“現代の魔法使い”落合陽一×きゅんくん「“役に立たないロボット”を作り続けるために必要なこと」

“現代の魔法使い”落合陽一×きゅんくん「“役に立たないロボット”を作り続けるために必要なこと」

筑波大学で講義をする落合陽一(右)ときゅんくん(左)

『情熱大陸』出演で話題沸騰、“現代の魔法使い”落合陽一が主宰する「未来教室」。『週刊プレイボーイ』で短期集中連載中、最先端の異才が集う筑波大学の最強講義を、前編記事に続き独占公開!

ロボティクスファッションクリエイターのきゅんくんは現在23歳。これまでにこの「コンテンツ応用論」に登壇したゲストの中でも最年少だ。大学を中退し、メカエンジニアとして働きながらクリエイター活動を続けている。

彼女が製作するウェアラブルロボット『METCALF(メカフ)』シリーズは、AKB48の単独講演で使われたり、世界最大規模のクリエイティブ・フェスティバル「SXSW(サウスバイサウスウエスト)」のDMM.makeAkibaブースに展示されるなど、新しい「ファッション」として注目を集めている。

きゅんくんが手がけるロボットの特徴は、ズバリ「役に立たない」こと。ふつうロボットに期待される有用性とは離れたところで、彼女の創意は光る。

* * *

きゅんくん 「ロボット」とか「ウェアラブル」っていうバズワードについてはよく考えますね。ロボットは今まさにバズワードになってる状態だと思うし、意味が広すぎてなんでもロボットって言えちゃうから、これからバズが落ち着いたり沈んだりした時に自分はどう動いたらいいのかとか。

VR業界の人たちがそうだったみたいに、バズとバズの境目に何をすべきなのかな、と考えるけど…答えは出ないですね。私はバズだからロボットを作ってるわけではないので、作り続けるんだろうなとは思いますけど。

落合 なるほど。じゃあ「バズなものだから、きゅんくんに頼みたいんです〜」って頼まれたら、その仕事はどうやってこなしますか?

きゅんくん 「バズなものだから作って」って言われたら、いいんじゃないですか。でも、自分と関わりのないバズなものを作れって言われたら、スパイスで振りかけるくらいはできるけど、作ることはできないのかなと思います。

落合 それはアーティスティックでいい答えですね。これ、広告業界的な感覚の人だったら「お客さまに合わせて頑張ってつくります!」になる。

ちなみに、アーティストとしてのこだわりはどのくらいある? 例えば「こんなんじゃ展示したくない、帰る!」っていうようなことは?

きゅんくん それはない(笑)。ないですね、たぶん。

落合 でも、そういう状況ってけっこうあって、僕はよく自分の展覧会で「この状態でどこまで展示可能ですか?」って聞かれる。例えばお客さんが触って、ぼろって取れちゃったみたいなことがあった時に、取れたまま動かしとくのか、もう全部撤去してなかったことにするのか、みたいなこと。

きゅんくん 私はたぶん、取れちゃったままやる派ですね。以前、落合さんが展示の時に、見る人の視線を邪魔するパソコンがあるかどうかちゃんとチェックしてね、と指示を出されていたのを見たんです。私はパソコンが出てるほうがイケてると思ったから、ああ、ここが違いだって思って。

落合 きゅんくんの作品はいいんですよ。俺もパソコン出して見せる時もあるし。“ガジェットガジェットした感じ”の雰囲気でクールなのはいいんです。例えばシールがいっぱいくっついてるパソコンがあって、配線が伸びててなんかピカピカしてたらいいじゃないですか?

きゅんくん かっこいいですね。

落合 ただ、うちの学生がパソコン出してる時はテイストに合ってない場合が多いから、そこはチェックする。

僕はガジェットな物も作るし、逆につるっとした物も作るし、形のないものもけっこう作るから、割と「お仕事選ばず」という感じだけど、きゅんくんはガジェットなものに一貫してこだわってるなって思う。そこはかなりアーティスティックだよね。

きゅんくん 「きゅんくん」は一貫してますね。本名の「松永さん」なら、割といろいろつくりますけど。

落合 ああ、そういうことか!

きゅんくん 最近、ツイッターアカウントを分けたんです。アカウント一個のほうが一貫しててカッコいいって感じがしてたんですけど、きゅんくんアカウントで「CADで新しいやり方がわかったぜ!」みたいなツイートをしても、きゅんくんに興味がある人はそこに興味がないから。つぶやいて、シーン…ってなるのが悲しかったので、そういう話は本名アカウントのほうでしようと思って。

落合 それ、すげー頭いいなあ。なんか今、ちょっと僕の中ではウッ!ってきてる。僕は全部僕のアカウントでやってて、そのおかげでにわかなユーザーには僕が何してる人かまったくわからない。「なんか怪しい人」みたいな。一方で、数年前から僕のことをウォッチしている人は「なんか働き者だな〜」みたいな(笑)。

きゅんくん 落合さんを見ている層が幅広すぎるから、同じツイートでも読めるか読めないかが違ってきますね。

落合 あと、きゅんくんのいいところは、自分がモデルとして出ていかないところかなあ。自分が登場すると、どうしても賞味期限が出てくると思ってて。できる人はそれでカッコいいんですよ。要はココ・シャネルみたいになればいい。だけど、ココ・シャネルになれる時間って限られてるでしょ。







きゅんくん 最初の頃は自分で着てたんです。でも全部同じになっちゃうし、なんかつまんないなって。それとモデルを使うようになったのは、自分で着てるとロボットのメンテナンスができなかったっていうのが特に大きいですね。人が着てると後ろで作業したりできるんだけど。両方やるのはマジで無理(笑)。









落合 すっげーわかる、それ。

きゅんくん 撮影の日とか、そこに合わせて作るから、だいたい「何徹?」みたいな感じですよね。そんな状態で自分が出て、いい作品になるわけないじゃないですか。それだったらプロの人に出てもらったほうが確実にいい。







落合 それね、なかなかわかってもらえないことが多くて。めっちゃ疲れて今にも寝そうな状態で撮影、ってよくあるよ。ちなみに、製作する上での理想のチームは何人くらいですか?

きゅんくん 私はいまだにひとりなんですよね。一緒にやれる人がいたらいいなと思ったりはするんですけど。

落合 わかり合えないとか、そういうこと? 「きゅん語」が伝わらないとか?

きゅんくん 最近は世間の言葉に合わせる練習してます(笑)。メディアの力って、マインドとしてすっごく大きいと思って。

大学2年でウェアラブルロボットを作りだした頃は、「作りたいからやるんだよ」って状態だったんです。でも、気がついたらウェブメディアから取材を受けて、「この作品には何の意味があるのか」とか聞かれるようになって。

最初はそう聞かれることに反発もあったんですけど、そういえば、これってどういう意味があるんだろう…って考え始めました。広い範囲の人と話すと自分と違う感覚を知ることができて、そこから社会の中での立ち位置みたいな感じをつかみ始めて、最近急速にそれが進化したような気がします。

落合 俺はね、「俺語」が伝わらなかったから、伝わる人をつくるっていう活動をここ3年間やってきたら、だいぶしゃべりが通じる人が増えたよ。あと、本を書くのはいい。俺はラボを持った時に“聖典”が必要だと思って『魔法の世紀』を書いて、そろそろアップデートが必要だから、今度書き上げたばかりです。デジタルネイチャーの本!

では最後に、10年後の野望を聞かせてください。

きゅんくん この分野なら、この人に勝る技術力を持つ人はいない、みたいなエンジニアになっていたいです。メカで。私は役に立たないロボットを作っていますが、役に立つものを否定するわけじゃなくて、エンジニアとしてスペックを追求して、役に立つものを作りたいという思いもあります。

逆に、役に立つものを作れるような技術を持っていないと、この先ずっと役に立たないロボットを作り続けることはできないんじゃないかなと思います。むしろ、作っちゃいけないというか。自戒のように、そう考えています。

■「#コンテンツ応用論2017」とは?







本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論2017」付きで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

●落合陽一(おちあい・よういち)







1987年生まれ。筑波大学学長補佐。人間とコンピューターが自然に共存する「デジタルネイチャー」という未来観を提示し、同大助教としてデジタルネイチャー研究室を主宰。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。最新刊は『超AI時代の生存戦略 シンギュラリティに備える34のリスト』(大和書房)。

●きゅんくん







1994年生まれ、東京都出身。本名:松永夏紀。高校時代から「メカを着ること」を目標にロボティクスファッションの制作を続け、2014年からウェアラブルロボットの開発を進める。15年、米テキサスでの「SXSW2015」で「METCALF」発表。16年、「METCALF clione」発表。同年3月には、AKB48単独公演でメンバーが「衣装」として「METCALF stage」を着用したことでも話題に。

(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生)

関連記事(外部サイト)