犬にない猫の魅力って?全米1館→130館ヒット作の監督に聞く

犬にない猫の魅力って?全米1館→130館ヒット作の監督に聞く

『猫が教えてくれたこと』に登場する美食家デュマン - (C) 2016 Nine Cats LLC

 アメリカで1館のスタートから130館に拡大公開する大ヒットを記録したドキュメンタリー映画『猫が教えてくれたこと』(11月18日公開)で、華々しく長編監督デビューを飾ったチェイダ・トルン監督。「全ては生まれ育ったイスタンブールにいる猫たちへの愛」から始まったというトルン監督に、猫が人にもたらす効果について聞いた。

 「猫の街」として知られるイスタンブールを舞台に、礼儀正しい美食家のデュマンやダンナを尻にしく気性の激しい雌猫“サイコパス”、遊び人のガムシズなど7匹の猫たちを通して人々と猫の関係を追う本作。一般的に猫は、「盲導犬」「警察犬」「介助犬」などで活躍する犬と違って直接的に人を助ける動物とされていないが、この映画に登場する人々は猫を救うことで自らも救われているのが印象的だ。猫の魅力とはズバリ何なのか? 監督はこう持論を展開した。

 「確かに、犬や馬とは違って“仕事”をする動物ではないわよね(笑)。でも、だからこそ猫から学ぶことがあると思うの。猫は、いわばわたしたちに“気づき”を与える鏡のような存在。人間というのは目の前にあることで忙しくて生きる意味を忘れがちよね。結婚しなきゃとか、家を買わなきゃとか。でも猫と一緒にいるときに触ろうとしていなくなっちゃったときなんかに、わたしはこの猫に何を期待していたんだろうとか、哲学的、実存的なことを考えさせてくれる」。

 この映画には「猫を通して、人間にとって何が大切なんだろうという議論を提起する」目的以外に、もう一つの狙いがあった。それは、「イスタンブールの魅力を伝えること」。監督いわく、4、5年前からYouTubeなどオンライン上で何千万回もの再生回数を記録する猫の映像がアップされるようになり「猫ルネッサンス」(猫ブーム)が起きていることを確信。映画の資金を得る過程で投資家に話しやすく、勝算があったそうだ。

 「特にアメリカではトルコにあまりいいイメージがないと思うから、猫を目的に観客が観に来てくれて、なおかついろんなことが学べるということが起こったように思うわ」。

 また、本作では猫好きのトルン監督ならではのこだわりとして、地上10センチの高さから街を映す“猫カメラ”を起用。そのおかげで観客も猫になったような気分を味わえる。「猫を肩越しに捉えたり、人が人を撮るように猫を撮ると面白い効果が出ると思ったから、自分たちでそういった装置を作ったわけ。キャノンの5Dカメラを使って、モニターも小さいんだけど、それをプラットフォームに乗せてスティックをつけて、上にフォーカスするボタンをつけて、持ち歩くという恰好だった」と開発の経緯に触れる。

 「そのカメラを使って180時間のフッテージを作ったわ。2日間も中腰で抱えて歩き回っていたから腰が痛くなったけど、猫たちもわたしたちが一緒に歩くのが大好きだったみたい(笑)」。ちなみに、随所に挿入される街の絶景の撮影ではドローンも使用しているという。

 現在、出産を控えながら3つの新作を進行中というトルン監督。「スリラー映画と、2本のドキュメンタリーを予定しているの。ドキュメンタリーのうち一つはスーフィズム(イスラム教の神秘主義哲学)、もう一つはトルコの1960年代のロックがテーマ」とのこと。3本の同時進行に驚くと、「いつもそうよ。この映画を撮っていたときも複数のプロジェクトを同時進行していたわ。資金のめどがついたからまず猫のドキュメンタリーを撮ってしまおうと昨年の夏に撮ったんだけどその後、トルコで政治的にいろんなことがあって、今だったら撮れなかったと思うから、あの時撮ってしまってよかったと思う」と安堵の表情を見せた。(取材・文:編集部 石井百合子)

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