本好きリビドー(125)

◎快楽の1冊
『パイルドライバー』 長崎尚志 KADOKAWA 1600円(本体価格)

 群像劇を読む喜び、というものがある。一応の主人公はいるのだけれど、ほかの脇役たちも目立って活躍し、かなりの数の人間が絡み合うというストーリー。もちろん、1人の主人公に自己投影して、深い感動を味わうというのは快感だけれど、それのみが読書の楽しみではないだろう。何しろ、人間は1人では生きられない。結局のところ、有象無象と付き合って、日々を生きている。そういうコミュケーション、関わり合いが群像劇では楽しめて、ダイナミックな気持ちにもなる。
 本書『パイルドライバー』は明らかに群像劇だ。作者は元漫画週刊誌の編集長で、2010年に小説家デビューした。ストーリーは猟奇的な幕開け、と言っていいだろう。神奈川県の一軒家で夫、妻、息子の死体が見つかる。何者かに殺されたのは間違いない。しかも、死体にピエロの化粧が施されているところがおぞましい。
 主役は神奈川県警の30代の刑事・中戸川俊介だ。今回の事件は15年前に起きた一家惨殺事件とかなり似通っていた。同じ犯人による犯行であろうか。その15年前の犯人はまだ捕まっていない。
 俊介は当時の捜査情報と、今回の情報との関連を調べるため、ベテランの警察OB・久井重吾とコンビを組むことになる。
 俊介は内心、警察を辞める気持ちでいた。父親は食品関係の仕事で活躍していたのだが、このところ体調が悪い。俊介が後を継ぐべきだ、という雰囲気が家族内で生じていた。
 俊介はこれが警察での最後の仕事だと覚悟し、久井との捜査を行う。
 ところが、だ。本作は単に俊介の成長物語なのではなく、久井やほかの刑事たちのことも克明に描いている。そう、主人公がいながら見事な群像劇になっているのだ。もしかしたら新機軸の小説かもしれない。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 「妖怪男」なる奇妙なタイトルを冠した1冊の本に出会った。9月に宝島社から刊行された『妖怪男ウォッチ』(1200円+税)だ。
 妖怪男とは「女を不幸にする男」のことだそうだ。ぱぷりこという名の女性が更新しているブログを本にまとめたもので、恋愛・婚活真っ只中の女性の前に出現する、奇々怪々な男たちの実態をつづっている。
 例えば「俺の知り合いがすごい男」。会話の中に「知り合いにすごいヤツがいる」と挿入してくるのが定番だが、本人は薄っぺらい…いるいる、確かにどこにでもいる。
 他にもやたらとセレブ気取りで海外の話が多い「港区の男」、「俺を心配させないでくれ」と、優しさを演出しながら素顔はストーカー気質の「束縛男」。
 さらに、プライドだけはエベレスト級の高さ、母親から離れられないマザコン、ナルシストの吟遊詩人クンなど、出てくる出てくる。しかも、そうした男が身近にゴロゴロいるのが実感できるのが今の社会だけに、めっぽう面白い内容なのである。
 17人の妖怪男が紹介されているが、男の立場から読むと、どれか一つは自分に当てはまりそうで、怖さも半分感じる。「不倫おじさん」と名付けられたオヤジが発したひと言が掲載されており、いわく「妻は戦友。リラックスできるのはキミ」…ヤバい、妻帯者なら誰でも言ってしまいそうだ。
 これを読んで、自らの妖怪ぶりをチェックしてみてはどうだろう。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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