《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019》閉幕。最優秀作品賞はアニメーション作品に!

《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019》閉幕。最優秀作品賞はアニメーション作品に!

最優秀作品賞と観客賞をW受賞した『ザ・タワー』

今後の活躍が期待される国内外の若手映像作家を数多く見出してきた輩出してきた《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019》が21日に閉幕した。第16回目となった今回、最高賞の最優秀作品賞に輝いたのは、ノルウェー、フランス、スウェーデンの合作アニメーション作品『ザ・タワー』。同作は観客賞も受賞し、W受賞となった。

ノルウェーのマッツ・グルードゥ監督が手掛けた『ザ・タワー』は、ベイルート郊外の難民キャンプで過ごした自身の体験が基。パペット・アニメと2Dアニメを巧みに使い分けながら、少女と70年もの間、ベイルートの難民キャンプで暮らす曽祖父の対話と日常を通し、パレスチナの苦難と悲運の歴史が描かれる。本映画祭の国際コンペティションでアニメ作品がノミネートされたのは初めてで、その点でも注目を集めていたが最高賞となる最優秀作品賞と観客賞のW受賞を果たした。

残念ながら来日できなかったマッツ監督に代わり、賞を受け取ったプロデューサーのパトリス・ネザン氏は「この作品は足掛け8年かけて完成に至りました。監督が描きたかったのは、難民キャンプの現実そのもの。監督は、お母さまがNGO<セーブ・ザ・チルドレン>の看護士をしていた関係などがあって、子どものころからご自身の目で難民キャンプをみてきた。そこで自身が実際に見たり、聞いたり、感じたりしたことをできるだけ忠実に描きたかったのです。難民キャンプで暮らす人々の日常を哀しみだけではなく、ふとしたときに湧き出るユーモアまですくいとっている。それはマッツ監督の繊細で寛容な人間性がでていると思います」と、監督がこの初長編映画にかけていた思いを明かした。

続けて、もうひとつだけ付け加えさせて欲しいと言うと「ヨーロッパ、とりわけフランスですけど、日本のアニメーション及び日本の漫画には多大なる影響を受けている。今回の受賞は、アニメーションにおける、日本の文化とヨーロッパの文化の相互理解であり、そのかけ橋的なことができたことように思え、大変うれしく思っています」とコメントを残した。

審査員を代表して本作の評を語った審査委員長の三池崇史監督は「おめでとうというよりも、まずありがとうといいたい。それぐらいすばらしい作品でした」と冒頭で感謝の意を伝え、「今回の審査員は自分のような映画を実際に作っている現場のプロ、映画を企画、プロデュースするビジネス面のプロ、アジアで1番最初の映画祭の作品の運営から選定まで行っている映画祭のプロというそれぞれの立場で映画を愛し、映画に関わってきた4名が集まりました。その審査員たちの総意と、今回の映画祭の観客の意見が一致した。これはすごいこと。このこと自体がこの映画『ザ・タワー』のすばらしさを物語っているのではないか」と語り、「私は、子どもころ勉強が大嫌いだったので(苦笑)、パレスチナの歴史について詳しく知っているわけではない。でも、この映画の主人公であるレバノンの難民キャンプで生まれたパレスチナ人の少女、ワルディと心を通わすことができた。しかも、それを作ったのはノルウェー出身の監督である。映画の希望であり可能性を感じました」と作品を絶賛した。

一方、今後の飛躍を大いに期待する監督に贈られる監督賞は、今回は『イリーナ』のナデジダ・コセバ監督と、『陰謀のデンマーク』のウラー・サリム監督の2名が選出された

ナデジダ監督はブルガリア出身。今回の『イリーナ』は初の長編監督作品になるが、一昨年の東京国際映画祭のコンペティション部門に選ばれた『シップ・イン・ア・ルーム』を製作するなどプロデューサーとしても手腕を発揮している。

審査員の映画プロデューサー、佐藤現氏は本作を「困窮した状況の中、心が荒みながらも必死に家族を養おうとする女性、イリーナを通して、人間の強さ弱さ、醜さ、優しさ、浮き彫りにした感性豊かな演出に拍手を送りたい」と言葉を寄せ、来日が叶わなかった監督に変わり、ステージにあがったプロデューサーのステファン・キタノフ氏は「おそらく日本の皆さんがブルガリアと聞いて、連想するのはヨーグルトや琴欧州ではないでしょうか。願わくば、この作品によってブルガリアにもっと目を向けてもらうきっかけになってくれたらと思っています。世界がより平和になることを願っています」と語った。

同じく監督賞を受賞したウラー監督はイラク人の両親を持つデンマークの新鋭。『陰謀のデンマーク』が初の長編監督作品で同作はロッテルダム国際映画祭など、さまざまな映画祭で高い評価を得ている。現在のヨーロッパ各国で起こりつつある極右政党の台頭をテーマにした本作を審査員の佐藤氏は「ナショナリズムが高まる世界中の多くの国、民族においても起こりうる悲劇を描いた作品。未来に対する警鐘といえる世界へのメッセージをこめつつも、息もつかせぬ政治サスペンスに仕立てた監督の手腕をたたえたい」と評した。

ウラー監督「このシナリオは最悪の事態を描いている。こういったことが起きても不思議ではないことを描いたものです。ここで、受け手側として考えるべきなのは、その中からベスト・ケースをどう見い出すかということ。映画にはそういった力が宿っていると僕は信じています。デンマークから遠く離れた日本に響くとは想像もしていませんでした。なので、今回の受賞で希望に胸を膨らませることができました。次さらに良い作品を作れるように頑張りたいと思います」と語った。

国内コンペティションに目を移すと、長編部門が壷井濯監督の『サクリファイス』、短編部門が、宇津野達哉の『遠い光』がそれぞれ優秀作品賞に輝いた。

今回の開催を振り返ると、世界の分断、極右の台頭、難民といった今まさに世界の中で起きている大きな社会問題に果敢に向き合った作品が、とりわけ国際コンペティションでは多くを占めた。国際コンペティションのもうひとつの受賞作である審査員特別賞に輝いたハサン・ファジリ監督の『ミッドナイト・トラベラー』もまた、タリバンから死を宣告された監督自身が、安住の地を求める旅を記録した社会派ドキュメンタリー。先に触れた受賞作とあわせて、いずれも作り手が今の社会と世界に危機感を抱き、向き合った作品が並んだ。

本映画祭の国際コンペティションは長編3作目までの若手映画作家に開かれたもの。そういう意味で、世界ではまだキャリアの浅い若手作家たちが、きわめて難題といえる世界の諸問題に果敢にアプローチしていることを痛感する機会になったといえよう。

また、審査講評で三池監督は「今日の映画祭の多くはジャンルでくくられて、その中で優劣を競うことがほとんど。ただし、この映画祭はドキュメンタリーもあれば、アニメもある、人間の内面を精緻に見つめた作品から、世界で起きている大きな事柄を描いた作品もある。このように作品の垣根がない。これこそが《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭》なのではないかと思いました」と映画祭の感想を述べ、映画監督としての個人的なお願いとして「映画監督というのはいいときばかりじゃない。悪いときも必ずある。そういうとき、映画祭での受賞というのはとって大きな支えになる。それはこれまでいろいろな映画祭をめぐって評価を受けてきた中で、自分が実感していることです。その裏返しとして、映画祭には大きな責務があるような感じがあります。それは、映画に携わっている人間たちの心の中に「俺はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で受賞した」というようにいつまでも誇りになって、周りに言える存在であってほしい。そのためにはこの映画祭を今のような高いレベルで今後も維持していかないといけない。僕の目からみて《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭》は自立した非常に開かれたすばらしい映画祭。いろいろと困難はあると思いますが、引き続き続けていってほしい」と映画祭にエールを送った。

最後に、この日の多くの登壇者が、京都アニメーションに追悼の言葉を寄せ、映画人の連携を感じさせる特別で厳粛な授賞式にもなったことを記しておきたい。なお、各部門の結果は以下の通り。

【国際コンペティション】
最優秀作品賞:『ザ・タワー』 監督:マッツ・グルードゥ
監督賞:『イリーナ』 監督:ナデジダ・コセバ/
『陰謀のデンマーク』 監督:ウラー・サリム
審査員特別賞:『ミッドナイト・トラベラー』 監督:ハサン・ファジリ
観客賞:『ザ・タワー』 監督:マッツ・グルードゥ

【国内コンペティション】
SKIPシティアワード:『ミは未来のミ』 監督:磯部鉄平

【国内コンペティション 長編部門】
優秀作品賞(長編部門):『サクリファイス』 監督:壷井濯
優秀作品賞(短編部門):『遠い光』 監督:宇津野達哉
観客賞(長編部門):『おろかもの』 監督:芳賀俊、鈴木祥
観客賞(短編部門):『歩けない僕らは』 監督:佐藤快磨
《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019》
詳細は公式サイトにて www.skipcity-dcf.jp

取材・文・写真:水上賢治

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