『戦争は女の顔をしていない』に触発…コロナ禍の“女性兵”戦争映画ベスト3

■体を張る生身の女優たち


 巣ごもり生活の中で、動画も大半は見飽きたよ、何か毛色の変わったものはない?というムキは少なくないだろう。そこでおススメしたいのが、女性兵をテーマにした戦争映画。ソ連もの3つを解説する。

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 新型コロナウイルスと人間の戦いは、時に「戦争」とたとえられる。

 コロナ禍が「戦争」ならば、戦いの最前線は病院などの医療施設だ。そこには多くの女性が兵士=医師・看護師・医療技師として働き、その活躍は真に尊敬に値する。

 ただ、私たちは普段、「女性兵士」という存在を意識することはあまりない。ところが今、女性兵士が注目されている分野がある。

『戦争は女の顔をしていない』(小梅けいと画 KADOKAWA)というコミックが売れている。

 ノーベル賞作家スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチの重厚なノンフィクションを漫画化した作品としてWEB連載が始まった時から話題になり、今年1月、単行本が発売されるとジャーナリストの池上彰氏が大きく紹介、10万部を越えるベストセラーになった。

 内容は第2次世界大戦時、ソビエト連邦(ソ連)軍に従軍した女性兵たちの戦場回想録だ。愛らしい少女マンガのタッチで描かれているが、国家と軍に忠誠を誓い、戦地の悲惨に耐え、敵兵を殺すに至る女性兵たちのつらい経験とその後の苦しみがシリアスに綴られている。

 優しい絵柄と女性兵の残酷な経験のギャップが読者の心をとらえたようだ。

 日本人からすれば、女性が男性と同じ兵として入隊・従軍することは非人道的に感じられるかもしれないが、それは違う。ロシア革命以降、科学的社会主義を標榜したソ連政府は徹底した男女平等を理想とした。そのため女性も募兵の対象とし、多くの女性が入隊を名誉と感じて志願し、志気も非常に高かったのだ。

 そうしたソ連時代の女性兵たちの活躍を描いた実写映画が何作か製作されている。すべてロシア映画で、ハードな戦闘描写のある本格的な戦争映画である。

 ロシア映画といえばソ連時代の「ヨーロッパの解放」などのように長く退屈なプロパガンダ映画を想像するかもしれないが、近年のロシア映画はスピーディで緊張感ある演出のハリウッド映画のようなエンタメに進化した。昨年劇場公開された「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」は実物の戦車を使った戦争娯楽作として話題になり、雑誌『映画秘宝』では年間ベストテンに選ばれた。

 そのように見応えのあるロシア映画で、生身の女優たちが女性兵に扮し、体を張った演技で戦闘を繰り広げる作品をここで3本紹介しよう。すべてDVDレンタルやネット配信で観ることができる。外出自粛が終わっても、在宅ワークは“基本”となりそうな情勢の中で、コロナと戦う女性たちに思いを馳せながら、これらの作品に触れてみてはいかがだろう。


■すべてをさらけ出した入浴シーン


「レッド・リーコン1942 ナチス侵攻阻止作戦」
(2015年 監督レナ・ダヴェルヤーロフ Amazonプライムで配信 DVDあり)

 タイトルの「リーコン」とは「Reconnaissance」すなわち偵察部隊の意であり、「レッド・リーコン」はソ連赤軍偵察部隊を意味する造語で原題には使われていない。

 独ソ戦序盤の1942年のソ連国境付近、上空を飛行侵犯するドイツ輸送機の撃墜の高射砲基地が置かれるが、日常の軍務がヒマなので男性ソ連兵はすぐにアルコール依存症になり、苦慮した軍曹は「酒を飲まない兵士」の配属を求める。そうしてやって来たのが女性兵の小隊だった。彼女たちは軍役に誇りを持ち志気も高く砲兵として優秀だった。

 ある時、近くの森でナチス兵が目撃され、軍曹は5名を選抜して偵察部隊を編成、森の奥深く偵察にゆくが、行軍にも銃の扱いにも慣れない砲兵ゆえに女子っぽい混乱があり、そこまでは可愛らしい「女の子映画」に見える。しかしその後ドイツ兵との激しい銃撃戦が始まり、彼女たちは勇敢にドイツ兵に向かってゆくも、次々と倒れてゆく。

 彼女たちの若さや女性らしさは、映画中盤のギョッとするほどすべてをさらけ出した入浴シーンで充分すぎるほど描かれ(みな金髪の美人女優が演じている)、可憐で美しい命が散ってゆくのは胸が痛むが、映画はそれが戦場の現実だと容赦なく認識させ、けっして悲劇としては終っていない。

 本作はAmazonのカスタマーレビューで4つ星以上が70%と非常に評価が高い。劇場未公開だが、充分に見応えのある隠れた名作だ。

「ロシアン・スナイパー」
(2015年 監督セルゲイ・モクリツキー DVD)

 独ソ戦における黒海近くのオデッサ塹壕戦やクリミア半島のセバストポリ軍港攻防戦で大きな戦果をあげた女性狙撃手リュドミラ・パヴリチェンコの伝記の映画化だ。伝記といってもほぼすべてが戦場描写で、とくに狙撃シーンの演出が緻密でまさにプロフェッショナルを感じさせ、圧倒的な緊迫感がある。女性主人公でも狙撃手としてまったく遜色のない演技だ。

 主演女優ユリア・ペレシルドは日本では知られていないが多くのロシア映画に主演している人気女優で、本作では狙撃兵の禁欲的な日常や前線での泥まみれの軍務をニコリともせずにハードボイルドに演じつつ、一方で恋人を思う情熱的で艶やかな面も見せて男性視聴者を魅了する。本作は日本での劇場公開もされていて、近年のロシア戦争映画のレベルの高さを知らしめた一作である。

 主人公リュドミラ・パヴリチェンコは74年に死去しているが、自伝『最強の女性狙撃手』(原書房)が18年に翻訳出版されている。彼女の数奇で過酷な人生を詳しく知りたければそちらを読んでみるのもいい。ソ連軍の女性狙撃手については『フォト・ドキュメント女性狙撃手 ソ連最強のスナイパーたち』(原書房)という本も出ており、『戦争は女の顔をしていない』とは別の角度からソ連の女性兵士たちの実態を知ることができる。

■長い金髪をバッサリ


「バタリオン ロシア婦人決死隊VSドイツ軍」
(2015年 監督ドミトリー・メスキエフ)

 昨年「彼らは生きていた」や「1917 命をかけた伝令」など第一次世界大戦の最前線を描いた映画が続けざまに公開されたが、本作も第一次大戦を舞台にし、しかも女性兵士だけの小隊がドイツ兵と激しい銃撃戦を交える珍しい映画だ。

 フィクションのような設定だが事実にもとづき、主役はマリア・ボチカリョーワという実在した帝政ロシア軍の女性将校である。日本の女優でいえば藤山直美か渡辺えりといった雰囲気の女性で、映画は彼女による「婦人決死隊(Women's Battalion of Death)」の結成と部隊の戦闘を描いている。

 前半は女性たちの隊への志願とハードな軍事訓練が描かれる。資産家の令嬢までが軍に入隊志願し、長い金髪をハサミでバッサリ切り落とすシーンは衝撃的で、部隊の女性兵たちはみな坊主頭だ。彼女たちは厭戦気分の高まった男性兵士たちを刺激するために結成され、最前線へと送られ、激戦に身を投じる。

 中盤でロシア革命が起こりボチカリョーワの運命は激動するのだが、彼女はそれでも女性部隊を率いて戦い続ける。女性兵たちの戦意は高く、戦死者が続出する中でも女性将校は情に流されることなく指揮をとり、戦果をあげる。

 戦後、彼女は革命政府によって国外追放されるのだが、ソ連が解体された90年代に名誉回復された。そうした経緯があっての、英雄的な扱いの映画化だ。けっして欧米では企画されない種類の物語であり、戦争映画好きは見ておいてけっして損はない。

 プーチン政権下、対外強硬路線をとるロシアでは戦死は名誉の象徴だ。だからロシア映画では戦死した女性兵は英雄化され、日本映画の「ひめゆりの塔」のように悲劇の象徴として描かれるわけではない。そこには日本人とは別の戦争観があり、前出の映画を見ることで、我々はコミック『戦争は女の顔をしていない』と別の視点を得ることができる。

 ちなみに世界を見渡せば、現在でも女性兵を「男女平等」の象徴としてとらえる国があり、イスラエル、ノルウェー、スウェーデン、北朝鮮などは女性も徴兵の対象になっている。

 今、日本の医療現場で戦っている女性たちも、いつか映画に描かれるかもしれない。従軍もコロナの医療行為も命がけの仕事である点に違いはない。ここで紹介した映画を見ながら、今、医療に携わっている彼女たちにエールを送ってほしい。そして早くこのコロナ禍が終息することを祈ろう。

藤木TDC
1962年生まれ。ライター。映画、酒場ルポ、庶民史等のテーマを中心に雑誌・書籍に執筆。著書に『消えゆく横丁』(ちくま文庫)『東京戦後地図 ヤミ市跡を歩く』(実業之日本社)『アウトロー女優の挽歌 スケバン映画とその時代』(洋泉社)ほか多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月22日 掲載

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