伊藤裕一と坂元健児が挑む心理劇『フェイス』開幕

伊藤裕一と坂元健児が挑む心理劇『フェイス』開幕

舞台「フェイス」より 伊藤裕一

劇作家の西森英行による書下ろしのふたり芝居『フェイス』が9月21日、浅草九劇で開幕。

ある青年と精神科医の数年ぶりの再会から始まる物語。劇場に足を踏み入れると、そこには四方を客席が取り囲むひとつの空間が。観客はその空間(=密室)で繰り広げられるふたりのやり取りの始終を目撃することとなる。

かつての、そして今のふたりの関係は…。その謎のひとつひとつが明かされていく一方で、現在進行形の事件の謎も投げかけられる。このふたつの謎解きが両輪となり進むサスペンスタッチの展開に引き込まれ、やがてたどり着く心の深淵。劇場空間が一体となって一気に駆け抜ける70分間、頭も心もフル回転し、観劇後は心地よい疲労と時間をかけて咀嚼したくなる余韻が残る。

そんな密室劇、心理劇、ふたり芝居、客席が囲む舞台…さまざまな圧の中で、キャラクターに命を吹き込むのは伊藤裕一と坂元健児。圧をもろともせずに、見事にふたりだけの美しく、激しく、切ない世界を体現している。明かせないことが多くあるため、詳細を語ることは控えるが、伊藤の繊細さ、坂元の温かさを起点に、ふたりともこれまでに見せたことのないような表情、芝居を見せる。

西森の脚本・演出は、自身が心理学に精通しているからこそのリアリティと演劇としてのエンターテインメント性を持ち合わせる。俳優が発する研ぎ澄まされた言葉、台詞がときに突き刺さり、ときに優しく包む。そんな緊張と緩和が織りなす展開に、客席から笑いがこぼれる瞬間も。小道具も最小限、そんなシンプルな舞台では芝居を彩る“音”、“光”も非常に大きな効果を持つ。舞台にのめり込むほどに目、耳、心の感度が自然と上がっていた。生の舞台の醍醐味がそこにあった。

『フェイス』というタイトルに潜むふたつの意味、〔face…顔、表情、対面する/faith…信頼、信仰、誠実、約束〕が導く物語の結末は光なのか闇なのか。それは最終的には観る者に委ねられる。でも、きっと…。そう信じたくなる青年と精神科医の物語に、観劇後も心を寄せたくなる。

公演は9月29日(金)まで浅草九劇にて上演。チケットは当日引換券が発売中。

取材・文 功刀千曉