老衰で亡くなる人が増えています(すきま医学(niche medicine))

今回はブログ『すきま医学(niche medicine)』からご寄稿いただきました。

老衰で亡くなる人が増えています(すきま医学(niche medicine))

厚生労働省の人口動態統計[1]によると、「脳血管疾患」を抜いて、「老衰」が2018年の死因第3位(死亡数約11万人)となりました(第1位は約37万人の「がん」、第2位は約21万人の「心疾患」)。厚生労働省の「死亡診断書記入マニュアル」では、(死因としての)老衰は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いるとされています。

この「自然死」というのも難解な用語です。私の学生時代の講義で、「老衰は病態であって、病名ではない」「死因を老衰とするのは医師の怠慢である」と、ある教授が力説していました。

以前では、「老衰死の割合はその国の医療水準の指標である」と看做されていました。医療水準が上がれば老衰死は減少するという訳です。日本でも戦後間もない頃をピークに減少傾向が続いていましたが、2001年以降増加し、2018年では全死亡者の約8%を占めています。世界最高水準との評価も得ている日本の医療ですが、この国で老衰死の割合が増加しているのは何故でしょうか。

最近では90歳以上の超高齢者が増えてきました(老衰死は高齢になるにつれて割合が高まり、95歳以上では死因の第1位)。超高齢者の場合、たとえ検査を駆使して診断を付けたとしても、予後の改善には繋がらないことが少なくありません。また、終末期の在り方に関する意識の変化からなのか、施設や在宅での看取りを希望する患者や家族が増えています。当然のことですが、病院とは異なり、検査の手段には自ずと限界があります。

老衰死の割合が増加している理由は、「十分な検査を行わずに死因を特定しなければならない状況が増えているから」ではないでしょうか。別の言い方をすれば、厚生労働省や財務省の敷いた「医療費削減のレール」に乗っている(あるいは、乗せられている)からとも言えそうです。実際、「死因に占める老衰の比率が高い市区町村ほど医療費が低く、老衰で死亡するまでの介護費が増える傾向もない」と、日本経済新聞社は2017年12月に発表しています[2]。

少し古いデータですが、1961年〜1981年の久山町(福岡県)の60歳以上の剖検606例を分類したところ、臓器萎縮以外に何等病変が観察されない(つまり明らかな死亡原因のない)例の頻度は1.2%であったとのことです[3]。老衰の定義をいわゆる自然死(狭義の老衰死)の場合のみとすると、実は、「老衰とは稀な死因である」ということになります。

一般的に、施設・在宅医療に関わる医師が、(1か月程度)経口摂取困難な、概ね80歳以上の寝たきり患者を看取った場合、「老衰」と診断するケースが多いようです。もちろん、直接的な死因となる疾患を抱えていないことや事件性のないことが前提となりますが。死亡直前の誤嚥性肺炎の併発は「広義の老衰死」に含められる事が多いようです。

精査すれば老衰以外の死因となる可能性は確かに高いのですが、高齢者(特に超高齢者)の場合は治療としての介入もまた困難ですし、患者や家族も希望しないので、あえて積極的な病名探しをせず「老衰」として対応している場合も多いのです。また、死因を「老衰」とすると、大往生を遂げたようで、残された家族が救われた気持ちになることも少なくないでしょう。老衰死の増加は、ある意味、社会の成熟度を反映しているのかも知れません。

しかし一方、死亡診断書の死因欄に「老衰」と記入する際に、「病気の見逃し」に対する不安や「診断や治療への積極性」に関する葛藤を抱えている医師もまた多いのです。

参考資料

[1]厚生労働省HP 平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai18/dl/gaikyou30-190626.pdf

[2]日経調査 2017/12/25 日本経済新聞電子版
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25021820U7A221C1MM8000/

[3]尾前照雄, 上田一雄:老年者の疾病と死因. 日本老年医学会雑誌 22(3): 207-217,1985.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics1964/22/3/22_3_207/_pdf/-char/ja

 
執筆: この記事はブログ『すきま医学(niche medicine)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年10月24日時点のものです。

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