三谷幸喜の代表作が、25年ぶりに自身の演出で甦る

三谷幸喜の代表作が、25年ぶりに自身の演出で甦る

撮影:源 賀津己

三谷幸喜の代表作のひとつである『笑の大学』が、初めて三谷自身の演出により上演。そこで本作にかける想いを三谷に訊いた。

1996年の初演、その2年後の再演(共に山田和也演出)以降、映画化、翻訳上演などを除けば一度も上演されてこなかった『笑の大学』。その理由を問うと…。「僕にとってはすごく特別な作品なんですよね。そんな大事な作品であるだけに、それを託せる俳優さんがふたり揃わなければやるべきじゃないし、やりたくないとも思っていて。それで25年もの年月が空いてしまったわけですが、このタイミングで信頼する内野聖陽さんと瀬戸康史さんに出ていただけることになり、それが今上演しようと思った一番の理由です」

昭和15年を舞台に、警視庁検閲官の向坂と、喜劇を売りにする劇団・笑の大学の座付作家・椿の攻防を描いた本作。その誕生のきっかけは、三谷の実体験から。「もともと僕はなんの制約もない小劇場という世界にいたせいか、テレビドラマを初めてやった時に衝撃を受けたわけです。もう制約だらけで。ただそのいろんな制約をクリアしつつ、さらにプラスのものに作り変えていく。それはいまだ自分の仕事のやり方のような気がしています。つまり椿は僕自身であり、向坂は僕の前に立ちはだかる制約。それをひとりの人間に置き換えて作ったのがこの作品なんです」

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でも話題を呼んだ三谷だが、コロナ禍においてその制約はさらに厳しいものになったと言う。「一度書いた台本について、『今この人はコロナでお休みなので、今週撮影出来ません。書き直してください』といったことは当然出てくるわけです。その結果、自分の理想から遠ざかっていくのが耐えられない、という作家の方もいるとは思いますが、僕はなんだか嬉しくなっちゃうんですよね(笑)。それを逆手に取って、もっと面白くしてやろうと。椿のようにうまく出来たかどうかはわかりませんが、そういうことに知恵を絞るやり方が僕には向いている。それは25年前から変わらないと思います」

そんな三谷の原点とも言える作品、さらにタイトルからテーマは“笑い”なのかと思いきや…。「笑いについての物語ではありますが、僕がここで描きたいのは、“ものを作る上での妥協とはなんなのか”ということ。それはどんな国、どんなモノ作りの現場でも起きていることで、だからこそ海外でも上演されている。笑いにこだわらない、普遍的なテーマがこの作品にはあると思っています」


取材・文:野上瑠美子
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