ、性欲も激減、勃起障害も起きやすい。
 逆に40代以上でも女にモテ、仕事も絶好調という男はテストステロンが充満しているというわけだ。
 すでに170万人がテストステロン補充治療を受けている米国に比べ、日本では、わずかに2万人。
 男性更年期という病への認知度が低く、無気力を単なる「気持ちの問題」として片付けてしまっている人が多いからだろう。
 命の危険につながるような病気ではない。だが、いつまでも男らしくいたいと願う中高年にとって、看過できるシロモノでもない。
 男性更年期への対策は、今後のライフスタイルに有効な処方箋でもある。最近、やる気がないという諸兄は、ぜひ一読を。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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