大坂の陣は、失業者や就職浪人たちの総決起集会だった! 大河ドラマよりもひと足先に『真田十勇士』が劇場公開

大坂の陣は、失業者や就職浪人たちの総決起集会だった! 大河ドラマよりもひと足先に『真田十勇士』が劇場公開

真田丸に勢ぞろいした真田十勇士と真田幸村。長いものには巻かれろという世間の風潮に物申す。

 脚本家・三谷幸喜の筆が冴えるNHK大河ドラマ『真田丸』はクライマックスに向かって着実な盛り上がりを見せているが、真田家の名前を広く後世に伝えることになる大坂冬の陣・夏の陣をひと足早く一挙公開してしまうのが、堤幸彦監督の映画『真田十勇士』だ。『真田丸』では佐助しか出てこないが、こちらは講談ものや辻村ジュサブローの人形劇でおなじみ真田十勇士が真田幸村(信繁)のもとに勢ぞろい。十勇士に扮するのは、中村勘九郎、松坂桃李、永山絢斗ら若手俳優たち。プラス、大島優子もくのいち役で登場。史実や時代考証に縛られることなく、スクリーン上で大暴れする。

 時は1614年。関ヶ原の合戦に大勝した徳川家康は江戸幕府を創設し、戦国時代はすでに終わりを告げつつあった。260年あまり続くことになる盤石の支配体制を打ち立てる徳川政権に対し、「ちょっと待った!」を掛けたのが猿飛佐助たち真田十勇士だった。江戸幕府は絶大な力を握ったが、当時は滅亡した戦国大名が多く、主人を失った浪人たちが全国に溢れていた。野武士なのか盗賊なのか、職業がはっきりしない輩もうようよしていた。安定した新時代になじめないそんな流れ者たちが、今は亡き豊臣秀吉が築いた名城・大坂城へとぞくぞくと集まる。いわば、大坂の陣は失業者や就職浪人、危ないことが大好きな半グレ集団たちによる、当時の絶対的与党・徳川政権への大決起集会だった。

 10万人ものはぐれ者たちが集まった大坂城の中で、豊臣秀頼の母・淀君から大きな期待を寄せられたのが戦国時代を生き抜いてきた知将・真田幸村だった。だが、マキノノゾミ脚本&堤幸彦監督版『真田十勇士』では、真田幸村は超ビビりキャラとなっている。極度の恐がりゆえに、これまで何とか生き延びてきた真田幸村(加藤雅也)だったが、周囲から名将だ忠臣だとおだてられ、うっかり大坂城に入城してしまった上に、出城の真田丸まで築いてしまい、徳川勢と最前線で戦うはめになる。途方に暮れる真田幸村だったが、そんな彼に常に綿密に作戦を与えているのが“抜け忍”である猿飛佐助(中村勘九郎)だった。口がうまく、情報収集能力に優れた佐助は「最後まで嘘をつきとおせば真実になる」と幸村をそそのかし続ける。戦国の世も、もうすぐ終わり。最後の最後に後世に語り継がれるような大きな大きな打ち上げ花火を咲かせましょうや。佐助の甘言に、幸村も霧隠才蔵(松坂桃李)ら他の十勇士たちも釣られてしまう。

 主演・松田翔太、ヒロイン・前田敦子の『イニシエーション・ラブ』(15年)で観客を大いに欺いてみせた堤監督ならではの、アニメーションあり、CGありのおかしなおかしな時代劇だ。どれだけでっかい大ウソがつけるかを、堤監督はこれまでずっとモチーフにしてきた。人気シリーズ『TRICK』(テレビ朝日系)では純真な信者たちをカモにする新興宗教の教祖やエセ霊能者たちが跋扈した。人気コミックを実写映画化した『20世紀少年』三部作(08年〜09年)は、主人公・ケンヂよりも“ともだち”に感情移入したドラマとなった。日刊サイゾーで堤監督をインタビューした際、原作よりも“ともだち”への肩入れが強くなっていることを尋ねたところ、「僕には“ともだち”の気持ちがわかる」と明言した。繊細な心を持つ堤監督は、学生時代は学校生活になじめなかったことを語ってくれた。売れっ子ディレクターとなってからも、俳優たちがいる賑やかな撮影現場よりも少し離れたモニターの前に佇むことを好んでいる。現実の世界をウソの世界に変え、ウソの世界を現実にしてしまいたい。『20世紀少年』の“ともだち”が壮大なかくれんぼを仕掛けたように、堤監督はテレビ界と映画界を股に掛けて次々と大ボラを吹き続ける。堤作品には虚構の世界でしか生きられない人間の哀しみが付きまとう。

 日本古来の伝統芸能である歌舞伎界には、それこそ忍者かよと思うくらい特殊技能や運動神経が発達した役者が大勢いる。幼い頃から英才教育を受けて育った中村勘九郎も十勇士のリーダー・佐助役で身体能力の高さを存分に発揮してみせる。最後の戦いとなる大坂夏の陣では、火だるまになってのアクションシーンにスタントマンなしで挑戦してみせた。主演俳優がここまで体を張るケースは、近年の日本映画界では非常に稀なことだ。堤監督が用意した大ウソの世界に、中村勘九郎の歌舞伎魂が共鳴する。そのとき、虚構の世界からフィクションであるはずの十勇士たちが次々と浮かび上がってくる。現実の世界になじめなかった者たちの、史実に対するパルチザンが繰り広げられる。

 多分、まともな映画評論家は本作をマジメに評論することはしないだろうし、まともな映画祭で本作が作品賞に選ばれることもないだろう。それゆえに、本作をスクリーンで観てしまった観客は、堤監督や中村勘九郎たちが懸命になって吹いた大ボラが妙に心に残るに違いない。退屈な現実を凌駕する、でっかいでっかい大ウソをついてやれ。『真田十勇士』はおかしなことに夢中になる、おかしな大人たちのおかしな物語だ。
(文=長野辰次)

『真田十勇士』
監督/堤幸彦 脚本/マキノノゾミ、鈴木哲也 出演/中村勘九郎、松坂桃李、大島優子、永山絢斗、加藤和樹、高橋光臣、石垣佑磨、駿河太郎、村井良大、荒井敦史、望月歩、青木健、伊武雅刀、佐藤二朗、野添義弘、松平健、加藤雅也、大竹しのぶ 配給/松竹、日活 9月22日(木)より全国ロードショー
(c)2016『真田十勇士』製作委員会
http://sanada10braves.jp

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