討ち入りにかかった費用は約9500万円! 映画「決算!忠臣蔵」公開記念・中村義洋監督×濱田岳対談

 来る12月14日は、赤穂浪士が吉良邸討ち入りを成し遂げた日にあたる。それから三百余年、令和の時代にスクリーンに蘇った「忠臣蔵」は、勧善懲悪でメデタシとは終わらない。いつの世も先立つものは――。そんなお金を巡る人間喜劇へと我々を誘ってくれるのだ。

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 いったい討ち入りにはどれほどの費用が必要で、それを赤穂浪士はどう捻出していたのか。

 現在、公開中の映画「決算!忠臣蔵」は、「お金」という今までにない視点から、大石内蔵助(くらのすけ)をはじめとした浪士たちの姿をコミカルに描く。

 本作を手がけた中村義洋監督と、浪士役で出演した俳優の濱田岳さんが、11月14日に東京・神楽坂のla kaguで対談を行った。長年の盟友という2人だけに、撮影現場のこぼれ話から忠臣蔵の知られざるエピソード、そして映画を基にした中村監督の小説『決算! 忠臣蔵』(新潮文庫)の誕生秘話まで、話題は尽きぬことばかり。話は、映画界のヒットメーカーと人気俳優の、最初の出逢いまでさかのぼる。

中村 岳がまだ10代の頃、2007年に公開された伊坂幸太郎さん原作の「アヒルと鴨のコインロッカー」で初めて仕事を一緒にしたんだけど、とても信頼できる俳優さんだと感じたんですよ。その後、「フィッシュストーリー」(09年公開)や「ゴールデンスランバー」(10年公開)をはじめ、たくさんの作品にご出演頂いた。で、今回の「決算!忠臣蔵」は、歴史物には珍しく「お金」の話が軸になっているから聞きますが、あなたは5年ほど前から急激に稼ぎ始めましたよね? 有名な某ケータイ会社のCM出演も、その頃から……。

濱田 ちょっと、ちょっと……。冒頭から何を喋り出すんですか! 中村監督の映画に出演して、人生が変わったということにしておきます。

中村 そうそう、今回の撮影現場で、クランクアップの時に出演者が集合した写真をここに持ってきたんですが、よく見てください。全員正座している中で、濱田さんお一人だけが……。

濱田 あ、胡坐をかいて座ってる……。

中村 随分とリラックスされてらっしゃる。やはり余裕を感じますねえ(笑)。

 振り返れば、配給会社から中村監督に忠臣蔵の企画の提案があったのは、17年の3月14日。この日は偶然にも、吉良上野介(きらこうずけのすけ)と刃傷沙汰を起こした赤穂藩主の浅野内匠頭(たくみのかみ)が切腹をさせられた、まさに命日だった。プロデューサーから渡されたのは、山本博文氏が著した『「忠臣蔵」の決算書』(新潮新書)。この本を原作に、コメディ映画を撮って欲しいと依頼を受けた中村監督は、読んで一気に、新しい忠臣蔵の世界に引き込まれたという。さっそく自ら脚本も書くと言ってはみたものの、そこからが苦難の連続だった。

中村 依頼を頂いてから、3、4カ月かけて過去の忠臣蔵の小説を読んだり、映画を観たりしてみたんだけど、どの作品でも大石内蔵助が実に立派な人物として描かれているんですよ。内匠頭が事件を起こした後、藩士たち200名超を赤穂城に集めた「大評定(だいひょうじょう)」の場面でも、内蔵助は一人静かに座ってお家再興は恐らく無理だろうと見越していた、というのが定説なんですけど、これでは悲劇にしかならない。どうやったら忠臣蔵をコメディにできるのか。そこで改めて山本先生の本や、内蔵助が遺した、討ち入りにかかった経費の史料『預置候金銀請払帳(あずかりおきそうろうきんぎんうけはらいちょう)』の中身を計算し直してみたら、クスリと笑えて面白かった。例えば、江戸詰で仇討ちの急先鋒だった堀部安兵衛の金遣いが凄い。

濱田 堀部安兵衛といえば「高田馬場の決闘」とか、恋の話が有名なお侍さんですよね。

中村 討ち入りの全体予算を現代のお金に換算すると、いくらになると思いますか。ざっと計算しても、約9500万円かかっているんですが、このうち2500万円もの大金を、堀部だけのために使っている。その他の浪人たちも、頻繁に赤穂と江戸を往復し、どうやら物見遊山のような気持ちもあった様子なんですね。交通費や宿代で1人あたり片道36万円、往復だと72万円もの旅費がかかっている。それに加えて、江戸に滞在すれば家賃や食費、討ち入りに備えて用意する武器や鎖帷子(くさりかたびら)など、人数分揃えればかなりの出費ですよ。あ、内蔵助の「本当の敵」は、こいつら金遣いの荒い部下たちだったんじゃないかって気づいたわけです。

 ちなみに映画では、当時の貨幣価値を1文が30円、金の小判1両が12万円という計算で行っている。この数字に則れば、赤穂藩の筆頭家老である大石内蔵助の年収は6923万円。一方で堀部安兵衛は923万円、大石と同い年で藩の経理担当だった勘定方の矢頭長助(やとうちょうすけ)は266万円とかなり格差がある。

中村 さらに資料を読み込むと、チームの話にできるのではと思いついた。堤真一さん演じる内蔵助は、とにかく女好きで金勘定ができない。そんな彼を、岡村隆史さんが演じる矢頭ら勘定方の面々や、横山裕さん演じる剣豪の不破数右衛門(かずえもん)などが支える物語にしようと。しかも赤穂は兵庫県です。関西弁が飛び交う忠臣蔵にしたら、充分コメディ作品として成り立つ。そんな時、たまたま岳の出ていた「わろてんか」が始まったんですよ。

■遊郭の前で


濱田 大阪が舞台になったNHKの朝ドラですね。

中村 演技のために、岳が関西弁をみっちり勉強している、という話をキャッチしてね。脚本の中に出てくる赤穂藩士で、茶道や俳句を嗜む大高源五にあなたを当てはめてみたら、スルスルと筆が進むようになりました。改めて、すごい役者になられたなあと、感慨無量でした。それに、どんな映画、小説でも、物語に入り込むためにはお客さんや読者と近い目線まで下りてきてくれる登場人物が必要。大高源五の視点は、ちょっと現代人ぽいのがピッタリなんです。

濱田 かなりそうですね。

中村 小説の方でも、未来からやって来たかのような雰囲気を出しています。

濱田 討ち入りに対して、赤穂浪士の中でも一番冷ややかというか、イケイケどんどん、という感じのお侍さんじゃないですもんね。

中村 ちなみに、彼は借金もしていてね。さっき話した「請払帳」には、内蔵助にお金を恵んでもらっている武士がいっぱい出てくる。そのうちの一人が源五です。さらに彼は、大阪商人からも借金をしていて、句集を出したという話もあります。

濱田 演じていても、なんだか不思議な人だと思う。

中村 源五は謎が多いけど面白い。ちなみに、映画では遊郭の前でスケベ面をした彼と内蔵助が並んでいるシーンがあって、岳と堤さんの表情に「説得力」があっていいなと思いましたよ。ところで、私の小説は読んでくれましたか。

濱田 読みました。

■うれしくて楽しくて


中村 感想なんか聞かせてもらってもいいですか。

濱田 普段は、まず作品の原作があって、そこから監督が脚本をおこして映画の撮影に入りますよね。だけど、今回はイレギュラーな形で映画の脚本が先にあって、そのストーリーに基づいて監督の小説が出来た。だから現場にいた人間としては、キャラクターの顔や動いている姿をこの目で見ているので、小説はとても読みやすかったんですよ。僕ら俳優は、これまで描かれたことがないタイプの赤穂浪士を演じました。役者としては、とてもチャレンジングな話で、歴代の先輩方がやってきたことに対して全く違う視点で挑んだ。ですから、緊張というか、これをご覧になった先輩たちはどう思うのだろうという気持ちが、心のどこかにはあります。僕らが全てをやり遂げた後で、監督がさらにもう一度、あの撮影所で自分たちが演じた、まさに生きていた侍たちを、小説として世に出してくれた。彼らの存在を証明してくれたというか、それが本当にうれしくて楽しくて。陳腐ですけど、もう一回映画が見たくなってきました。

中村 真面目だね……。

濱田 真面目なことも言うんです!

中村 今年2月の終わり頃まで撮影をしていたじゃないですか。クランクアップ前後くらいから、プロデューサーと、この映画は小説にしたらいいんじゃないかって話をしていて、その時は僕自身が書くとは言ってなかった。でも、原作本の出版社である新潮社さんに小説の話を持っていったらOKを出してくれた。で、映画の編集も終わり、音の仕上げを残す前の6〜7月くらいからかな。もう一生懸命に書きました。その時期に一緒に飲んだよね。

濱田 確かアフレコの時に小説の話を聞いたと思います。やはり、脚本と小説を書くことは、まったく違う作業になるんでしょうか。

中村 最初、新潮社さんに行って打ち合わせした時に、何枚書けるかわからないけれど1週間だけ書いてみるので、それを読んでやっぱりこれでは無理だと感じられたら遠慮なくおっしゃってください、と私から言ったんです。それで書いたら、いけるんじゃないかということになって。ただ、出した原稿には担当編集者から大量の赤字が入って戻ってくる……。あと「視点」というものを凄く注意されました。書いていく際の視点がすごく入り乱れていたんですよ。基本的には内蔵助の視点で書いているつもりなんだけど、不意に西村まさ彦さん演じる足軽頭の吉田忠左衛門の視点で書いてしまっていたり。それはダメですよって言われ、「いや、おれ視点がいっぱいある小説読んだことあるよ」なんて言ってはみたものの、家帰って読み返してみたら一冊もなくて(笑)。だけど忠臣蔵って登場人物がたくさんいるから、みんなの視点を描きたくなっちゃう。それくらい魅力的な物語だからこそ、今でもこうして映画や小説が作られているのではないかと思うんです。

中村義洋(なかむらよしひろ)
1970年生まれ。映画監督、脚本家。主な監督作品に「ゴールデンスランバー」「残穢―住んではいけない部屋―」「殿、利息でござる!」「忍びの国」など。

濱田岳(はまだがく)
1988年生まれ。1998年、ドラマ「ひとりぼっちの君に」でデビュー。中村監督作品には、対談でふれたものの他に「みなさん、さようなら」「予告犯」など多数出演。

「週刊新潮」2019年12月5日号 掲載

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