シルビア・グラブ「アイバはとても強い信念を持った人」キャスト6人で挑む日本版『東京ローズ』がパワフルに立ち上がる!

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AIざっくり要約

  • 新国立劇場フルオーディションの第6弾で、イギリスの舞台を日本初演するミュージカル『東京ローズ』の稽古が進む。
  • 主人公のアイバ・トグリ役は6人のキャストがリレー形式で演じる。シルビア・グラブは男性役も担いつつ、作品の魅力を語った。
  • 日本独自の演出が期待される『東京ローズ』は、戦時中の人々の苦労を伝える意味合いがあるという。

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新国立劇場フルオーディション企画の第6弾は、初のミュージカル作品が登場。イギリスのカンパニーBURNT LEMON THEATRE※が2019年に製作した話題作『東京ローズ』、その日本初演が藤田俊太郎の演出、オーディションで選ばれた6名のキャストによって立ち上がる。太平洋戦争時、日本軍による連合国軍向けプロパガンダ放送でアナウンサーを務めた“東京ローズ”と呼ばれた女性たち。そのひとりである米国籍、日系二世のアイバ・トグリ(戸栗郁子)の怒涛の生きざまを描いた物語だ。主人公アイバをキャスト6名がリレー方式に演じる日本独自の演出など、注目必至の本作はただいま絶賛稽古中。これまで数々の名作ミュージカルを経験して来た実力派のシルビア・グラブが、オーディションから今現在の稽古の実感まで、新感覚のミュージカルへの挑戦を語った。

※BURNT LEMON THEATRE:2017年に活動を開始した英国の女性を中心メンバーとした演劇集団。メンバーの多くが演出と俳優、振付と俳優、作曲と俳優、など公演においては色々な役割を兼任しながら作品創作を行っている。

始まりは自宅のPCから。初心に帰ったオーディション体験を経て

――本作は新国立劇場フルオーディション企画の第6弾になりますが、この企画については以前からご存知だったのでしょうか。

はい、とても興味がありました。ただオーディションを受けるには、その公演期間のスケジュールが空いていなければ受けられませんよね。今回は幸いに空いてる! 受けられる!と思って、作品のリサーチをする前にエントリーしました(笑)。と言ってもその当時に出ている情報は少なかったんですけど、とにかく未知の作品に飛び込みました。

――今回のオーディション体験について、詳しく教えていただけますか?

すごく楽しかったです!! 本来なら事務所経由で書類を出してもらったりするところを、家のパソコンで、すべて自分でやりましたので、初心に帰った気分になりましたね。結果連絡も事務所経由ならマネージャーさんから連絡が来るけれど、全部私が直接やっているので、ずっと携帯を握りながら「いつ来るんだろう〜!?」とドキドキワクワクして(笑)。一次の書類が通って、次のビデオ審査は「この課題曲を入れてください」と。分かった!って自宅で一生懸命、背景に何も映らないようにセッティングして、パソコンで音を流して携帯で撮るんですけど、何度も失敗したり(笑)。だから、受かった喜びもいつも以上でした。

――本当に自分の力で掴み取ったという感じですね。そこからこの『東京ローズ』に深く向き合っていったと。

はい、作品について調べ始めて、主人公のアイバ・トグリという人を知れば知るほど惹かれていきました。彼女は両親ともに日本人だけれど、アメリカの国籍を持ち、アメリカで教育を受けている。私自身もふたつのカルチャーで育っているから、通ずるものはあるなと。もちろんアイバのような衝撃的な人生を送ってはいないけれど、両方から「この国の人間ではない」と言われる経験をして来たという意味では、そうした差別を受ける感覚は理解出来ますね。

――第二次世界大戦中、アイバは日本軍が行った連合国側向けプロパガンダ放送のアナウンサーを務めたために、終戦後にアメリカに強制送還され、国家反逆罪で起訴されてしまいます。彼女の波瀾の人生を描いた今回の台本をどのように読みましたか?

反逆者として扱われても「私はアメリカ人だ!」と意志を貫いたアイバを、とても強い信念を持った人だなと感じました。とはいえ、信念を強く持ちながらも、最初はとてもナイーブだったんだろうなと想像します。事態がわからないままに翻弄されてしまったのかなと。日本の血が流れていてもアメリカ国籍にこだわったのは、やはりアイデンティティとして自分はアメリカ人だ、という気持ちが強かったんだと思うんですね。両親をはじめ本当にいい人たちに囲まれていたからこそ、そういうふうに思えたんだろうなと。日本に来たことで波瀾の人生となったけれど、もしそのままアメリカに残っていたら、家族と一緒に強制収容所に入っていただろうし、そうだったらどういう人生だったのかな……なんていろいろと想像しています。

キャスト6人、全員で奮闘中!

――藤田俊太郎さん演出による日本初演は、イギリスで製作された舞台とはまったく構造が違うんですね。主人公のアイバを、シルビアさんを含む6名のキャストがリレー式に演じていくスタイルに驚きました。

そうなんです! イギリスの舞台でもアイバの役がリレーされていたのかと思いきや、それは日本オリジナルのプランだと。だから、ほぼ新作ミュージカルを作っているような感覚でいます。イギリスのカンパニーも作品を育てている最中だから、音楽のアレンジや振付にしても絶対にコレ!と決めてはいないんです。なのですごくフリーに、アレンジもコーラスも変えているし、キーも個人個人に合わせていて、いかにこの6人のキャストで最上のものに仕上げられるか、今、格闘している真っ最中です。クリエイティブな時間であるがゆえに、すごく体力を使います(笑)。

――シルビアさんもアイバのほか父親の役など、いくつものキャラクターを担っていますね。

アイバ以外の登場人物は、男性が多いんですよ。時代背景を考えると、どうしてもそうなりますよね。裁判のシーンにしても当然そうなってきて。男性を演じるとなると、やはり音域がとても低くなる。私は物語の前半に男性の役が多く、後半にアイバを演じるので、男性のキーでずっと歌っていると高いキーが出しづらくなっちゃって(笑)。稽古はものすごいスピードで進んでいます。すでに頭から終わりまで、動きは全部つけ終わりました。早くてびっくりですけど、次のキャラに変わるまでにどれだけ時間があるのかを体感するには、確かに早く進めたい。すごく重いシーンの後に、明るい男性になって出て来なきゃいけないとか、それぞれが「ちょっと待って〜切り替われない!」みたいな感じで(笑)今、全員で奮闘しています。

――キャストの皆さんはシルビアさんを筆頭に、飯野めぐみさん、鈴木瑛美子さん、原田真絢さん、森加織さんとさまざまな舞台で活躍して来られた方々、そこに現在大学生の山本咲希さんが加わって、とても興味深い布陣です。

飯野さんとは共演したことがあるし、ほかの皆さんも舞台を拝見しているけれど、全員がメインキャラクターを担う、というのは初めての体験。こういう顔ぶれになるのはフルオーディションならではだと思いますが、これだけすごい実力を持った役者がいるんだぞ!って世間に知らせたいですね。咲希ちゃんはもう、可能性の塊でしかない。若い時にこんな経験が出来るなんて羨ましいけれど、それだけに厳しいこともいっぱいあると思います。それに負けずに多くを吸収して、将来すごい俳優になって欲しいですよね。

――演出の藤田さんとは今春の舞台『ラビット・ホール』で一緒にお仕事をされています。今回の稽古場での新たな発見はありますか?

『ラビット・ホール』はストレートプレイで、役者同士もディスカッションを重ね、ワンシーンワンシーンを細かく作っていきました。今回はスピード感のあるミュージカルで、私たちはいろんな役をやるからなかなか全体を客観的に見られない。もう全然追いつかないので、藤田さん、よろしくお願いします!って感じです(笑)。ただ藤田さんは『ラビット・ホール』の時も今回も、私たち役者が疑問や提案を言いやすい場にしてくれます。どんなことも絶対に却下せず、ちゃんと聞き入れて、「やってみましょう」とトライしたうえで、最終的にご自身が思うベストの形を示してくれるんです。一緒に作っているな、という感覚は毎回ありますね。

“遠い話”ではなく、すぐそこにあった現実

――皆さんの挑戦でどんな日本初演が立ち上がるのか、期待が募るばかりです。今、“東京ローズ”と呼ばれたアイバ・トグリの生涯をミュージカルで描き出す、その意味についてはどのように考えますか?

そうですね。アイバ・トグリ、戸栗郁子さんという人物だけに限らず、戦時中の人々がどれだけ大変な思いをして、葛藤していたか、それをちゃんと知っておかなければいけないと思うんですね。日本にいると“平和ボケ”なんて言葉をよく耳にしたし、ついこの間まで「戦時中なんて遠い話」と思ってしまっていましたけど、今も世界のあちらこちらで戦争は続いてる。戦争の時代を描く作品には「体験した人たちの苦労や痛みをちゃんと知らないと、結局何も変わっていかないよ」といった警告も込められているように感じます。アメリカ人だけど日本の血が流れているこの物語の主人公が、日本からも海外からも翻弄されて大変な人生を送った、そのことを知る意味は大きいのではないかと。しかもアイバさんは2000年代まで生きていらしたと思うと……。忘れてはいけない史実だと思います。私も、父はもう亡くなってしまいましたが、生きているうちにもっと戦争のこと、母国のスイスではどうだったのか、など聞いておけばよかったなと後悔もあります。自分のおじいさん、おばあさんが強制収容所に入っていたという知り合いもいるので、本当に近い、ひとつ上の世代ですぐそこにあった現実なんだなって思います。

新国立劇場のフルオーディション企画で、これが初ミュージカルという点も興味深いですよね。どのようなお客様が来てくださるのか、すごく楽しみです。この作品が非常に演劇的な作りになっているところをとても気に入っています。イギリスの舞台とは違って音楽が生演奏であることにも期待していただきたいですね。オーディションで選ばれた私たちだから出来る、そう胸を張れるクオリティのミュージカルですので、ぜひ観ていただきたいと思います。

取材・文:上野紀子 撮影:塚田史香
ヘアメイク:須藤鈴加

<公演情報>
新国立劇場 2023/2024シーズン
フルオーディション Vol.6
『東京ローズ』

台本・作詞:メリヒー・ユーン/カーラ・ボルドウィン
作曲:ウィリアム・パトリック・ハリソン
翻訳:小川絵梨子
訳詞:土器屋利行
音楽監督:深沢桂子、村井一帆
演出:藤田俊太郎
芸術監督:小川絵梨子

出演:
飯野めぐみ、シルビア・グラブ、鈴木瑛美子、原田真絢、森加織、山本咲希

2023年12月7日(木)~12月24日(日)
会場:東京・新国立劇場 小劇場

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2345988

公式サイト:
https://www.nntt.jac.go.jp/play/tokyo-rose/

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