映画「武曲ー」“黒い雨”に打たれた綾野剛&村上虹郎が変貌!?

映画「武曲ー」“黒い雨”に打たれた綾野剛&村上虹郎が変貌!?

映画「武曲 MUKOKU」で初共演した綾野剛、村上虹郎

芥川賞作家・藤沢周の小説を綾野剛主演で映画化した「武曲 MUKOKU」(公開中)。一度は剣の道を極めつつも、父親とのある事件をきっかけに剣を捨てた矢田部研吾を演じた綾野剛と、彼との対決に魅せられていく高校生の羽田融を演じた村上虹郎に話を聞いた。

――今回の役を演じるにあたり、精神面、肉体面で、一番大変だったのはどこでしょうか?

綾野 今回、僕は準備期間が長かったのもあって、フィジカル面が非常に強い状態だったので、体力的にはそんなにつらくなかったです。

村上 僕も基本的には楽しかったです。撮影が9月だったので、寒かったというのはありますけど。でも、映画の撮影って、寒いことが多いですよね(笑)。

――研吾は酒に溺れて、ドン底の生活を送っているという設定ですが、かつては剣の道で一目置かれる存在でした。融も恐るべき剣の才能の持ち主ということで、お二人は剣道の経験があったのでしょうか?

綾野 僕は(撮影の)2か月前に突然始めたレベル。だから、どうしてもがむしゃら感が出てしまうんですが、虹郎は初段を持っているし、竹刀の振り方や踏み込みが美しいんですよね。虹郎の剣道には、ちゃんと天才感が出ていたと思います。

村上 いや、僕の剣道も完璧ではないと思います。昔、結構ダメ出しをされてましたから。実際には小学校、中学校ぐらいのときに、ちょっとかじっただけですし、「稽古、面倒くさい」と思ってしまうタイプなので(笑)。でも、「こいつ、すごい」って人は本当にいるんですよね。

綾野 圧倒的な努力をしてきた人の強さってあるよね。

村上 しかも、ただ努力をしてきただけじゃなく、才能があるという。そういう人を見てしまうと、やっぱりかなわないなって思いますよね(笑)。

――お二人は初共演ということですが、互いに刺激を受けたところはありますか?

綾野 年齢に関係なく、村上虹郎だから刺激を受けた、というのはたくさんあります。虹郎が生きてきた中で抱えてきたジレンマや圧縮していたものを解き放った瞬間のスピードや、そこから生み出されるパワーやみずみずしさというのは、とても真似できないです。努力して生み出せるものでは絶対にないですし、それは彼の持っているセンスなんだと思います。そのセンスがこの作品で完全に実力に変わったので、ここから彼はさらに強くなります。それは僕としてもうれしいしことですし、また共演したいなと思います。

村上 綾野さんとは、作品に入る前から面識はあったんです。そのときの僕はティーンエージャーでしたから、一緒に飲んだりとかではなく、ちょっと顔を合わせたぐらいだったんですけど。今回ご一緒させていただいて、綾野さんがどういう人なのか、役を通してそれを肌で感じることができました。現場では、こんなに頼りになる人がいるんだと思いました。

――研吾は父親と剣を交え、昏睡状態に追いやった過去を持ち、一方の融は台風の洪水で死にかけたトラウマを抱えている。それぞれの役柄が背負っているものにどう向き合いましたか?

綾野 研吾が背負っているものは特殊に見えるかもしれませんが、誰しも環境や状況が変われば、研吾のような人間になる可能性があると思います。どちらかといえば、その部分よりも大事だなと思ったのは、人間は生きていること自体が希望なんだということ。そして、誰もが誰かの子供であること。僕たちは父親とか、母親とか役職をどうしてもつけてしまいますが、そうではなくて、みんな全員が誰かの子供だったんだって。そこに気づけたのは、すごく大きかったです。そして、研吾がそれに気づくまでに影響を与えたのは、間違いなく羽田融なんです。彼が自分を求めてくれたから、それによって初めて研吾は生を感じることができた。自堕落な生活を送っているときは、ただ無能に生きていただけ。そんな人間が自分が求められたことによって、再生していく、最後に光が見えたのはすごくよかったなと思います。

村上 僕の場合は、最初は漠然としていました。家族構成もそうですし、あまり羽田融という人間が分からなかったんです。もちろん、小説は読みましたが、小説とはまた違う。僕からすると、まず親父はどこに行った、と。僕は今までの役の中では親父があまり関わらないことが多いんです。それがグザビエ・ドランに通じるなと思っていて(笑)。死に魅せられているというのは、僕自身からは離れた感覚的なものでしかなかったです。でも実際思うのは、自転車で事故しそうになったり、意外と死は身近にあるものなんじゃないかと。生きていると人を不用意に傷つけてしまうこともあると思うんですけど、それを誇張したものが死に魅せられたという表現になっているのではないかと思いました。

■ 僕たちのお芝居をモニター越しではなく、生で見てくれる監督

――監督は「海炭市叙景」('10年)、「私の男」('14年)などの熊切和嘉さん。熊切監督とお仕事されての感想を教えてください。

綾野 僕は「夏の終り」('13年)という作品で初めて熊切さんとやらせていただいたんですが、そのときは熊切組に入れる喜びの方が勝ってしまっていた部分があって、なんだか浮ついていた気がするんです。だから、やり残したことも非常に多くて、次はないかもしれないなと思っているときに、熊切さんから「次もやろうね。次は悪くて悲しい男をやりたいね」と仰っていただけて。次こそは、素材としての自分が鮮度の高いものでありたい、それを熊切組にぶつけられるようにしておきたいと思いながら5年の月日が経ちました。そこからの「武曲」だったので、自分ができる準備をした状態で現場に入れました。また、現場での監督は、僕たちの話をちゃんと聞いてくれるんですが、かといって役者がやりたいようにやらせるのではなく、ちゃんと手綱を握っている感じがあって。僕らが安心して生きていける環境を作ってくださったので、さすがだなと思いました。熊切さんは僕たちと一心同体になろうとしてくれていて、たぶん現場で一番ボロボロだったのは監督だと思います。だからこそ、信頼できるし、この人をノックアウトしてやろうという高い意識が生まれるんだと思います。

村上 僕は3、4年前に映画館で一瞬お会いしたことがあって、熊切監督とはずっとご一緒したいと思っていました。特に具体的な説明をされるわけではないんですが、聞きたいことがあったら、すぐに聞いてくれるし、誰よりも近いところにいてくれるんです。僕たちのお芝居をモニター越しではなく、生で見てくれる監督でした。それはすごくうれしかったですね。

綾野 基本、カメラの横にいるからね。

村上 うれしかったですね。

――映画の最大の見せ場となるのが、台風の夜に研吾と融が直接対決するシーン。墨を混ぜた黒い雨が降る中で、泥まみれになりながら闘ってましたね。

綾野 あのシーンは3日間かけて撮影しました。雨に打たれるし、墨にも打たれるし、自分を追い込んでいかないといけないシーンだったので、いろいろと疲弊しましたが、それを役に転じることができたと思います。

村上 僕も基本的には楽しかったのですが、すごく寒くて。雨を降らせているのもあって、体力を奪われていくんです。それこそやっているうちに限界が来るのですが、綾野さんが声を掛けてくれたり、リードしてくださったので、集中してお芝居することができました。

綾野 でも、当分、墨に降られるのは…あれを落とすのは本当に大変だったから(笑)。

村上 普通の墨じゃなかったんですよね。

綾野 洗っても全然落ちなくて。

村上 二人ともエイリアンみたいな姿になってましたよね(笑)。

――綾野さんのストイックな姿勢が映画のパワーになったと、プロデューサーさんがおっしゃっていたのですが、綾野さんはなぜそこまでストイックになれるのですか?

綾野 ストイックって、自分で決めることじゃないと思うんです。だから、ストイックということではなくて、単純に不安なんだと思います。そして、その不安を取り除く精神安定剤になるのは、努力しかない。今回だったら、剣道の練習をひたすらやることが精神安定剤になるし、肉体も再生している表現をしなくちゃいけないシーンがあったので、ひたすらトレーニングを行っていました。そうやって肉体的にも技術的にも変わってくると、それが安定剤になるんです。映画は残っていくものなので、ある種、残酷というか。そのときのものがそのまま残ってしまうわけだから、そういった意味でもやれることはやっておきたいと。

――映画はずっと残っていくもの。確かに後悔してもどうしようもないですよね。

綾野 それよりも、やることをやっていないと現場で対応できないからです。求められることに対応できないのが、僕は辛い。だから、現場が喜んでくれるのはうれしいし、監督がうれしそうにしていることがうれしい。もちろん、虹郎がいい顔で芝居をしているのだけでもうれしいんです。だから、自分がそこまでのところに持っていかないと、と。海外の作品のように1年も2年も時間をかけられるわけではないので、集中してやることが大事だと思ってます。

――綾野さんは今回、肉体改造ともいえる役作りを行われましたが、村上さんもそういう役へのアプローチ方法をやってみたいと思いますか?

村上 今回の役で、そこまでやれるのはすごいと思います。僕はそういうのに若干の苦手意識があるんですけど、自分にそういう役が来たときのことを考えて、心の準備はしておこうと思いました(笑)。

綾野 たぶん虹郎もハマるんじゃないかな。目的があれば。でも、その目的がなくなると、僕も維持することはできない。たまたまこの映画の後に「亜人」(9月30日・土公開)があったので並行してやりましたし、「フランケンシュタインの恋」(日本テレビ系)の第1話で、どうしても脱がないといけないシーンがあったので、また作りましたが、今は一切やってないですから。

村上 やってないんですか?

綾野 当たり前じゃん。こんなつらいこと、やらないよ(笑)。

村上 酒も飲めないですもんね。

綾野 でも、虹郎は年齢的にまだ若いし、肉体がまだ成長していると思うので、過激な肉体作りはあまり勧めない。今思いっきり過酷に肉体を作ってしまうと、肉体の成長が止まってしまう危険性があるから。でも、もし、そういうのが必要になったら、全力で自分の経験と環境とパーソナルトレーニングを紹介します。

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