『戦場にかける橋』 “死の鉄道”建設をめぐる日英の対立と友情 〜映画には映らない過酷労働で落命した数万の人々〜
2022年01月10日 11時30分 BANGER!!!
■「死の鉄道」泰緬鉄道
『戦場にかける橋』は、もう60年以上も前の1957年に製作された戦争映画の名作のひとつ。テーマ曲「クワイ河マーチ」も軽妙かつ勇壮な調べの名曲です。
太平洋戦争中、日本陸軍は連合軍捕虜と現地人を動員して同盟国タイと占領下のビルマ(現ミャンマー)を結ぶ軍用鉄道「泰緬(たいめん)鉄道」を建設。だが悪性のマラリアとコレラが蔓延するジャングルでの強制労働、劣悪な衛生および栄養環境により、動員された連合軍捕虜約6万5000名のうち約1万3000名が命を落とした。「泰緬鉄道」が「死の鉄道」と呼ばれた所以である――という史実をネタにしたフィクションです。
価格:¥4,743+税
発売・販売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
なぜフィクションかというと、クワイ河木橋は爆破されることもなく、続いて鉄橋も完成、そして泰緬鉄道のタイ側は戦後も使われ続けているのですから。また橋の設計・建設は日本軍技師が独力で行ない、捕虜たちは単純労働に従事しただけであってイギリス軍技師が橋の設計をすることなど、一切なかったのですから。
けれども、イギリスの流儀を押し通すニコルソン英軍大佐(アレック・ギネス)と、日本の流儀を押し通そうとする斉藤大佐(早川雪洲。若い時には“影のあるイケメン”としてアメリカ女性たちのハートを鷲掴みにしたサイレント時代のハリウッド大スター)の対立と融和、だがその友情を押し潰すように迫る戦争の影という展開は、なんともドラマチック。155分の長編ですが、観ておくべき1本と言えましょう。
泰緬鉄道に興味を持たれた読者諸兄姉には、史実ベースの『エンド・オブ・オールウォーズ』(2001年)がおすすめ。組織が崩壊したなかでの正義とは? 人間の尊厳とは? を、少々ブラックなユーモアを交えながら真摯に問いかけた秀作です。
ちなみに「泰緬」とは、タイの和名「泰」とビルマの和名「緬甸」を合わせたものです。
コマンド部隊
映画中盤、イギリス軍は泰緬鉄道爆破のために「コマンド」を送り込みます。正規軍による正面突破ではなく特殊部隊による冒険的秘密作戦、というのがいかにもイギリスですね。
映画などの日本語訳では「決死隊」「特攻隊」と訳される「コマンド」ですが、もともとはボーア戦争(※南アフリカ戦争)時にイギリス軍を翻弄したボーア人部隊の名称です。日本軍的に言えば「斬り込み挺身隊」といったところでしょうか。
省かれた人々
劇中、細木で作られた粗末な十字架が何度か画面に映し出されます。もちろんそれは多くの連合軍捕虜が死んでいることの比喩です。
ですが泰緬鉄道建設で最大の犠牲を払ったのは、東南アジア全域から集められた「労務者」で、3万人とも8万人とも推定される人々が命を落としているのです。
けれども映画では「男たちは労働に駆り出されている」というセリフはあるものの、作業場面に現地労務者は登場しません。なぜなら『戦場にかける橋』は日本人と英米人の物語であって、東南アジア人の物語ではないからです。
そもそも、当時の東南アジア〜東アジアにおける独立国は日本と中華民国とタイ王国だけで、他の地域はすべて欧米の植民地でした。セイロン島駐留イギリス軍の様子などなど、デヴィッド・リーン監督が意図したか否かは分かりませんが、この映画はその一端をも描いているのです。
文:大久保義信
『戦場にかける橋』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年1月放送
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