『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022』最優秀作品賞は多感な年ごろの少年の心模様を描いたフランス映画『揺れるとき』に

いまは主流となったデジタルシネマにいち早くフォーカスし、これからの映画界の新たな担い手となる国内外の若手作家を多数見出してきた『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022』のクロージングセレモニー(表彰式)が24日に行われ、各賞が発表された。

本映画祭での最高賞となる国際コンペティション部門の最優秀作品賞に輝いたのはフランス映画『揺れるとき』。俳優としても活躍するサミュエル・セイス監督が見事に栄冠を手にした。

『揺れるとき』 (C) Avenue_B

サミュエル・セイス監督は、前作となるデビュー作の『Party Girl』(2014年) がカンヌ国際映画祭ある視点部門でカメラ・ドールとアンサンブル賞を受賞するなどフランスで注目を集める新鋭。本作『揺れるとき』では、10歳のジョニーを主人公に、性に目覚めはじめた多感な年ごろにいる少年の心模様を、ヤングケアラーやLGBTQなどの問題にも深く踏み込みながら描き切った。

本作について諸事情で式を欠席した審査委員長の女優、寺島しのぶ氏は「この映画は、審査員全員が心をうたれたと思います。主人公の男の子から最後の最後まで目が離せませんでした。彼の演技は彼自身がもっているものなのか、監督が彼をどのようにしてあのように導いたのかを知りたい」と監督の手腕を高く評価し、「すばらしい映画をみせていただきました。この作品に配給がついて(日本でも)たくさんの人に観てもらえたらと願わずにはいられません。監督と直接お話ししたかったです」と称賛のビデオメッセージを寄せた。

最優秀作品賞を獲得した監督は満面の笑みを浮かべ、一緒に来日していたプロデューサーのキャロリーヌ・ボンマルシャン氏と檀上に上がると、まず「このようなすばらしい映画祭にご招待いただきありがとうございます」と映画祭への感謝を述べ、続けて「この映画は、年齢的にピュアで美しい時代の少年の心をとらえようという試みでした。そのチャレンジがこのように受け入れられてうれしく思います。いまコロナ禍でなかなか劇場にお客さんが戻ってこず、映画界は苦難の時代を迎えています。ただ、一方で、わたしを含め作り手たちの活力は衰えていない。むしろ以前よりみなぎり、新たな挑戦に踏み出す人が増えている気がします。ほかの人といっしょに体験できてなにかを共有できるのが映画のすばらしいところ。ですから、わたしは映画は映画館に再び観客が戻ってくることを願っています」と映画への愛を語った。

左から)サミュエル・セイス監督、プロデューサー キャロリーヌ・ボンマルシャン 撮影:水上賢治

また、ボンマルシャン氏は、「今回映画祭に参加して実感したのは、映画はすばらしいコミュニケーションツールである、ということです。わたしたちは文化や言語といった垣根がある中で生きています。でも、映画はそういった障害を乗り越えて伝わるツールになってくれる。われわれは、この作品でフランスの小さな町のことを描いています。けど、それが日本の観客のみなさんのもとに届いたこと、審査員の方々の心に伝わった。このことこそが映画がコミュニケーションツールとして人々とつなげることを物語っている証拠ではないでしょうか」と喜びを語った。

もうひとつの注目賞となる監督賞は、こちらもフランスの新鋭、ヴァンサン・マエル・カルドナ監督の『マグネティック・ビート』が受賞した。

本作はカルドナ監督の初長編作。冷戦下の時代を背景に、無許可のラジオ放送に没頭する兄弟の青春を描いた。

『マグネティック・ビート』

監督の来日は叶わなかったが、審査員の映画監督、松永大司氏は本作を「この作品は自分が単純に映画が好きであることを思い出させてくれる作品でした。家の環境では味わえない音の設計になっていてワクワクしながら観ていました。これが映画館で映画を楽しむことだなということを一番実感できる作品でした。まだまだ一作目ということで、驚くべき実力の持ち主で、自分も大いに刺激をうけました」と絶賛した。

もうひとつの主要賞である審査員特別賞は、未曽有の干ばつに見舞われたボリビアの僻地で暮らす老夫婦の生き方を描いたボリビア映画の『UTAMA〜私たちの家〜』が受賞した。

『UTAMA〜私たちの家〜』 (C) AlmaFilms

都合により出席できなかった審査員の釜山国際映画祭プログラム・ディレクター、ナム・ドンチョル氏のコメントを松永監督が代読。「この作品は、映画の魔法の力で別世界へと誘ってくれる。この作品を観ていると、わたくしたちのさまざまなものに対する偏見が取り除かれます。たとえば、老いよりも若さのほうが望ましいのかなど、そういったことを考えさせられる。物事を成否で考えるのではなく、ありのまま受けとめることの大切さに気づかされました。また、この映画に登場する老夫婦には敬意を抱かずにはいられませんでした」とコメントを寄せた。

これを受けてスピーチに立ったアレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督は「この映画祭で来日が叶い、昔から敬愛している日本の文化に触れることができました。その上、このような賞をいただけて光栄です。映画祭のスタッフや日本の観客のみなさんに感謝します」と喜びを語った。

アレハンドロ・ロアイサ・グリシ監督 撮影:水上賢治

一方、国内作品を対象にした国内コンペティション部門では、長編部門の優秀作品賞を余園園監督の『ダブル・ライフ』が、短編部門の優秀作品賞を若林萌監督の『サカナ島胃袋三腸目』が受賞した。

『ダブル・ライフ』
『サカナ島胃袋三腸目』 (C) 2022 Moe Wakabayashi

最後に今回の映画祭を振り返ると、選出された作品は、世界的パンデミックの影響を大なり小なり受けた上で作られたものばかり。そういう意味で、苦境にあっても歩みを止めなかった、新たな創作へ踏み出した若き才能たちの集まりだったと言える。

この点については、国際コンペティションの審査委員長の寺島しのぶ氏も「いずれの作品もほんとうに素敵で。このパンデミックの中で、みなさん力をあわせてそれでも作品を作り続ける意欲に何度も心をうたれました。この中で、生と死をかかわるテーマを深く見つめた作品が多かった気がします。作品をみて何度勇気づけられたわかりません。心から敬愛の意を表します」と総評で新たな作品へと踏み出した作り手たちにエールを送った。

また、現在も続くコロナ禍で、本映画祭は昨年まで2年連続でのオンライン配信のみでの開催を余儀なくされた。

そして、迎えた今回の第19回開催はオンライン配信を継続する一方で、待望のスクリーンでの上映を復活させるハイブリッド形式で実施。海外からのゲストも迎え、本映画祭が従来から大切にしてきた国内と海外の映画人、地元ファンの交流の場がもたれるとともに、オンラインで新たな観客にも注目を集める開催となった。

映画祭においてもオンラインで世界の映画により身近に出会えるようになったことを実感する一方で、映画祭が単なる作品上映だけではない人々が集う場所であることを改めて痛感する開催にもなったといっていいかもしれない。

なお、スクリーンでの上映は本日24日をもって終了。だが、今年からハイブリッド形式の開催ということでオンライン配信での作品上映は27日(水) まで続く。まだまだ観ることができるチャンスが残っているので受賞作をはじめ気になる作品があったらぜひチェックしてほしい。なお受賞結果は以下の通り。

<国際コンペティション>
■最優秀作品賞
『揺れるとき』 監督:サミュエル・セイス

■監督賞
『マグネティック・ビート』 監督:ヴァンサン・マエル・カルドナ

■審査員特別賞
『UTAMA〜私たちの家〜』 監督:アレハンドロ・ロアイサ・グリシ

■観客賞
『彼女の生きる道』 監督:セシル・デュクロック

<国内コンペティション>
■SKIPシティアワード
『Journey』 監督:霧生笙吾

■優秀作品賞[長編部門]
『ダブル・ライフ』 監督:余園園

■優秀作品賞[短編部門]
『サカナ島胃袋三腸目』 監督:若林萌

■観客賞[長編部門]
『ヴァタ〜箱あるいは体〜』 監督:亀井岳

■観客賞[短編部門]
『ストレージマン』 監督:萬野達郎

取材・文=水上賢治

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