本好きリビドー(123)

◎快楽の1冊
『わずか一しずくの血』 連城三紀彦 文藝春秋 1600円(本体価格)

 連城三紀彦は2013年10月に、60代半ばで亡くなった。それから3年ほど経ったわけだが、いまだその死を惜しみ続けているファンは多いのではないか。『友よ鼠たちのために』など、過去の作品が死後に復刊されている。ファンの要望に出版社が応えているのだ。確かに連城三紀彦は人気作家だった。そうなれたのは、ミステリー小説になくてはならない技巧、テクニックを駆使する才に長けていたと同時に、恋愛小説の書き手としても達人だったから、と言えるだろう。
 決してミステリー愛好家のみを読者ターゲットにしぼっていたわけではなく、おそらく世の女性のほとんどが好むであろう男女の恋の機微をドラマティックに描いたりもした。幅広いエンターテインメント性を発揮していたのだ。
 今回紹介する『わずか一しずくの血』は作者の生前、書籍化されることはなかった。'95〜'96年に掛けて雑誌連載された作品である。それが、今年9月に初単行本化されたのだ。
 ストーリーのベースは、猟奇連続殺人を描いたミステリーと言っていい。白骨化した人間の左脚が群馬県の山中から発見された。全身ではなく脚のみである。そして、同じ群馬の温泉旅館で、殺害されたと思われる女性が見つかる。やはり、左脚のみが切断されていた。しかし、山中の脚は白骨化しているのだから、この女性のものではないのだ。不可思議な偶然。間もなく日本中で、女性の体の一部が発見され始める…。
 このスリリングな出だしに加え、本作は1人の男、すなわち殺人鬼に魅了されて破滅していく女性たちの姿も描いている。そう、危険な男に引かれてしまう女の奇妙な本能も描いているのだ。その描き方がまことに淫靡でセクシャルであり、猟奇殺人と絡み合っていく。これぞ連城らしさだ。毒のような刺激を味わえる小説である。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 今回取り上げる本のタイトルは、『50オトコはなぜ劣化したのか』(小学館/760円+税)。
 イヤな題名の本である。だが読んでみると、オヤジ世代に当てはまることばかり。「いや、劣化などしていない」と意地を張ったところで、時代の変化に乗り遅れた男たちの苦悩と悲哀に、バッサリと切り込んでいる。
 現在50代の男たちは、かつて“新人類”と呼ばれた。20代の頃はバブル経済絶頂期を謳歌し、就職に困ることもなかった。カネ余りの恩恵にあずかって、車も女も手に入り、結婚後も順調だった。
 だが、ここに来て給料は下がる一方。加えてリストラや早期退職もチラつく。それなのに、老後の年金は支給される保証もない。
 対して50オンナたちは、バブル期にあれだけ享楽を味わったのに、ちゃっかり預金もしていて、家庭の外で不倫や旅行、グルメに趣味と楽しみを見つけ、同世代の男たちを置いてけぼりにしようとしている。
 著者の精神科医・香山リカさんは、そうした50代には「何事も他人任せ」という特徴が見出せるという。
 また、アナログからデジタルへと移行した中で、巧みにデジタルを活用する女と、ついていけない男の格差も指摘。変化に対応できる女と、できない男というわけだ。
 耳の痛い話ばかりだが、確かに50オトコはアナログ人間であることを誇りにしたがる。
 さて、読者貴兄はどうか? 時代に適応できているか、自問自答する機会ととらえ、一読してみては?
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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