原監督「僕のモーリス・ジャールになって!」と女性作曲家に公開プロポーズ

原監督「僕のモーリス・ジャールになって!」と女性作曲家に公開プロポーズ

左から原恵一監督、作曲家の富貴晴美、トークショーの司会を務めた氷川竜介

10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭。アニメーション特集「映画監督 原 恵一の世界」の5日目となった30日には、第39回アヌシー国際アニメーション映画祭で長編部門審査員賞を受賞するなど、国内外で高い評価を浴びた『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』(15)を上映。原監督と同作で音楽を担当した作曲家の富貴晴美をゲストに迎えてトークショーが行われ、監督の音楽へのこだわりや富貴への思いが語られた。

今年公開された『関ヶ原』(17)や、NHKの連続テレビ小説「マッサン」の音楽を手掛け、18年放送の大河ドラマ「西郷どん」でも音楽を担当するなど、若手女性作曲家として注目を浴びる富貴晴美。そんな彼女が原監督と出会ったのは『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』より前、監督にとって初の実写監督作となった『はじまりのみち』(13)のとき。

■ 初対面、重厚な音楽とのギャップに原監督も困惑!?

「プロデューサーから『わが母の記』(11)で音楽を担当した富貴さんはどう?って言われて、試写を観に行った。そうしたら、バッハのような重厚な音楽で、この人なら大丈夫だと思ったんです。で、後日、お会いしたら…誰だこのコは?って(笑)。いいところの家事手伝いのお嬢さんみたいで、ヘラヘラしてるし…(笑)」と、彼女が作る音楽とのギャップに驚かされたという。

そんな原監督だが、富貴への初仕事のリクエストはとんでもなく難解なものだった。「木下惠介監督の名シーンを編集した10分ぐらいのシーンがあるんですけど、そこに1フレーズを繰り返すだけの曲を作ってほしいって無茶なお願いをしたんです」と映画史上初ともいえる試みにさすがの富貴も試行錯誤するはめに。「メインテーマが決まるまで4回ぐらい書き直しましたね。3回目に提出した時も『う〜ん』とおっしゃってて、もしかしたら一生“いい”って言わないのかな?告白とか“好き”とか一生言わないタイプなのかもって思ってました(笑)」と探り探りの仕事に。

■ 8小節を繰り返す前代未聞の注文に富貴は…

そして、遂に4回目に提出したもので原監督はOKを出すのだが、ここでもやはり難しい要求が。「『最初のメロディの8小節がすばらしい。それだけでいい。他はいらない』と言われて、どうやって曲を書こうって思ったんです。だったら、その8小節を基にいろいろ展開させて…って感じで曲を書いたら、『いやいや、8小節だけでいいんだよ』って止められちゃうんですよね」と富貴を悩ませた初めてのチャレンジも今になってはよい経験だったと振り返る。

そうして完成した『はじまりのみち』のメインテーマに、原監督はぞっこん。「レコーディングの後、CDにしてもらって、家に持って帰り、毎晩寝る前に聴いてました。これまでにも劇場版作品でタッグを組んだ作曲家の方に素晴らしい音楽を作っていただきましたが、こんなに聴いても飽きない曲は初めてだと思いました。そこから、作曲家・富貴晴美に惚れたんです」と今後も彼女に作ってほしいと思うようになったのだとか。

2度目のタッグとなった『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』は彼女にとって初のアニメーション作品。「実写とアニメが大きく違うのは、物語の世界観までも音楽で補わなければいけないんですよ」と富貴には多少戸惑いもあった。そんな彼女の心配をよそに原監督は「絵コンテの段階で音楽のインアウトや、曲のイメージを伝え、その後にラッシュを見てもらうんだけど、アニメーションのラッシュって本当に完成していない状態なので、ちゃんと意図が届くかな?って。でも、完成した音楽を聴いて、やっぱり富貴晴美はすごいって思いましたね」と自身が見初めた富貴の仕事ぶりに改めて惚れ直したという。

■ 「学校にも行かずに映画ばかり見てました」

そんな富貴が音楽を志すようになったのは、母親の影響によるところが大きいという。「小学生の時から学校にも行かず1日に8本も映画を観たりしてましたね。母親に“学校へ行きたくない”と言うと、“じゃあ、ビデオ屋さんに行こう”って。『アラビアのロレンス』(62)『カサブランカ』(42)『風と共に去りぬ』(39)のようなクラシックの名作を観ては、すぐにそれぞれのテーマ曲をピアノで弾いたりして遊んでました。友達もいないし、学校にも行ってないし、どんな暗い子なんだろうって(笑)」と幼少期のエピソードを笑いながら語り、原監督も「でも、『巨人の星』みたいなスパルタ教育じゃなかったんですよね?」と相槌を入れながらも興味深く聞いていた。

■ 「僕のモーリス・ジャールになってほしい!」

「富貴さんの話にも出てきた『アラビアのロレンス』などを手掛けた、僕が尊敬するデヴィッド・リーンという監督の作品で音楽を手がけたモーリス・ジャールという作曲家がいるんですけど。富貴晴美さんには僕のモーリス・ジャールになってほしい」と原監督から富貴さんへ改めてラブコール!最後の挨拶では「これからも原監督をよろしくお願いします」との富貴の言葉に対し、「こちらこそよろしくお願いします。なんかプロポーズしているみたい(笑)」と原監督が語るなど、終始和やかなムードでトークショーは終了した。【取材・文/トライワークス】

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