外山啓介が語る恒例のサントリーホール公演。「新しい可能性を自分で開いていく気持ちで」

ピアニストとしてその音楽性を深めながら、デビュー以来継続して行っている全国ツアーで、自分がその時に向き合いたいと心から感じる作品を披露してきた外山啓介。

今回彼が選んだのは、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパンのソナタを軸にしたプログラム。初めに決まったのは、ベートーヴェンのピアノソナタ第12番「葬送」だったという。

「もともとコロナの影響で中止になった公演のプログラムに入れていたのですが、その後、コンサートが少しずつ再開したばかりの頃はまだ弾く気持ちになれず、一度横に置いてありました」

外山はこれまでにもたびたびベートーヴェンのピアノソナタをプログラムに入れてきた。このソナタは、古典派からロマン派の過渡期における「扉を開きかけた作品」だと感じるという。

「改めて最近、ベートーヴェンの時代の楽器の進化はすごく、それによって和声など音楽の可能性が広がっていったことを感じています。それまでのピアノソナタでは終楽章に重点が置かれていたのが、この葬送は、フィナーレもつかみどころがなく不思議なところがある。サプライズがたくさんある作品です。

ベートーヴェンのピアノソナタ全曲を演奏しようという計画はありませんが、死ぬ時に、“あぁ、全部弾いたなぁ”と思えたらいいなとは思っています。今回は、自分の次の扉を開いてみたいという気持ちで取り上げることにしました。ベートーヴェンにとってピアノソナタは大切なジャンルのひとつで、その時の心情をのせた、いわば自分の身代わりのような存在だったのではないかと思います。後世の作曲家にも多大な影響を与えました。絶対に知っていなくては、先に進むことができません」

そんなベートーヴェンのソナタに関連させる形で、モーツァルトとショパンのソナタも選んだ。
「モーツァルトのピアノソナタ第11番《トルコ行進曲付き》は、1楽章が変奏曲で書かれているところなど、ベートーヴェンの葬送に影響を与えたと言われる作品です。

また、ショパンの葬送からは、ベートーヴェンの葬送を意識していることが感じられ、改めて弾いてみると、特に4楽章など指のまわり方がよく似ています。一方で興味深い違いもあります。以前ある方から、国や宗教によって死への価値観が違う、死は全てから救われて苦しみのない世界にいくことだと認識されている地域もある、と聞きました。葬儀の行進にも、行きは暗い音楽、帰りは明るい音楽を奏でる文化があるそうです。

今回取り上げるふたつの葬送には、どちらも天国への憧れ、現世の苦しみからの解放という意味があると思います。ただショパンのほうは、解放された先が人間には触れられない天上の出来事、一方のベートーヴェンは、もう少し現世の感覚に近いというか、騒がしさや華やかさがあって、捉え方の違いを感じます」

「演奏することを楽しみたいし、みなさんにも楽しんでいただきたい」

外山啓介 (c)Yuji Hori

後半はそんなショパンの「葬送」につなげる形で調性を意識し、プレリュード「雨だれ」(変ニ長調)、ノクターン第7番Op.27−1(嬰ハ短調)、第8番Op.27−2(変ニ長調)を弾く。

「変ロ短調のソナタの前には、平行調で書かれたOp.27-2のノクターンを置きました。もともとこのノクターンはすごく好きな作品。さらに平行調は似て非なるもので、背中あわせのようなところもあります。Op.27のふたつのノクターンの調性的なつながりも気に入っています。

プログラミングの可能性は無限大で、逆にある意味すごく難しいのですが、僕は調性につながりのあるものが一番きれいだと感じるのです」

マスターピースといわれるショパンの「葬送」については、どう自分の解釈を見つけていったのだろうか。

「昔から、何かが燃えさかるようなところのある曲だと感じていました。ただその考えに凝り固まらないよう、一度頭を柔らかくして楽譜を見直してみると、改めていろいろな指示が書かれていると気がついて、とにかくシンプルに、楽譜に誠実に弾いていけばいいと思いました。熱く弾き進める部分と、冷静に、細かい色のニュアンスを表現していく部分をうまく両立させたいですね」

今回のプログラムも、弾けば弾くほど難しく感じるようになったという。

「自分では、ちょっと弾けるようになったぐらいが一番うまいと思えるものですが(笑)、それから本番で弾くうちあれこれ考えるようになって、葛藤がはじまります。それが昔よりもしんどいのは、ステージで演奏することの重みを一層感じるようになったからかもしれません。でもやはり、演奏することを楽しみたいし、みなさんにも楽しんでいただきたい。だから今回も、新しい可能性を自分で開いていく気持ちで、シンプルにがんばることに心を決めました」

恒例となっているサントリーホールでのリサイタルでも、自然体で、今できるベストの音楽を届けたいと語ってくれた。

外山啓介ピアノ・リサイタル
《モーツァルト~ベートーヴェン~ショパン》
9月24日(土) 14:00 開演/13: 15 開場
サントリーホール

プログラム:
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11 番「トルコ行進曲付き」 イ長調 K.331
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第 12 番「葬送」 変イ長調 op.26
ショパン:プレリュード第15 番「雨だれ」 変ニ長調 op.28 15
ショ パ ン :ノクターン第 7 番 嬰ハ短調 op.27 1
ショパン:ノクターン第8 番 変ニ長調 op.27 2
ショパン:ピアノ・ソナタ第2 番「葬送」 変ロ短調 op.35
※曲目・曲順等が変更になる場合がございます。



取材・文:高坂はる香



■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2210900&rlsCd=001&lotRlsCd=

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