映画『バブル』澤野弘之インタビュー「印象的な“ハミング”、疾走感のある音楽はどう生まれたか」「荒木監督への感謝」

日本が世界に誇るトップクラスのクリエイターが集結。世界に降り注いだ泡<バブル>によって、重力が壊れた東京で、少年と少女の想いが引かれ合う、グラビティ・アクション・ラブストーリー『バブル』が大ヒット上映中です。

監督はアニメ「進撃の巨人」のアクション映像で瞬く間にその名を轟かせた荒木哲郎。 「SPY×FAMILY」のWIT STUDIOが制作を担い、透明感あふれる至極の美麗映像と、 本スタジオの真骨頂ともいうべき縦横無尽なカメラワークで描破する怒涛のハイスピードバトルがぜひ大スクリーンで観ていただきたい作品となっています。

本作で音楽を担当しているのが澤野弘之さん。物語を盛り上げる素晴らしい音楽をいかにして制作したのか、お話を伺いました。

――本作大変楽しく拝見させていただきました。音楽が本当に素晴らしかったです。澤野さんは資料のコメントの中で(取材用に配布されるもの)「これまで荒木さんとご一緒してきた中でも、違うアプローチで楽曲制作が出来た」とおっしゃられていますね。

荒木監督とは、アニメ「ギルティクラウン」で初めてご一緒して、「進撃の巨人」と「甲鉄城のカバネリ」でも音楽を担当させていただきました。3つとも、スケールが大きいのはもちろんですし、人類が脅威にさらされている内容であったり、暗さがある作品でした。
荒木さんはその暗さをエンターテイメントとしても作品としても成立していらっしゃいましたが、僕自身も音楽としてその躍動感や迫力という部分をどうやって表現していくかという所に集中していて。

僕は海外のハリウッドのサントラに大きく影響を受けているところがあって、オーケストラに打楽器を強く押し出したり、シンセのシーケンスを組み込んで作っていく音楽のスタイルが多いのですが、「バブル」は主人公たちの恋愛の部分だったり、ドラマティックな部分も多く、世界も巨人とかロボットが出てくるみたいなものではないので、荒木さん的にも「音楽的にもいつもよりは落とし目というか、感情に寄り添った曲を作ってほしい」という事でした。そうした部分を自分なりにちょっと新鮮に作ることができたかなと思っています。

――私もそうですが、荒木さんに虚淵さんに澤野さん、もっとたくさんいらっしゃいますが、豪華なスタッフ陣が集結されて、興奮したファンの方が多いと思います。

僕は全然大したアーティストではないのでお名前を並べていただくだけで光栄なのですが、僕自身も荒木監督と虚淵さんがご一緒されているのはすごく興味がありました。僕は虚淵さんとは「Thunderbolt Fantasy」という作品で総監督をされていてご一緒したのですが、何年か前にその現場でたまたま虚淵さんがミックスに来てくださった時に「今度荒木さんと一緒に作品をやろうとしてるんですよ」とおっしゃってて、「そんなすごいプロジェクトがあるんだ」と思いながら話を聞いていたので、こうしてオファーをいただけてとても嬉しかったです。

――そんなお話があったのですね!実際にはどの様に制作が進んでいきましたか?

制作自体は2020年の夏とかその辺ぐらいから曲作りを始めたと思います。初めに大まかな打ち合わせをした時に、「この作品に澤野さんなりのイメージで、メインテーマを含めて数曲作ってほしい」という所から始まって、そこからさらに「こういうシーンがあります」「こんなキャラクターがいます」というのを聞きながら。

荒木さんが「ジブリのイメージアルバムとサウンドトラック」みたいなことをおっしゃっていて、最初に作品に対して僕が考える音楽を作って、それから第二段階としてシーンに必要なメニュー表を作ってもらって、そのメニュー表をもとに僕が音楽を作るという感じで、話をたくさんしながら進めていきました。メニュー表に合わせて、30曲ほど曲を作って、その後にシーンの尺に合わせてエディットしていきました。

そのエディットの作業はKOHTA YAMAMOTOくんに参加してもらって、細かく映像に合わせてタイミングとか、ちょっと必要があったら編曲も入れてもらって、劇中の音楽を完成させていきました。

――最初に「澤野さんに曲を作ってほしい」とオファーがあった時点では、ストーリーも出来上がっていたのでしょうか?

大まかなものはできてました。今まで荒木さんの作品でご一緒してきた身としては、言い方が合っているか分かりませんが、とても爽やかな作品だなという印象を受けました。非現実的な内容ではありながら、今までの荒木作品に比べるとちょっと日常寄りで、すごく魅力的に新鮮に感じましたね。

――ウタのハミングのメロディーが作品のポイントとなってきますが、こちらの印象的なメロディーはどの様に作られたのでしょうか?

「地球外生命体が出す音であり、印象的なフレーズを作って欲しい。作品的にも重要なポイントになります」というお話を聞いて3パターンぐらい作った中で、結局一番最初に作ったメロディーに落ち着きました。学校のチャイムからヒントを得ています。学校のチャイムって四つの音を組み替えて構成されてるんですよ。僕も今まで学校のチャイムの音階を意識してなかったんですけど、改めて聴いたらそうだったんだと思って。その感じで四つの音の組み合わせで作っていったら面白いのかなと思って、ハミングが完成しました。

荒木さんからも、「ハミングは重要ではあるけども、あんまり複雑なメロディになりすぎない方がいい、特徴的な音色であってほしい」という事を聞いていて、鳴らす音に関しては動物の鳴き声とかを加工したみたいなという話も出ていました。イルカが超音波で会話するという話題も出ていたので、イルカの鳴き声みたいな音ってこんな感じかなってシンセで鳴らしつつ。

――すごく印象的で耳に残るメロディーになっていますよね。澤野さんは完成した作品をご覧になってどの様な感想を抱きましたか?

荒木さんが、ヒビキとウタ、2人の恋愛を描いたり、たくさんの挑戦をされていたことがすごく映像からも伝わってきました。荒木さんは素晴らしいエンターテイメント作品を作る方だなと改めて思いましたし、僕はそこに惹かれる部分もあって。そんな作品にまた携わらせてもらえたことに素直に嬉しくなりながら、鑑賞していました。

――お好きなシーンや印象に残ってるシーンってありますか?

どの作品も冒頭が重要だと思っていて、本作でいうとパルクールのシーンですね。荒木さんの描くアクションシーン、WIT STUDIOが作るアクションシーンってカッコいいなと思うのと同時に、この「バブル」だからこそ出来た音楽アプローチというか、スピード感とかアグレッシブなサウンドを作れたと思ったので、そこがうまくフィットしてくれて嬉しかったです。KOHTA YAMAMOTO君が細かくそのタイミングを合わせてくれたところもあったので、そうした部分も含めてパルクールのシーンは気に入っています。

――特に何か気になったキャラクターっていらっしゃいますか?

僕はどの作品でもおじさんキャラとか、ちょっと年上の人がアドバイスするシーンが好きなのでシンが好きです。あとは「ドラゴンボール」世代だからなのか、敵だったやつが最後いいやつになったり、仲間になるのが好きなので(笑)、アンダーテイカーも好きです。

――先ほど、海外の映画のサントラ等に影響を受けたとおっしゃっていましたが、どの様な作品に特に惹かれましたか?

ハンス・ジマーの存在は大きいです。「ダークナイト」とかワーナー作品の音楽は本当に大好きです。僕はダニー・エルフマンという作曲家も好きで、ティム・バートンの「バットマン」の音楽を作っていた方です。ハンス・ジマーとダニー・エルフマンの2人に様々な面ですごく影響を受けていますね。

――子供の頃に「バットマン」を見たのでしょうか?

子供の頃は単純にエンタメ作品として見てかっこいいなとか、音楽いいなと思ったぐらいですね。でも自分が映像音楽の作曲家を目指し始めてなんとなく作曲を進めていくうちに、20歳ぐらいになって「海外のサウンドも自分の中にいろいろ取り入れていかなきゃな」と思った時に、その2人のサウンドが特にそのとき見た映画で響きました。

僕自身は幼少期からクラシックをバリバリに聴いてオーケストラの曲を学んできたっていうタイプではなく、ハンス・ジマーもどちらかというとクラシック畑というよりは、シンセサイザーとかそういうポップスの世界から始まって映画音楽をやっていた人なので、惹かれた部分もあるのかもしれません。

パーカッションとかシンセサイザーをどれだけオーケストラと上手く組み合わせて使うかっていうのを考えた人だったので、それが何か自分にも希望になったというか、「クラシック的なことをものすごく学ばなくても、ああいうアプローチでオーケストラの曲って壮大に作れたりするんだ」という光だったんですよね。彼の音楽があった上で今自分がオ−ケストラの曲を書けているところは大いにあるだろうなと思います。

――音大に行ってオーケストラ学んでという劇伴作家が多い中、ハンス・ジマーはアプローチが違ったわけですね。

逆のことをやった感じですよね。それまでのハリウッド映画ってジョン・ウィリアムスとか、ちゃんとオーケストレーションして金管なり弦楽器をちゃんと鳴らすっていう部分が主流だったところが、ハンス・ジマーは逆に打楽器を強調してドコドコ聴かせたり、弦楽器もリフのようにフレーズを作ってアプローチする、そうした事をやった第一人者っていう気がするので。
ジョン・ウィリアムスも今もご活躍されていると思うんですが、今のハリウッド映画ってハンス・ジマー一派というか彼の仲間たちがたくさんの音楽を作っているので、彼が積み上げてきた功績の大きさを感じます。

――最近ご覧になった映画などで、このサントラよかったというものはありますか?

僕はクリストファー・ノーランの作品が好きなので、「テネット」はハンス・ジマーじゃないんですけど、ちょっとハンス・ジマーに通ずるみたいなシーケンスの使い方とか、音を強調した作品だったんで結構聴いていました。

――澤野さんの携わってきたアニメの音楽も国内外で大人気ですから、ハンス・ジマーの様に澤野さんのフォロワーで音楽家になる方、志す方もたくさん出てきそうですね。

自分自身は海外の影響を受けた上で音楽を作っているので、海外の方が興味を持ってくれるのは嬉しいですね。やっぱり「進撃の巨人」とかそれこそ荒木さんとご一緒した作品ですけども、作品の影響力ってものすごいなと思います。自分のYouTubeチャンネルで「進撃の巨人」の曲をアップするだけで全然違う反応が起きるので、作品の影響力のおかげだなというか。

あの作品にかかわらなければ、そう気にしてもらえなかったと思うので改めて感謝しています。自分だから「進撃の巨人」を担当できたわけじゃなくて、荒木さんが「進撃の巨人」の監督だったからこそ僕に声をかけてくれたので本当に感謝しかありません。そのおかげで僕の音楽が海外の方にも聴いていただけていると思うので、こうやって今回もご一緒させていただけるのは本当に嬉しいことです。

――海外の方も「バブル」を楽しみにしていると思います。私もサントラを聴くことを楽しみにしております。

ありがとうございます。僕もまた新しい気持ちで作品に取りかかれたので、ぜひいろんな人に聴いていただきたいと思います。大きなスクリーンで観ていただきたいです。

――今日は素敵なお話をどうもありがとうございました!

撮影:オサダコウジ

(C)2022「バブル」製作委員会

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