やくみつるの「シネマ小言主義」 言い訳ばかりの我が人生に思いを馳せる 『永い言い訳』

やくみつるの「シネマ小言主義」 言い訳ばかりの我が人生に思いを馳せる 『永い言い訳』

(提供:週刊実話)

 自分は元来、人の心の機微を読むといったことが非常に苦手でして…。他人の心情を理解する「心の襞」なんてものがない、このツルツルの心が、図らずも鍛えられた映画でした。

 まずもって、設定が秀逸です。主人公のモックンは作家。ともすれば饒舌で文学的な台詞も、言葉を大切にする「作家」ならではと、頷けます。
 そして、モックンは妻と同じバス事故で亡くなった妻の親友の子供たちの面倒を見始めるのですが、子育ての経験もない男やもめがそんなことをするか? とツッコミそうなところを、「小説のネタにするから」と後づけのように言われると、そんなこともある気がしてきます。
 さらには、モックンが面倒を見る兄妹の兄の方は小学生。小学生がこんな言い回しをするのか? という危惧も「特進クラスだから」と納得させられる。

 とまあ、絶妙な設定に感心しますが、たとえこれが特殊なケースであったとしても、見た人はきっと誰でも、「自分だって言い訳ばかりの人生じゃないか」と、おのれのこととしてフィードバックしてしまうと思います。そうした普遍性を持っているところが、この作品の巧みなところですね。
 そう、この映画タイトルの『永い言い訳』、これが心に突き刺さってくるんです。この監督は映画にする前に、まずは原作小説としてまとめたということですが、さすがによく練られたうまいタイトルです。

 思えば自分は、生業である漫画家がずっとイヤでイヤでしょうがなかった。そして、自分が選択してこなかった人生に対して、ずっとモヤモヤした気持ちがありました。
 しかし、この映画を見て初めて、「ああ、なるべくしてなった漫画家で、この道しかなかったんだ」と自覚できたのです。

 人の気持ちが分からず、人と和することもできず、とことんマイペース。漫画家といっても、ストーリーを考える劇画なんて面倒でとてもできません。
 そんな自分には、何かにつけ、沸き上がってくる「文句」にパッと絵をつけて出すこの仕事は唯一無二だったと、目の前のモヤモヤが晴れて、ストンと腑に落ちました。思いがけず、初めて自己肯定の機会が得られたのだから、映画ってのは侮れません。

 ところで、またもや現れたモンスター子役が白鳥玉季ちゃん。どこまでが演技か分からない自然さです。まだ5歳で集中力が続かず、台詞を言うタイミングを棒でつついて知らせたなんてこともあったようですが、忘れられない存在感でした。

画像提供元:(C)2016「永い言い訳」製作委員会

■『永い言い訳』原作・脚本・監督/西川美和 出演/本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里 配給/アスミック・エース 10月14日(金)全国ロードショー
 人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、妻・夏子が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったとの知らせを受ける。その時、不倫相手と密会中だった幸夫は、世間に対しては悲劇の主人公を装うことしかできなかった。ある日、妻の親友の遺族であるトラック運転手の夫・陽一とその子供たちに出会った幸夫は、幼い彼らの世話を買って出る。保育園に通う灯とその妹の世話のため中学受験を諦めようとしていた兄の真平。子供を持たない幸夫は、誰かのために生きる幸せを初めて知る。

やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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