「東京リベンジャーズ」がヒットした理由 二つに分かれるヤンキー映画の登場人物

「東京リベンジャーズ」がヒットした理由 二つに分かれるヤンキー映画の登場人物

「東京リベンジャーズ」がヒットした理由とは

 映画「東京リベンジャーズ」の興行収入が8月29日までに40億円を超え、今年前半の大ヒット作「花束みたいな恋をした」の38億1000万円を超えた。主演の北村匠海(23)を始め、山田裕貴(30)や吉沢亮(27)ら売れっ子が出演陣に揃ったとはいえ、どうして大当たりしたのか。

「東京リベンジャーズ」が当たった理由を考察したい。

 主人公は冴えない暮らしを送るフリーターの花垣武道(北村匠海)。10年前の高校時代もヘタレなヤンキーだった。

 ある日、高校時代の彼女・橘日向(今田美桜、24)が、暴走族・東京卍會の抗争に巻き込まれて死亡したのを知り、それを阻止するため、タイムリープする。昔の彼女を助けるために過去へ行くぐらいだから、武道は正義の人だ。

 高校時代の武道をなぜか気に入っていたのが、東京卍會の総長でマイキーこと佐野万次郎(吉沢亮)。同じく正義の人だ。一般人や女性には決して危害を加えない。

 東京卍會の副総長でドラケンこと龍宮寺堅(山田裕貴)もやはり正義の人。弱い者いじめはせず、対立組織・愛美愛主(メビウス)との乱闘では身を粉にして戦った。

 ヤンキー映画を観ない人は「みんなワルで正義は存在しないのでは」と思うかも知れない。

 確かに東京卍會も愛美愛主も暴力に明け暮れる。

 だが、この作品に限らず、ヤンキー映画の登場人物は正義とワルに二分される。その線引きは何かというと、「高潔」か「卑劣」かである。

 この映画の場合、日向を命懸けで助けようとした武道、仲間を第一に考えたマイキーとドラケンは高潔。正義だ。

 一方、愛美愛主は卑怯でワルである。誰彼構わず危害を加え、ドラケンの謀殺を図ったからだ。観客側が肩入れするのは正義のヤンキーだけなのは言うまでもない。

 この映画はヤンキー同士の対決を描いたようで、正義とワルの戦いだった。実はヒーローものと同じ構図なので、分かりやすかった。勝つのは正義と決まっているから安心して観られたし痛快だった。これがヒットした理由の1つだろう。

 ヤンキー映画の観客は大義さえあったら、人殺しすら認める。半面、卑劣な行為は決して許さない。それが分かりやすいのは同じくアウトロー作品であるヤクザ映画だ。

「仁義なき戦い」(1973年)で主人公の広能昌三(故・菅原文太さん)は物語の冒頭でピストル殺人事件を起こした。この時点で十分にワルであるはずだが、観客は気にしない。高潔だからである。

 ワルはあくまで山守組組長の山守義雄(故・金子信雄さん)。私腹を肥やすことしか頭になく、子分は単に利用する存在と考えている。卑怯漢だ。

 正義の広能と卑怯な山守が対立したから、観客は熱狂した。

「そんな対立構図なら刑事物などでも可能だろう」という人もいるかも知れないが、アウトロー作品だからこそ描ける世界が数々あるのだ。


■時代劇との類似


 例えばヤンキー映画の集団での乱闘シーンである。「東京リベンジャーズ」でも東京卍會と愛美愛主の乱闘は最大の見せ場だった。一方、刑事に乱闘させるのは無理だ。自分たちが全員逮捕されてしまう。

 正義のヤンキーたちが乱闘シーンで卑劣な奴らを倒すと、スカッとする。ある種のデトックスと言える。実際にはヤンキーもヤクザも集団での乱闘などそうそうやらないだろうが、やっても不思議ではない存在なのでリアリティがある。

 世間では御法度の直接的制裁が見られるのもヤンキー映画の醍醐味。この映画にもそれが盛り込まれていた。例えば東京卍會が禁じていたケンカ賭博を開帳したメンバーのキヨマサこと清水将貴(鈴木伸之、28)を、叩きのめしたシーンだ。これも観る側を爽快な気分にした。

 実はこの構図と近いのは時代劇。賄賂を受け取ったり、女性を泣かせたりするような卑怯な役人らを、正義の侍が叩き斬る。奉行所などの手続きなどを経ないのだから、斬る側も相当問題があるのだが、観る側は全く気にしない。快哉を叫ぶ。ヤンキー映画とほとんど変わらない。

 ヤンキー社会、ヤクザ社会、あるいは江戸時代というパラレルワールドに物語を移すと、制作者側の自由度が飛躍的に高まる。観る側が内情をよく知らないので、どう作ってもリアリティが出るからだ。

 実際にはヤンキーだって相手を殺してしまうまで殴り続けることはまずないだろうし、江戸時代の侍が人を斬ることはほとんどなかった。

 150万部以上の発行部数を誇る日本一の少年漫画誌「週刊少年ジャンプ」のキーワードが「友情・努力・勝利」であるのはご存じだろう。これは同誌が考えるヒットの3条件でもある。「東京リベンジャーズ」の原作が掲載されているのはライバル誌の「週刊少年マガジン」だが、この3条件が見事に揃っていた。

 武道はドラケンの命を救うために奔走した。またマイキーがドラケンの死によって精神的に参ってしまうのも防いだ。これは当初、日向が死んでしまうという運命を変えるためだったが、やがてドラケンとマイキーに対する純粋な思いに変わった。友情だ。

 また、武道はヘタレだったが、努力によって精神的に強い男に成長した。さらには東京卍會と武道らは力を合わせて卑怯な愛美愛主に勝利した。

 ヒットの要素が詰め込まれたストーリーだったのだ。

 この映画は当初昨年10月9日に公開を予定していたが、新型コロナの感染拡大によって、今年7月9日公開になった。これは怪我の功名に違いない。

 ヤンキーもののメインターゲットは言うまでもなく10代。その夏休みと重なったのは大きい。

 また近年はヤンキーものの大型作品の制作が減ってしまい、小栗旬(38)が主演した「クローズZERO」(2007年)「クローズZEROII」(2009年)以降は数えるほどしかなかったのも影響しているはずだ。勧善懲悪の物語であるヤンキー映画の需要はいつの時代も確実にある。

 若者たちが現実のヤンキーに憧れているかというと、そうではない。警察庁の調べによると、暴走族の数は1982年の4万2510人から2019年には6073人に激減している。

 若者たちはヤンキー映画を通じて正義の実現を見たがっている。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月5日 掲載

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