『この世界の片隅に』8月米公開!片渕監督「観客の距離感は変わらない」

『この世界の片隅に』8月米公開!片渕監督「観客の距離感は変わらない」

映画『この世界の片隅に』より - (C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 第40回日本アカデミー賞で最優秀アニメーション作品賞を受賞した映画『この世界の片隅に』の米公開を8月11日に控え、6月30日(現地時間)、片渕須直監督が電話インタビューに応じた。

 1944年の広島。18歳のすず(のん)は、顔も見たことのない若者と結婚し、故郷から離れた呉に来る。これまで得意な絵ばかり描いてきた彼女は、一転して一家を支える主婦となり、試行錯誤しながら食糧難を乗り越えていく。だが戦争が激しくなり、日本海軍の要である呉は米軍の空襲にさらされ、町も破壊されていく……。こうの史代の同名コミックをアニメ映画化した。

 母国でいかに戦争と向き合うかという題材は、新藤兼人監督の『一枚のハガキ』をほうふつさせるが、本作を手掛けるにあたり、原作のどのような点に惹(ひ)かれたのか? 片渕監督は「僕が手掛けた『マイマイ新子と千年の魔法』をこうのさんがご覧になって、そこで描かれている日常に原作と共通する部分があると言ってくださったんです。僕自身も作品を通して、もう一度日常をクローズアップし、アニメ映画の中で描きたいと思っていました」と出発点を明かす。続けて「彼女の原作に出会って思ったのは、日常をただ描くだけではなく、背景に戦争という大きなテーマを置いたときに、日常の意味合いがより際立つということでした。洗濯や料理をしているとき、家の前の海には戦艦大和が停泊しているところを描くと、より観客に明確に伝わると思ったんです」と語った。

 映画化に向けて動き出して少しした頃に東日本大震災があり、作品とも重なる思いがあるという片渕監督。「かつて手塚治虫さんの虫プロダクションにいた丸山さん(企画:丸山正雄)と共に製作を呼びかけていたときに震災がありました。彼は故郷の宮城の様子をテレビで見て『一度製作活動を中止して、自分の貯金を持って故郷の友人を救援したい』と言ったんです。そんな経緯もあって、どうしても震災と重なる部分がありますね」と振り返る。

 のんを声優として配役したことについては「『あまちゃん』の潜水インストラクターの人たちを、僕は以前から知っていて、彼らから当時の『あまちゃん』の撮影背景や、のんさんがどんな人となりで、どんな風に演技に対して向き合っているのかを聞いていました。アニメは絵が先にできて後で音を入れるので、絵を作る際にどんなニュアンスで、どんなタイミングでしゃべるのか想像するのですが、すずの声はのんさんの声が良いなとそのときに思っていたんです」と片渕監督。それだけにのんの声は、まさしく自然に耳に入ってくる感じだ。

 音楽を担当したコトリンゴについては「2009年の1月に『マイマイ新子と千年の魔法』が完成した際、エンディングにふさわしい曲を作り、歌ってくれるアーティストを半年かけて探していました。その時に巡り会ったのが彼女でした。その後、彼女から『新しいカバーアルバムを作ったので見本を送ります』と送られてきた作品の中に、今回主題歌に使った『悲しくてやりきれない』がありました。彼女のその曲が、自分がやろうとすることを表現していると思ったんです」と今作への思いと曲が偶然にも見事に合致したことを明かした。

 アメリカの観客に対しては「日本の多くの観客にとっても70年以上前の戦争の時代は別世界であり、セリフも広島弁です。でも、そんな小さな所に一つの世界があり、その中に住むすずを見てください! というのが今作ですので、今の日本と海外の観客の距離感は変わらないと思います」と作品への思いを語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)

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