ネタニヤフ首相5期目続投へ 2019.4.12(オリーブ山便り)

今回は石堂ゆみさんのブログ『オリーブ山便り』からご寄稿いただきました。

ネタニヤフ首相5期目続投へ 2019.4.12(オリーブ山便り)

写真出展:エルサレムポスト(photo credit: RONEN ZVULUN/REUTERS)

10日、ネタニヤフ首相が5期目続投が決定的となった。これで、ネタニヤフ首相(69)は、故ベン・グリオン首相を超えて、イスラエル史上最長の首相(現在で在職13年)ということになる。

総選挙の投票は、9日朝7時から行われた。有権者は、支持する党の名前を示す文字票を選んで封筒に入れ、投票するしくみ。リブリン大統領、ネタニヤフ首相もそれぞれ投票所で投票を行った。

投票は同日22時までで、即日開票が行われた。投票したのは、265000人。最初は、ネタニヤフ首相のリクードより、ガンツ氏のブルーアンドホワイト党が先を行っていたが、最終的には、リクードとブルーアンドホワイトが、ともに得票率29.2%で35議席獲得のひきわけとなった。
(12日深夜の最終発表で、リクード36議席、ブルーアンドホワイト35席とリクードが1位となった。)

リクードとブルーアンドホワイト党以外の党の得票、ならびに議席数を見ると、リクードと右派政党の合計が、120議席中65議席、ブルーアンドホワイトと左派系政党の合計が55議席と、右派系の方が多いことから、右派のネタニヤフ首相のリクードが、次期政権も続投することが決定的となった。

「With 97% of votes counted, Netanyahu set to form a right wing cabinet」2019年4月10日『ynetnews.com』
https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5492086,00.html

これを受けて、10日夕刻、ネタニヤフ首相が盛大に勝利宣言を出し、左派のガンツ氏とブルーアンドホワイト党は、敗北を認める声明を出した。ガンツ氏は、次期ネタニヤフ政権には加わらず、筆頭野党として戦うことを明言している。

「Gantz, Lapid concede defeat」2019年4月10日『ynetnews.com』
https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5492530,00.html

リクードとブルーアンドホワイトの次は、シャス党(超正統派ユダヤ教政党)で6.7%で8議席、同じく右派ユダヤ・トーラー連合が7議席。リーバーマン元防衛相のイスラエル我が家党は4.2%で5議席、カフロン元経財相のクラヌ党はぎりぎり投票率3.25%を超えた3.3%で4議席。

驚きは、元教育相ナフタリ・ベネット氏の立ち上げた新右派等が3.22%で、3.25%にぎりぎり達成せず、国会入りできなかったという点。ベネット氏は表の数え直しを要請していたが、最終カウントが発表された12日夜の結果でも、得票率はかわらず、国会入りを果たせなかった。

左派系では、労働党がかなり下落して5%で、たったの6議席。建国を率いたのは労働党という栄光を思えば、今回の敗北は相当な打撃である。ガバイ党首は、失敗と敗北を認める声明を出した。

アラブ連合政党は、アラブ系住民の支持を得られず、投票に行かなかった住民が多かったため、得票率が、予想をはるかに超えて下回った。このため、得票率は3.3%と、かろうじて3.25%を上回り、4議席となった。

「Arab parties pay the price for the indifference of their voters」2019年4月10日『ynetnews.com』
https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5492414,00.html

イスラエルの得票率と議席数

イスラエルでは、得票率が、3.25%以下の政党は、国会に議席を持つことができないという法律が最近成立した。これにより、かつてはそれ以下でも、得票数に応じて1議席などでも国会入りできたのだが、今は、できなくなっている。これにより、小さい政党は国会入りできなくなった。

今回でいうなら、ブルーアンドホワイトに回った票により、主に左派系の小さな正統が大打撃を受け、国会入りできなくなった一方、右派系の党は、残ったわけで、ネタニヤフ首相のリクードに有利な国会になったということである。

第21代国会の勢力図模様替え

今回の選挙により、イスラエルの国会が、アメリカのように大きく2派に分かれた結果になったと指摘されている。

選挙結果によると、ネタニヤフ首相のリクードは、地方や西岸地区入植者など労働者層、貧しい系の人々の支持が多かった。南部住民は、前政権のガザ・ハマスに対する方針に不満を持っているが、それでもネタニヤフ首相を支持する結果となっていた。

一方、ブルーアンドホワイトを支持したのは、主にテルアビブ住民で、プロフェッショナル、IT系など、人権重視、左派に傾きがちな若い層の支持を受けていた。言い換えれば、イスラエルの国会の勢力図が、これまでになく、右派、左派に分断されたということである。

右派勢力が強い、新しい第21代国会の勢力図からして、もはやパレスチナ国家との2国家共存はなくなり、西岸地区のイスラエルへの合併へとさらに進むのではないかとの見方もある。

その他の特徴としては、女性議員を出さないシャス党など超正統派が第3党になったため、女性議員が29人(前国会は39人)に減少する。一方で、ゲイの議員が少なくとも3人は国会入りするみこみ。多種多用な現代イスラエル社会を反映した国会ということであろう。

「Israel’s election exposes its deep political and social divisions」2019年4月10日『ynetnews.com』
https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5492706,00.html

ネタニヤフ首相の汚職告訴について

華々しい勝利を得たネタニヤフ首相だが、まもなく、汚職、収賄、背任などの罪で、首相への尋問がはじまる。これについては、首相職の告訴はないとする法案に合意する党はないため、これが癌となって、連立を組めないという事態もまったくないわけではない。

「Netanyahu allies, including top Likud minister, say they won’t back immunity law」2019年4月5日『The Times of Israel』
https://www.timesofisrael.com/netanyahu-allies-repulse-immunity-law-suggestion/

総選挙を前に、マンデルビット司法長官は、選挙日の後、3ヶ月以内に、ネタニヤフ首相の尋問を始めると発表している。このため、首相府は、本日司法から、起訴の証拠に関する文書を受け取ることになっている。

現職首相が、ここまでの事態になったことはないので、実際に有罪となるまでは、ネタニヤフ首相が辞任に追い込まれることはない。しかし、今後、「現職首相を、収賄疑惑で尋問することはできない。」とするいわゆる「フランス法」を、持ち出してくるかどうかが注目されている。

なお、ネタニヤフ首相自身は、やましいことはまったくないと無実を主張。ちょうどトランプ大統領が、ロシア疑惑を疑われていた時と同様、陰謀だと言っている。

外交勝利:トランプ大統領・プーチン大統領のバックアップ

ネタニヤフ首相続投のニュースを受け、トランプ大統領、ペンス副大統領は、それぞれ、ネタニヤフ首相続投を祝う声明を出した。トランプ大統領は、いまだ発表されていない、独自の中東和平案について、「ネタニヤフ首相であったので、この案を進める可能性が高まった。」と表明した。

ネタニヤフ首相は、親イスラエルで福音派の支持も大きいトランプ政権の支持で、追い風である。

「Trump says Netanyahu election win means a ‘better chance for peace’」2019年4月10日『The Times of Israel』
https://www.timesofisrael.com/trump-says-netanyahu-election-win-means-a-better-chance-for-peace/

さらに、ネタニヤフ首相は、ロシアのプーチン大統領からも支持を受けていたとみられている。総選挙のわずか5日前、ネタニヤフ首相は、モスクワへ飛び、シリア問題などについての会談を行った。

その前日、1982年の第一次レバノン戦争で、戦死したまま遺体が発見できないでいたザカリー・バウメル軍曹(当時21歳)の遺体が、シリアから第3国を経由して、イスラエルに戻された。これが可能になったのは、プーチン大統領のテコ入れがあったからとみられている。

いうまでもなく、これは、総選挙を前にしたネタニヤフ首相にとっては、大きなトロフィーであり、プーチン大統領がネタニヤフ首相続投を、支援したとも理解できる動きである。

外交を兼務してきたネタニヤフ首相が、外交において、業績をあげてきたことは、否定できないであろう。

ザカリー・バウメル軍曹の遺体返還について

ザカリー・バウメル軍曹(当時21歳)は、アメリカ生まれの戦車隊司令官であった。1982年の第一次レバノン戦争の時、レバノンのベカー高原でシリア軍との戦っている時、2人の兵士とともに、消息が不明となった。イスラエルは、これまで37年間、3人の捜索を続けてきた。

昨年5月に、PFLP(パレスチナ解放人民戦線)が、ロシアが、シリアのダマスカス近郊で、IS(当時)が、3人のイスラエル兵の遺体を発掘したと発表したが、その後9月に、第3国へ1人の遺体が移送されていた。これをとりはからったのは、ロシアだったとみられる。ロシアは否定しているが、この第3国が、そう伝えている。

水曜に変換されたバウメル軍曹の遺体は、その軍服とブーツもともに返還された。

バウメル軍曹の遺体返還は、ちょうど総選挙の直前に実現したのだが、実際には、これまで37年間諦めずに、遺体の捜索にあたってきたイスラエル軍、また返還のためにあらゆる労を惜しまなかったこれまでのイスラエル首脳たちの働きの成果だと、担当のイスラエル軍少佐は語っている。

なお、あとの二人、ツビ・フェルドマンさん、ユダ・カッツさんの消息は不明のままなので、捜索は続く・・

「Body of soldier Zachary Baumel, missing since 1982 Lebanon War, brought home」2019年4月3日『The Times of Israel』
https://www.timesofisrael.com/body-of-soldier-zachary-baumel-missing-since-1982-battle-in-lebanon-brought-home/

石のひとりごと

今回の総選挙の投票者数は、433万7284人(有権者の68.4%)というのに驚かされる。イスラエルは実に小さい国なのだ。それなのに、これほどまでに中東、世界情勢を振り回している。

次に述べるが、イスラエルは、この小ささにもかかわらず、月に探査機を飛ばす技術力、経済力も持っている。イスラエルがなぜ、これほどまでに世界に影響を及ぼすかをみれば、聖書がまさに、ただの宗教書ではなく、現実のことを記した書物であることは明らかである。

 
執筆: この記事は石堂ゆみさんのブログ『オリーブ山便り』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年4月17日時点のものです。

―― 表現する人、つくる人応援メディア 『ガジェット通信(GetNews)』

関連記事(外部サイト)