10代・20代は「苦しかった」 鈴木杏、30代になって変化した芝居への向き合い方

10代・20代は「苦しかった」 鈴木杏、30代になって変化した芝居への向き合い方

舞台『凍える』に出演する鈴木杏 クランクイン! 写真:松林満美

昨年は優れた舞台作品や演劇人を表彰する、第28回読売演劇大賞の大賞・最優秀女優賞を受賞し、今秋にはセンセーショナルな内容に3人芝居で挑む『凍える』に出演する鈴木杏。30代に突入してより豊かさと深みを増した俳優として、あらゆる作品でキラリと光る存在感を発揮している。10歳で大役を担ったドラマの思い出や、「苦しかった」という10代から20代、「おおらかに芝居と向き合えるようになった」という今の心境までを、鈴木が明かした。

■“表れては消えていく”という儚さが魅力―― 舞台は「人間として鍛えられる場所」

 10月2日に幕を開ける舞台『凍える』は2004年にニューヨークで上演されて評判となり、トニー賞のBEST PLAYにもノミネートされたヒューマンサスペンス。幼少期に受けた虐待で患った疾患により、児童に執着して殺人を繰り返すラルフ(坂本昌行)と、娘を殺されたナンシー(長野里美)、ラルフを担当する精神科医アニータ(鈴木)の姿から、それぞれの心に潜む憎悪や悲しみ、絶望感を描き出す。

 演出は、鈴木が第28回読売演劇大賞で受賞を果たした一人芝居『殺意 ストリップショウ』も手がけた栗山民也が担当。脚本を受け取った鈴木は、「栗山さん、また大変な戯曲を選んだなあと思って」と苦笑い。「セリフには書かれていない、余白の部分がとても大切になる作品」と難役だと感じつつ、「今、毎日のように児童虐待のニュースが流れてきますが、アニータとして脚本を読んでいても、そういった問題に対して社会はどのように関わっていくべきなのかと考えさせられました。戯曲を飛び越えて、私自身も身近な問題としてのメッセージを受け取った気がしています」と思考を深めながら、作品と格闘しているという。

 坂本、長野との3人芝居。劇中では緊張感あふれるやり取りが続くが、鈴木は「それぞれが自分のやるべきことに立ち向かっていて、とてもストイックな稽古場」と印象を吐露。

 「坂本さんは役を深めていくスピードがとても速くて、キャラクターが日を追うごとに多面的になって、どんどんグラデーションが見えてくる。長野さんは、日常が見えるお芝居をされる方。生活感がにじみ出てくるようなすばらしいお芝居で、私が今までにあまり出会ったことのないようなタイプの女優さんだなと感じています。私たち3人のお芝居のカラーがそれぞれ違うので、観てくださる方もきっと面白いはず」と共演者から刺激を受けながら、充実の稽古期間を過ごしている。

 演じるアニータについては、「仕事をしている時の顔はすごく真面目で、ある意味、完璧主義者。でも内側には孤独を抱えていて、大きく揺れている。そのギャップを伝えられたらと思っています」と意気込んだ鈴木。稽古を積み重ね、役柄を掘り下げていく過程は、「これまでどんなふうに生きてきたのかなど、自分という人間にも向き合うことになるし、人間として鍛えられているよう。私にとって舞台は、そういう場所です」とにっこり。「舞台って、公演中毎日同じことを繰り返していく不思議な作業だと思うんです。でも毎日同じことをやっても、絶対にその瞬間、瞬間がいつも変わっていく。“表れては消えていく”という儚(はかなさ)さが舞台の魅力だと思います。また観る側として考えると、生身の人間が“生きている”ということを見せてくれるもの。そこによさを感じています」と舞台に魅了されている。

■放送から25年! ドラマ『青い鳥』がなかったら俳優業を続けていなかった

 9歳で、子役として芸能界デビューした鈴木。1997年のドラマ『青い鳥』(TBS系)では、周囲の大人たちに翻弄される小学生の誌織役を演じ、豊川悦司演じる“駅長さん”と絶妙な掛け合いを見せて視聴者をくぎ付けにした。鈴木にとって『青い鳥』は、「自分の基礎を作ってくれた作品」だと告白する。

 「親元を離れて、地方での撮影がずっと続いていましたが、共演者の皆さんがとても優しくて、現場がとても楽しかったんです。もし苦しい記憶が残ってしまっていたら、絶対にここまで俳優のお仕事を続けられていなかったと思います。そこで喜びを得られたことが、私にとってとても大きなことでした。今では誌織を演じている自分を別人のように見られるので、“この子、小さいのにちゃんとお芝居しているな”という感じで(『青い鳥』を)観ちゃいます」と笑う。

 2003年には、16歳で『奇跡の人』のヘレン・ケラー役で初舞台を踏んだ。それ以降、故・蜷川幸雄さんや野田秀樹ら名だたる演出家の舞台に出演し、「舞台の魔物に取りつかれてしまって。大好きになってしまった」という鈴木だが、10代から20代は「とても苦しかった」と打ち明ける。

 「それくらいの年齢って、感受性や自分という人間自体が育っていないので、できないことの方が圧倒的に多くて…。コップが浅いのに、深みのある表現を求められるというか。毎作品ごとに、自分の中身が追いついていないのに、常に目の前にやらなければいけないことがある状態」ともがいていたが、役者の本質を見抜く蜷川と対峙(たいじ)することで、自分の可能性を広げていった。

 今でも忘れられない言葉があるといい、「蜷川さんはよく、“自分を疑え”とおっしゃっていました。“これでいいのか?”“まだ見つかるはず”と、常に自分を疑い続けることが大事なんだって。稽古中はそうやって役柄や表現を深めていきますが、本番中は“自分を疑うこと”を手放すことが必要になる。それを教えてくれたのが小川絵梨子さんです。いろいろな人に支えていただき、いろいろな要素を教えていただいたことで、今の私がいる。本当にありがたいなと思っています」と感謝をあふれさせる。

■「芝居しかないと思っていた」頑なだった心…。30代を迎え、おおらかに

 35歳となった今年はNHK土曜ドラマ『空白を満たしなさい』で、死んだはずの夫が生き返り、動揺する妻の心情を繊細に演じ、『拾われた男 Lost Man Found』(BSプレミアムドラマ/ディズニープラス)では、主人公の俳優をサポートする頼もしいマネージャー役として出演。どちらも鈴木の存在が、作品の味わいを一層豊かなものにしていた。苦しかった時期を経て30代となった今、心境に変化があったことは? 鈴木は「あまりお芝居にしがみつかなくなった」と穏やかにほほ笑む。

 「『殺意 ストリップショウ』で一人芝居をやったことも大きいと思いますが、自分に信頼の気持ちも抱けるようになって、人にも、自分に対しても素直でいられるようになったように思います。虚勢を張ることもなくなった」と語り、さらに「以前は、“自分には芝居しかない”とも思っていて。自分のアイデンティティと芝居が一体化してしまっていたんです。今は距離感をうまく保ちながら、少しずつ芝居に依存しなくなっていった。しがみついていると必死になりすぎてしまうので、それってあまりよくないなと思って。もう少しおおらかで、楽な気持ちでお芝居に向き合えるようになりました」と肩の力が抜けて、心にいい風が吹いている様子。

 30歳を前に絵を描き始めたことも、自身を客観的に見つめるいい時間になっているのだとか。鈴木は「『ほぼ日手帳』を使っているんですが、1日1枚のフリースペースをうまく使うことができず、ずっと“どうしようかな”と感じていて。2016年の元旦に“絵でも描いてみようかな”と思ったことをきっかけに、絵を始めてみました。するとすごく楽しくなってしまって!」と芝居以外にも時間を忘れて打ち込めるものを見つけ、今年の夏には初絵画展「この世界、すべてがキャンバス~鈴木杏のアトリエ展~」も開催している。

 「私はそんなに器用なタイプではないんですが、絵もそうですし、お芝居にしてもドラマや映画、舞台、そしてナレーションなど、極められることが多岐にわたっていくといいなと思っていて。自分自身を見ながら、“いろいろやっていて、面白いよね”と思える人になりたいです」と楽しそうに語っていた。(取材・文:成田おり枝 写真:松林満美)

 パルコ・プロデュース2022『凍える』は、東京・PARCO劇場にて10月2~24日、福島・いわき市芸術文化交流会館アリオス中劇場にて10月30日、兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホールにて11月3~6日、愛知・穂の国とよはし芸術劇場 PLAT 主ホールにて11月10~13日、長野・まつもと市民芸術館 主ホールにて11月16~17日、新潟・りゅーとぴあ・劇場にて11月26~27日、福岡・北九州芸術劇場 中劇場にて12月3~4日、沖縄・那覇文化芸術劇場 なはーとにて12月10~11日上演。

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