ヴェネチア映画祭絶賛の注目作『運命は踊る』監督が語る

ヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞した『運命は踊る』監督が注目ポイントを語る

記事まとめ

  • 映画『運命は踊る』が、ヴェネチア映画祭でグランプリ(銀獅子賞)を受賞した
  • 脚本も務めたサミュエル・マオズ監督が29日に公開となる映画の注目ポイントを語った
  • 「本作も『地獄の黙示録』も『ディア・ハンター』も戦争映画ではないと思う」と話した

ヴェネチア映画祭絶賛の注目作『運命は踊る』監督が語る

ヴェネチア映画祭絶賛の注目作『運命は踊る』監督が語る

サミュエル・マオズ監督

ヴェネチア映画祭でグランプリ(銀獅子賞)を受賞した映画『運命は踊る』が29日(土)から公開になる。本作は、軍人の息子と父母が離れた場所で暮らしながら運命に翻弄され、自身の人生や過去と向き合う姿が描かれているが、脚本と監督を務めたサミュエル・マオズは「私は好奇心旺盛な人間で、答えを求めて映画をつくっているはずなのに、求めれば求めるほど、自分が何も知らないことを思いしらされるんですよ」と笑顔を見せる。答えだと思って掴んだものは手をすり抜け、運命から逃げたはずなのに元の場所に戻っていることに気づく。観る者の想像力と思考を刺激する本作の注目ポイントはどこにあるのか? マオズ監督にきいた。

ある日、イスラエルで暮らすミハエルとダフナ夫妻のもとに、戦地にいる息子ヨナタンの戦死を知らせる役人がやってくる。夫婦は混乱するがある時、この知らせが誤報だったとわかる。その頃、ヨナタンは戦場の検問所で変わらない日々を送っていたが、ある出来事を機に、彼らの日々に変化が訪れる。

本作はふたつの場所で暮らす家族が不条理や運命に翻弄される様を描いているが、そもそも、私たちは“運命”と“偶然”を明確に区別することができない。「それは私も映画をつくりながら探ってきたことです。人生とは偶然の産物にすぎないのか? それとも、偶然だと思われているものは“見えざる手”によって緻密に作り上げられたものなのか? 私たちは自身の運命を制御できるのか? もし制御でできるとして、どんな代償を伴うのか? そういうことをグルグルと考え続けているんですよ」

マオズ監督自身は成長するにつれて神の存在を信じなくなり、無神論者になって、人生はカオスだと悟ってみたり、人生に何らかの意味を見出そうと量子物理学にハマった時期もあったという。言うまでもなく、私たちの人生では自分の力ではどうにもならない不条理な出来事が起こる。自然災害は起こるし、不条理な出来事を止めることはできないし、どれだけ努力しても寿命は尽きてしまう。そこで、昔の社会は“神”や“運命”を持ち込んで、この状況に対応したが、神を外部に追いやった現代の社会は、不条理や偶然を克服できるはずもなく、神の亡霊のように法律や慣習や社会システムをつくりあげている。「私たち人間は広大な宇宙の中で、風の中の塵のように舞っているだけだ、という考えに人間は耐えられません。ですから、私たちは様々な考えを持ち出して気を紛らわせようとするのではないでしょうか? 私もそうです。映画をつくり、物語をつくることで“ここには何か意味があるのだ”という幻想をつくりたいのかもしれませんね」

本作は3つのパートに分かれており、登場人物は自身ではどうにもならない事態=運命に直面したり、運命から逃れようともがく。そして3つのパートがすべて語られるときに、それらには何らかの“つながり”があることがわかってくる。しかし、この“つながり”こそが本作の最大の罠だ。映画を観終わった観客は、劇中に描かれる“偶然”が物語の伏線のようにつながって、何らかの意味や教訓が導き出されることに少しホッとするが、それは“偶然”や“運命”とは最も遠い場所にある。

「だからこそ私は直感的に脚本を書くようにしています」とマオズ監督は語る。「それから私は観客のことは意識しないようにしています。編集するリズムも、そのシーンがもっているリズムに耳を傾けるだけです。この映画では予定調和を可能な限り排除して創作にあたりましたし、そもそも私はストーリーが映画の“核”だとは思っていないんです。偉大な作品を例にあげるのは恐縮しますが、本作も『地獄の黙示録』も『ディア・ハンター』も、大まかに“戦争映画”だと言われることがあります。でも私はこれらの作品はすべて戦争映画ではないと考えています。これらの映画は“戦争”というモチーフを使って、極限状態に置かれた人間の精神を描いたものですし、私自身はそのような映画をつくっているつもりです。この映画には戦地に行った息子や、息子が戦死したと思っている父が出てきますが、私が描いたのは父や息子の“心のありよう”です。ストーリーや、それらのつながりは表面的なものです」

そこで監督が本作で重視したのは「洗練された哲学的な問い、荒々しい人間の感情、そして映画的技法」をすべて兼ね備えた映画にすること。「と同時に、この映画は人間ドラマでもあるんです。家族の離散があったり、愛と罪悪感の間で葛藤したり……色々な問いや粗野な感情が描かれているけれど、つまるところは人間ドラマになっている。それこそがこの映画のポイントなのかもしれません」

『運命は踊る』

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