国際映画祭でいきなり高評価、「僕はイエス様が嫌い」は“令和のカメ止め”になれるか

 5月31日、映画「僕はイエス様が嫌い」が公開される。奥山大史監督(23)の初の長編だが、そもそもこの映画は、彼が大学の卒業制作として撮り始めたものだった。結局、就職活動に追われてペンディングになるも、就職後にようやく完成させるや――、

 第66回サン・セバスティアン国際映画祭:最優秀新人監督賞
 第29回ストックホルム国際映画祭:最優秀撮影賞
 第3回マカオ国際映画祭:スペシャル・メンション
 第19回ダブリン国際映画祭:最優秀撮影賞

 出品した全ての国際映画祭で何らかの賞を獲ってしまったのだ。海外でまず評価され、逆輸入のような形で公開される異例の作品である。一部では早くも“令和のカメ止め”との呼び声も高い。奥山監督に聞いた。

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――海外で認められるという自信はあったのか。

奥山:賞をいただいたことはもちろん嬉しかったです。でも、正直言って、なぜ?という気持ちが大きかったですね。4つの映画祭には立ち会いましたが、それぞれの反応の違いを感じられて面白かったです。

――作品のストーリーは、地方のミッション系の小学校に転校した少年・ユラが、お祈りの時間など慣れない風習に戸惑いつつも、彼にだけ見える“小さなイエス様”の手助けもあって、学校にも馴染んで友達もできる。しかし、ある出来事をきっかけに神とは何かを考えはじめる――というものだ。一見、難解そうに感じられるが、ユラは小さなイエス様と一緒に風呂に入ったり、遊んだりもする。途中まではファンタジー映画かと思わせる作りで、考えようによっては“神への冒涜”とも受け取られかねない。しかも、英題は「JESUS」である。

奥山:最初に出品したスペインのサン・セバスティアン国際映画祭は、カトリックの国ですから、そこでこの映画が上映されるのはリスキーで怖かったです。でも、小さなイエス様がスクリーンに現れるたびに、皆さんが心から笑ってくれているのを見てホッとしました。カトリックが身近すぎるあまり、かえって見たことのない映像だったのかもしれません。

――他の国の反応はどうだったのだろうか。

奥山:ストックホルム(スウェーデン)やダブリン(アイルランド)は、スペインほどキリスト教徒が多いわけではないので、単純に映画として面白いと言ってもらえました。特にダブリンは日本映画好きの方が多くて、「構図に小津安二郎の影響を感じる」とか「演出に是枝裕和の影響を感じる」とか「テーマの選び方が伊丹十三に似ている」とか、僕自身気づかなかったことを教えてもらうという体験をしました。一方マカオ(中国/特別行政区)には、非常に熱心なキリスト教徒が多い。彼らは映画を観て腑に落ちないという感じで、上映後に「私はクリスチャンなんだけど、あなたは神を信じているのか」とか聞いてくる方が少なくありませんでした。クリスチャンであればあるほど、丁寧に見てもらった気がします。僕もキリスト教についてもある程度、調べた上で撮影しました。それでもタイトルの付け方であったり、神様の出し方であったり、信者の方から見たらリスキーな取り上げ方もしているので、監督はどう思っているのか聞いてくる方が多かったですね。

――監督は、キリスト教徒なのか。

奥山:僕も小学校からミッション系の学校で、毎日、礼拝もあり、宗教の時間もあり、日曜礼拝にも通っていましたから、洗礼こそしていませんが、信じていたと言っていいと思います。

――この作品で脚本、撮影、編集も兼ねている。大学の卒業制作と聞くが。

奥山:そうです。でも芸大と違って、卒業制作というシステムがあるわけではないんです。僕は映像制作ゼミというところにいたので、そういう形になったんですが……仮編集までできましたが、間に合わなかったんです。それで企画書及び脚本を卒論ということに。

――それで卒業できたのか?

奥山:完成品として提出するはずだったんですが、(ゼミの担当教授に)メールで企画書と脚本を送ったら、「楽しみにしています」という返事が来て、結局そのままに。ヒヤヒヤでしたが、あとで確認すると、単位、もらえてました。理解のある方で……。

――なぜ就職後に完成させることに?

奥山:僕は昨年4月に広告代理店に就職したのですが、6月にサン・セバスティアン国際映画祭の選考担当の方が来日したんです。一応、仮編集まではできていたので、見て欲しいと思って持ち込みました。すると、すごく気に入っていただき、是非、完成させて欲しいと。次回作で映画祭に参加できるかもしれないと思って、大慌てで完成させたんです。

――それが最初の受賞に繋がったわけだ。そもそも、なぜ映画を作ろうと?

奥山:高校時代は演劇に夢中になりました。役者ではなく演出、作り手としてひとつの世界を作り上げたいと。でも、演劇は制約があるんです。映像なら自由になれる気がしたんです。元々、映画を観るのは好きでしたからね。ロイ・アンダーソン監督の「さよなら、人類」とか好きで、是枝監督も尊敬しています。大学時代は、早稲田の是枝ゼミに潜り込んでいました。何か学びたいと、2年間、勝手に行って……。是枝監督も黙認で、正式なゼミ生に混じって、企画のプレゼンまで一緒にやってました。貴重な時間でしたね。そこで出会った人たちが、この映画のスタッフにも加わってくれています。

――この作品では女優の佐伯日菜子も出演している。学生映画にどうやってキャスティングできたのか。

奥山:“キャストコール”ってありまして、芸能事務所に「こんな役があるんですけどいかがでしょう?」というお伺いをするんです。それで佐伯さんが興味を持って来てくださったんです。低予算ですから、本当にご厚意で出てくださったんです。本当にありがたかったです。

――それ以前にも奥山監督は、『Tokyo 2001/10/21 22:32〜22:41』という短篇作品で、大竹しのぶを使っているが。

奥山:大竹さんの主演でフィクションを作ってみたいと思っていて、大学1年の時に巻物みたいな長い手紙を、大竹さんの所属事務所に送ったんです。でも、半年経っても音沙汰なしで、大竹さんに直接届けに行ったんです。500枚の絵コンテを持って。すると事務所から「半年後なら1日明いてます」と。1年半くらいかかってスケジュールを調整してもらいました。

――大竹しのぶが監督の熱意に負けたようだ。レンズ付きフィルム「写ルンです」で撮影した3000枚もの写真を繋げたアニメーションは、マスコミにも取り上げられて話題に。

奥山:僕が成長してから、もう一度ご一緒できたらと思っています。

――在学中には、衣料品ブランド「GU」のCM撮影までした実績もある。そこまで映画に夢中なのに、なぜ就職を?

奥山:よく「人の繋がりで入ったんでしょ」みたいなことを言われるんですけど、普通に就職活動して、普通にテレビ制作会社とか落ちまくりました。で、たまたま受かった広告代理店に入ったんです。やっぱり、社会と接点がありつつ作ったほうがいいと思うんです。あんまり若いうちから映画だけの生活を送ると、かえって良くないと思います。今活躍されている方の多くが、元々テレビのドキュメンタリーであったり、ドラマやCMの監督をされています。監督を目指すなら、これは意識したほうがいいと思います。むろん、生活もありますしね。

――そのスタートとなるのが「僕はイエス様が嫌い」公開である。東京ではTOHOシネマズ日比谷のみの単館での公開というのも珍しい。

奥山:その後、順次公開となる予定です。どのくらいの方が来てくださるのか、全く読めませんが、ご覧いただければ楽しんでいただけると思います。是非、足を運んでください!

週刊新潮WEB取材班

2019年5月21日 掲載

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