【シッチェス・カタロニア国際映画祭】「日本の狂気」を楽しむのは誰か?

【シッチェス・カタロニア国際映画祭】「日本の狂気」を楽しむのは誰か?

ハヤテ、紗倉まな、光武蔵人監督が登壇した『KARATE KILL/カラテ・キル』の舞台挨拶

スペインのシッチェス・ファンタスティック国際映画祭(10月7日から16日)で恒例となっているイベントがある。「Japan Madness」と呼ばれるオールナイト上映会である。

その名の通り「Madness = 狂気」を感じさせる日本作品をピックアップ。関係者(監督や俳優)を呼び舞台挨拶をして、その後上映に及ぶというものだ。上映開始は夜中の1時で3本見終わると朝の6時過ぎになる。面白いのは招待された日本人側も楽しんで帰る、という構図になっているところだ。

昨年は『映画 暗殺教室』(15)、『虎影』(15)、『忍者狩り』(15)の3本が上映され、『虎影』の西村喜廣監督と主演の斎藤工、そして園子温監督の奥さんで女優の神楽坂恵が飛び入り参加した。

西村と斎藤のテンションは異常に高く、「ようこそ馬鹿ども!」で話が始まり、「馬鹿ども楽しんで行ってくれ!」で終わったことをよく覚えている。斎藤はスピーチでホテルの前のヌーディストビーチで泳いでいたらどこかに砂が付いたとか付かないとかのエピソードも披露していた。こう文章にすると何か不謹慎のように聞こえるが、「馬鹿ども」と呼ばれた観客は大喜び。スペイン人と日本人ではモラルの基準が違うし、このオールナイトは1年に1度のお祭り騒ぎだから念のため。

7日の開会式の深夜に行われた今年のイベントでは、『暗殺教室〜卒業編〜』(16)、『KARATE KILL/カラテ・キル』(16)、『彼岸島 デラックス』(10月15日公開)が上映され、『KARATE KILL/カラテ・キル』の光武蔵人監督、主演のハヤテ、紗倉まなが舞台挨拶に立った。光武は「こんなに多くのクレイジーな人たちに囲まれてうれしいです!」と煽って爆笑を誘い、「グラインドハウス的なバイオレンスアクション映画なんでぜひ楽しんでください」と締めた。「メ・ジャモ・ハヤテ(私はハヤテです)」と覚えたてのスペイン語を披露したハヤテは「アクションシーンはCGもワイヤーもスタントもマットも使っていなのでそこを楽しんでください」と真面目に見どころを紹介。「オールマンパワーですから」と光武が付け加えた。紗倉まなが「オラ・ソイ・マナ(私はマナです)」と甲高いアニメっぽい声で始めるとまずは爆笑。スペインには女っぽいしゃべり方というのが存在せず、野太い声で男と同じようにしゃべるから、声だけで受ける。紗倉は「スペインに来るのを凄く楽しみにしていました。みなさんの反応が日本にいる時とまったく違って本当にリアクション良く、ウォーという感じでそれが驚きです」と続けたが、それは光武にとっても同じだったようで、上映終了後観客と記念撮影をしながら、帰り道にスタッフと話をしながら「盛り上がりが凄いよな。うれしいよな」と盛んに感心していた。

昨年訪れた園子温も同じ様なことを言っていたが、血とバイオレンスは日本よりもスペインで受ける。ファンタスティック映画祭だからお客もそれが目当てというだけでなく、スペイン人であるゆえに日本式のモラルとか世間体とかとは無縁だからだ。日本だと不謹慎と眉をひそめられ普段、肩身の狭い思いをしている作り手は、エロとグロを笑い飛ばしてもらえるこの地に良き理解者を発見する。

『KARATE KILL/カラテ・キル』でも観客が一番喜んだのは、銃で自殺するシーンで顔が頭頂部ごとぶっ飛んで穴が開くところだった。音声(銃声)だけでも伝わる死をわざわざ映像にしたのはバイオレンスを見て楽しんで欲しいからで、監督もうれしかったろうと思う。

日本にはスペインには存在しない「狂気」がある。猟奇的でねじれたエロや暴力というのは、社会的重圧からの逃げ道や反動だから、開放的なスペインではああいう作風は生まれない。しかし、その狂気を生む土壌があるゆえに日本の狂気は日本人には楽しめない。この映画祭が取り持つ、日本とスペインの蜜月は続きそうだ。【取材・文/木村浩嗣】

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