元パンクロッカー禅僧が自殺防止活動に注力する姿を追ったドキュメンタリー

元パンクロッカー禅僧が自殺防止活動に注力する姿を追ったドキュメンタリー

自殺防止活動に注力する禅僧の姿を追ったラナ・ウィルソン監督

 自殺防止活動に注力する禅僧を描いた話題のドキュメンタリー映画『ザ・ディパーチャー(原題) / The Departure』について、アメリカ人監督ラナ・ウィルソンが9月27日(現地時間)、PR会社スーザン・ノーゲットのオフィスでインタビューに応じた。

 元パンクロッカーの臨済宗住職、根本一徹さんは、現在は岐阜県関市の大禅寺を拠点に、自殺防止の相談を受け、日々深刻な問題を抱える自殺願望者たちに全身全霊で語りかけている。アメリカ人であるウィルソン監督が、臨済宗の住職、根本さんを知った経緯は「ニューヨーカー誌で根本一徹さんについて書かれた記事を読んだの。読んですぐに、彼の行っていることに興味を持って、もっと彼のことが知りたいと思ったわ。特に、彼に助けを求めてきた人たちに対して、彼はどのような言葉をかけたのかが気になり、その場に居たいとも思ったのよ。そこで、大禅寺のことを知り、死に対して真剣に向き合う機会を観客に提供できるのではないかと思ったのが製作のきっかけだったわ」と明かした。

 臨済宗住職の撮影や、深刻な問題を抱える自殺願望者を扱ううえで、外国人であるウィルソン監督はどのようなアプローチをして撮影許可を得たのか。「最初に大禅寺を訪れた時は、撮影カメラを持たずに行ったわ。その前にニューヨーカー誌の記事を読んだ別の記者が、根本さんを紹介してくれたのもあって、最初の会合ではできる限り根本さんを知ろうとしたの。その時の彼は住職とは思えないほどヒッピーな格好をして車で駅前に現れたわ。車の中でもどっしりと座って、とても落ち着いた感じだったわね。その時点で、なぜ深刻な問題を抱えた人たちが、根本さんに自分の思いを吐露できるのか理解できた気がしたの」と語った。その後、アメリカに帰国した彼女は、今作の共同制作者エリ・ヨコヤマの助力を得て、大禅寺の撮影の許可を得たという。

 映画内で、根本さんは日々、自殺願望者たちからメッセージや電話を受けているが、彼はどのように自身のプライベートの生活と区別しているのか。「彼自身は、できる限り自身の仕事と家庭生活を区別しようとしているわ。でも映画を観ればわかると思うけど、彼は自宅でもメッセージや電話を受けたりして、その境界が曖昧になっているわね。それでも彼には理解のある妻がいて、彼が青年時代にバイク事故を起こした際に、看護師だったのがその奥さんなのだけど、ある意味、今でも彼女が看護師のように彼の身の回りの世話をしていることが、彼の支えになっているんだと思うわ」と答えた。

 深刻な悩みを抱える自殺願望者たちが、医療機関に通ったりする中で、精神的な病を患っていることを世間の人々に認識されると、再び通い続けるのは難しいのではないだろうか。「わたしが大禅寺を訪れたときに出会った自殺願望者の中には、心療内科などさまざまな医療機関を経て、最後に行き着いたのがこの大禅寺だった人たちがいたのだけど、心療内科では、この大善寺のように10人前後のトークセラピーを行ったりしないそうよ。それに自殺願望者も身近な人や家族が自分を愛してくれていることを理解しているから、自殺願望者にとっては、意外と身近な人や家族に自分の葛藤を話すことの方が難しい時もあるの。だから、むしろ他人に話すことが楽だったりすることもあるわ」と医療機関でケアする難しさも語った。

 今作を手掛けたことで、「死」に対する価値観が変わったかと聞いてみると「『死』と同様に学んだのが『生』だったわ。周りにある小さな出来事や人生において人とのコネクションが重要で、ある料理の味覚、桜の花見、太陽の日差しを浴びた肌など、そんな小さな体験を積み重ねたのが自分たちの人生だと思うの。そして、その喜びを得るために、わたしたちはこの地球に存在している。だから、『死』に対する価値観みたいな大きな質問に、無理に答えなくていいと思うのよ」と今作の製作経験があってこその自身の考えを述べた。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)

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