『アリスとテレスのまぼろし工場』上田麗奈、“逆が多い”ヒロイン・睦実の複雑な感情は「絵と一緒に作っていく」

『アリスとテレスのまぼろし工場』上田麗奈、“逆が多い”ヒロイン・睦実の複雑な感情は「絵と一緒に作っていく」

上田麗奈 クランクイン! 写真:高野広美

オリジナルアニメーション映画『アリスとテレスのまぼろし工場』が、9月15日より全国公開。本作は、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などで知られる岡田麿里が脚本・監督を務め、数々のヒット作を手がけるスタジオMAPPAとタッグを組んで贈るオリジナル作品となっている。物語の舞台となる“変化”を禁じられた世界で謎めいたヒロイン・佐上睦実役を演じるのは、声優の上田麗奈。彼女は作品の印象について「ひりついていて、寂しくて、でもちょっとした色気も感じた」と口にし、声と絵のお芝居によって完成したという本作の面白さについても語ってくれた。

■睦実は「逆」が多すぎるキャラクター

――本作のシナリオを読んだときの感想を教えてください。

上田:少年少女たちの学園生活を描くとなると、爽やかさやキラキラした青春を想像しがちですが、この作品はひりついていて、寂しくて、淡々としているんです。こういう学園生活を物語として描くことに衝撃を受けました。また、寂しさと一緒に、ちょっとした色気みたいなものも感じて。そこがまたこの作品の魅力だと感じています。

――色気というのは恋愛的な面においてですか? それとも、作品全体がかもし出す雰囲気みたいなものでしょうか?

上田:両方かもしれません。少年少女のいっぱいいっぱい感や切実さ、そういったリアルな息遣いが色気につながっているような気もします。あとは絵の雰囲気。全体的な色味や髪の毛の細かい描き方などのビジュアル面からも色気を感じます。ポスタービジュアルのシーンも、なんだか見ていてドキドキするんですよね。あまり嬉しそうでもないし、楽しそうでもない表情。むしろちょっと苦しそうに見えるけれど、グッとくるんです。

――ポスタービジュアルに描かれているのが作中のどのシーンなのかにも注目ですね。続けて、本作で上田さんが演じる佐上睦実の紹介をお願いします。

上田:睦実は一見ミステリアスで何を考えているか分からないクールな女の子です。でも実は、心の中は誰よりも渦巻いていて、荒々しいんです。彼女は「何も変えてはいけない」というルールが課された世界で、ある秘密を知ったことで心が動いてしまいそうになるけれど、どうにかして動かさないよう自分を律しているんです。いっぱいいっぱいで、危うさもある子だなと思いました。

――作品を何も知らない状態で観ると睦実は、「えっ、この子は何でこういう感情になるの?」と思われそうなキャラクターかもしれません。

上田:そうですね。なんで急にこんな感情が尖るんだろうとか、逆にここはどうしてクールでいられるんだろうと、不思議に感じる方も多いと思います。私は本作のキャストが正式決定する前のテスト収録から参加させていただいているのですが、そこから台本を読んで、映像を見ていくなかで「だからここで感情が高ぶっていたんだ」と、ちょっとずつ理解できることが増えていきました。

――個人的には、絵から読み取れる情報と心のなかの動きが違う部分もあるキャラクターに感じました。

上田:そうなんです! 彼女は気持ちとは逆のことを言っていることもあって、逆のことを言っているときも発する言葉のニュアンスは本物なんだけれど、実は本心は違うところにある。だからこそ逆の感情がアウトプットされてしまうみたいな感じなんです。もう「逆」が多すぎるキャラクターだったので、探るのが大変でした。どこが元の彼女の気持ちなのか、注意深く台本を読んでいましたね。

■声と絵が一緒になってひとつのお芝居が生まれる

――「逆」が多すぎるキャラクターということですが、それを声で表現するのは難しかったのでは?

上田:難しかったですが、声だけで何とかしなきゃという気持ちではあまり臨んでいませんでした。というのも、アニメーションって、声と絵が一緒になってひとつのお芝居が生まれるジャンルだと思うんです。あるシーンでは声が9割だけれど、別のシーンでは絵が9割のお芝居をしていることだってあるんじゃないかな。特にこの作品は、事前に「声を受けてから絵の表情を変える」と伺っていたので、いつも以上に「一緒に作っていく」という感覚がありました。ですから、スタッフさんを信頼してあまり難しく考えることもなかったんです。

――今のお話しは、アニメーションならではの魅力や面白さかもしれません。

上田:そうですね。テスト収録から何回も同じシーンを演じる機会があったのですが、演じる度にちょっとずつ絵も進化していったんです。制作スタッフのみなさんが、とても柔軟に対応してくださったんじゃないかと。

――収録は主人公・菊入正宗役の榎木淳弥さんや野性の狼のような謎の少女・五実役の久野美咲さんと一緒にされたとお聞きしました。おふたりとの掛け合いはいかがでしたか?

上田:正宗はすごい熱量を持って心を動かしながら言葉をかけてくるんですけれど、睦実はある理由からほだされる訳にはいかず、冷たく返すんです。ただ、榎木さんのパワーがすさまじくて、同じ熱量で返してしまいそうになってしまいました。でも、睦実はそうじゃないから熱を発しちゃいけない。その気持ちの反動が大きすぎて結果、アンニュイなアウトプットになったんです。テスト収録のときはもうちょっと男の子っぽいニュアンスが乗っていたセリフも、榎木さんが演じる正宗と出会ったことによって、女の子になっちゃいました(笑)。それが悔しくもあり、面白くもあり、という収録だったと感じています。

――それほどのパワーがあったんですね。久野さんとはいかがでしたか?

上田:美咲ちゃんからもとてつもないパワーを感じました。美咲ちゃんとはテスト収録のときから一緒だったのですが、収録の度にセリフのニュアンスが変わるんですよね。どんどんブラッシュアップされた五実になっていきました。その度に新鮮な会話ができたので、とても楽しかったです。


■何かに生まれ変わるというよりも、見方が増えていくという変化

――本作は“変化”がひとつのキーワードとなる物語です。上田さんは声優デビューした時と比べて、お芝居への向き合い方が変化したと感じていますか。

上田:感じています。180度考え方が変わったこともありました。ただ、変わったことで「それが正解なのかも」と思って突き進んでいると、「あれ、やっぱり正解じゃなかったかも」と覆されることもあって。今はその連続って感じです。そして、そのたびに成長しているんじゃないかなと思います。

――何が正解なのかは分からないし、正解はひとつじゃないかもしれない、ということでしょうか。

上田:例えばアートもそうだと思うのですが、知れば知るほど知識が豊富になり、モノの見方がどんどん増えていくんですよね。お芝居でも「あっ、私はこっちの見方しか知らなかったんだな」と思う瞬間がいっぱいあって。だから、向き合い方の変化という点で言えば、何かに生まれ変わるというよりも、見方が増えていくという感じですかね。何が正解か分からないというのは本当にその通りだと思います。ぜんぶ正解なのかもしれない。見え方や角度は人の数だけあると思うので、この先も衝撃を受けるんだろうなと思います。

――本作における“変化”も、人によっては正義になるということがあるかもしれませんね。

上田:人って、それぞれ考え方が違うじゃないですか。でもアニメーションって、たくさんの人たちが集まって、考えをひとつにまとめて作品にするんですよね。「それって、難しいよね?」と思うのですが、難しいことを楽しんでやれちゃう人がこの業界には多いんです。悔しい、分からないという気持ちと一緒に、楽しいな、知りたいなというポジティブな気持ちを感じていける限りは、きっと私もこの仕事を続けたいと思うんだろうな。

――最後に、本作の公開を楽しみにしているみなさんへメッセージをお願いします。

上田:正直なところ、このインタビューでも「これで合っているのかな」と考えていたら、本心を上手く言語化できなかったことがあった気がしています。もしかしたら同じようなスッキリしないものを抱えて、本作のキャラクターたちはフィルムのなかで動き回っているのかもしれません。でも、複雑だったり面倒くさかったり、もどかしいという感情を抱えているからこそ、人とつながったときに、爆発力が生まれるのかも。そういう感情の動きや、つながりを本作では楽しんでいただけるはず。そして、「もう一回見よう」と思っていただけるはずです。何度か観てみると自分なりの答えが見つかる作品だと感じていますので、それも込みでまずは一度、劇場で本作を観てみてください。

(取材・文:M.TOKU 写真:高野広美)

 映画『アリスとテレスのまぼろし工場』は、9月15日全国公開。

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