広瀬アリス主演『失恋めし』は「食べ歩いて見つけたお店」で撮影! 大九明子監督が語るゆる〜い食ドラマ製作秘話

広瀬アリス主演『失恋めし』は「食べ歩いて見つけたお店」で撮影! 大九明子監督が語るゆる〜い食ドラマ製作秘話
『失恋めし』(c)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

■大九明子×食ドラマ

『勝手にふるえてろ』(2017年)『私をくいとめて』(2020年)の大九明子監督が、“食”を撮る――。木丸みさきのコミックエッセイを原案にした連続ドラマ『失恋めし』が、2022年1月14日(金)からAmazon Prime Videoで一挙配信となる(2022年7月より読売テレビで放送予定)。

『失恋めし』(c)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

町のフリーペーパーで、コミックエッセイを連載している漫画家・キミマルミキ(広瀬アリス)。彼女が出会った人々が経験した失恋エピソードとそれを癒す料理の数々が、毎話紐解かれてゆく。各エピソードには、門脇麦や三浦透子、深川麻衣に林遣都といった多彩なゲストが登場。芸達者な面々が織りなす食×失恋の数々は、観る者の心をほっこりふっくらと温めてくれることだろう。

今回は、大九監督にインタビュー。実際の飲食店で行われたという撮影の舞台裏や、大九監督が本作に込めた想いを教えてもらった。

大九明子 監督

監督自ら食べ歩いて見つけた、実際のお店で撮影

―サバの味噌煮や串焼き、大学芋など庶民的な料理がたくさん登場しますが、撮り方で工夫したところなどを教えてください。

“シズルカット”みたいなものはもちろん丁寧に撮っていきましたが、そこまでこだわっているというほどのものではなくて。湯気を足したり、角度を細かく調整することは一切なく、皆さんが普段食べているものをなるべく素敵に撮る、という意識でした。

全体として、失恋した人がその料理を食べているときに感情がわっと出てくるようなものになるように、とは考えていました。あと、今回は配信作品なのでASMR的な、音を楽しむものにもできたらといった感じです。

『失恋めし』(c)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

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―なるほど、“料理”というより“食事”なんですね。ASMRという観点も面白いです。確かに、配信作品だとテレビやスマホなど、様々な形態で観られますね。ヘッドホンやイヤホンで聴くと、音のシズル感が高まるかもしれない。

はい、ぜひそういう風に楽しんでいただければと思います。撮影・録音・照明も、いつも一緒に映画を作っているチームで今回も臨んだのですが、私は普段から音の遊びをたくさん入れたい方なんです。食べるシーンに関しては、録音技師の小宮元さんと一緒に“おいしそうな音”を一生懸命開発して入れています。

『失恋めし』(c)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

―『美人が婚活してみたら』(2018年)のお寿司のシーン、『勝手にふるえてろ』の喫茶店のシーンなど、大九監督の作品の食事シーンは空間も含めて印象に残っています。この部分、こだわりがあるのでしょうか。

私個人として気を付けているのは、シナリオの段階でカット割りをしないということです。現場で俳優に動いてもらって、「じゃあこういう風にしよう」と考えているので、知らず知らず「空間全体を使う」という意識が働いているのかもしれません。

『失恋めし』に関しては、実際にあるお店を使うと決めていました。私自身が事前に食べ歩いて、本当においしいなと思ったところに撮影のお願いをして、使わせていただいています。あと、カニクリームコロッケのお店や、酒盗カルボナーラなど、自分の行きつけのお店をいくつか「ここ、おいしいんですけど、どうですか?」というプレゼンのつもりでしれっと入れました(笑)。

『失恋めし』(c)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

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―飲食店の応援にもなりますよね。

そうなんです。それは私自身、考えたことですね。そうなってくれたら本当にうれしいです。

先ほどお話しいただいた空間演出に関してですが、通常、劇映画やドラマであれば撮影のしやすさが優先されがちです。素敵なお店でも、「ここは“引きじり”がないからやめておこう」ということになったりする。でも今回に関しては、そういった考えは全部捨てて「おいしい」とか「衝撃を受けた」で選びました。第1話に出てくるサバの味噌煮なんて「こんな真っ黒なの、見たことない!」とすごく衝撃的だったので、撮るには狭いんだけどどうにかやりたい! とみんなに協力してもらい、実現しました。

『失恋めし』(c)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

―そうだったんですね!

はい。そういう環境下だと、なかなか映像作品では見たことのない関係性が生まれてきます。たとえば、シナリオはシナリオで最高に面白くなるように作っていくのですが、いざ現場に入ると想定していた動きができなくなる。そして「じゃあ、最初から向き合っちゃおう」といった風に、その現場に合った動きが生まれてくるんです。そこにある本物の建物や食べ物、人間が教えてくれることが多いです。

『失恋めし』(c)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

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お店の人もみんな“本物”! 思わぬハプニングも?

―先ほどの「食べ歩き」に通じるかもしれませんが、大九監督の作品は「下町×歩く」というシーンが多く登場します。

おっしゃる通り、登場人物がどういう町に住んでいて、どういう暮らしをしているか、どういう部屋に住んでいるか……。町全体から人間をプロデュースすることはすごく大事にしています。それと、判官びいきといいますか、大都会すぎるところを撮りたいと思えないんです。渋谷のスクランブル交差点は私より上手に撮る人がいっぱいいるでしょうから別にいいです、みたいな感じです(笑)。生活臭のするところが好きですね。

『失恋めし』(c)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

―“生活臭”は『失恋めし』の中にも息づいていますね。「実際のお店で撮った」と聞いて合点がいったのですが、手前に座ったミキが奥に移動する――つまり、縦の動きがありますよね。そして、店員さんが彼女の荷物を移動する。席移動が縦関係で描かれる珍しさと、店員さんの荷物移動のナチュラルさが、まさに生活臭。“生活感”たっぷりでした。

今回、お店の方もご本人に出演いただいています。まずお店の撮影許可をもらって、「つきましては出てもらえますか」もセットでお願いしていて。大体の人が「えー!」とおっしゃるのですが(笑)、普段やらていることをそのまんまやるだけですから! とお願いしてOKいただきました。

あのシーンに関しては、「お客さんが移動したら荷物を運んであげることはありますか?」と聞いたら「ありますね」というお話だったので、「じゃあやってみましょう」と(笑)。俳優さんにやるような演出をしたら、もしかしたら普段と違う動きになってしまうかもしれず、そうなると私の狙いともずれてしまうので、普段通りのことをしていただきました。今回の俳優は全員私の演出意図をわかってくれていたので、そういった店員さんの動きに臨機応変に対応してくれました。

第4話に登場する大学芋のお店は、70歳を過ぎていらっしゃるご夫婦で切り盛りされていて、そうするとこっちの準備が終わる前に始まっちゃうんです、調理が(笑)。

『失恋めし』(c)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

―さすがプロ……。厨房の前に立つと、動き出してしまうんですね(笑)。

ええ(笑)。助監督が「ちょっと待ってください。広瀬さんを撮ってから……」って一生懸命説明するんですが、向こうには向こうのこれまで培ってきた手順やペースがありますからね。「大丈夫、回しましょう!」と言ったら俳優もすぐわかってくれました。

お店の人たちって誰よりもその場所にいるのが似合うから、俳優が存在感で負けてしまうんです。それはどのお店でもそうで、感動しましたね。急に予定と違うものをお願いしても対応してくれるし、カニクリームコロッケのお店は情報の手違いでランチメニューを準備してくれていたんですが、ディナーメニューで撮らせてもらえないかと相談したら「いいですよ」とパパっとやってくださったり……。私たちの感覚としては、その空間に「お邪魔する」意識でした。

『失恋めし』(c)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

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こだわった“ゆるさ”とは?「1日に30分くらいユートピアがあっていい」

―脚本づくりについても伺いたいのですが、原案のコミックエッセイは一つのエピソードにつき見開き2ページくらいですよね。これを約30分に膨らませるのは大変だったのではないでしょうか。

自由度がめちゃくちゃありました。最初にお話をいただいた際に「10話ぐらいの連ドラで“引っ張り”がほしいです」というお話だったので、最初は『捨ててよ、安達さん。』(2020年)のような引っ張りがあって最後に明かす、みたいなものを提案したんです。そうしたらプロデューサーが「主人公はいつ恋愛するんでしょう?」と聞いてきて、そっちの引っ張りか! と(笑)。

そこで、親しくさせていただいている脚本家の今井雅子さんを呼んで、恋愛部分を一緒に構築してもらいました。今井さんは食べることもすごく好きだし、何よりも、まず面白いものを書いてくれる人ですから、適任だと思ったし、「ゆるいフリーペーパーを作っている会社」というアイデアをくれたのも今井さんです。

あとはプロデューサーサイドから「ミキが漫画家になった理由を描いてほしい」というリクエストが来たのですが、そこには反対しました。そういうのは知りたくないし、ゆるくていいんだ! と。そして話し合いの末に「じゃあ毎回、理由は言いますが、どれが本当かは分からないってことにしますよ、いいですね」と宣言したら、みんなで笑っていました(笑)。脚本づくりの間も私は「ゆるく、ゆるく」と口すっぱく言っていましたね。“ゆるく生きる”って大変なんだなと思いました(笑)。

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―そういう経緯があったのですね。ただそのおかげで、本作には心地よいユートピア感があるように思います。ある種ドキュメンタリー要素もある食の部分を、カラフルな衣装や濃ゆいエキストラも含めてファンタジックに包み込むといいますか。それが観る者にとっての、ある種の救済になるとも感じます。

そうなんですよ。「ユートピア」という言葉は、私も何回も出しました。「現実なんて知ったことじゃないし、丸々架空の町を作って、そこはユートピアでいいじゃないか」と伝えました。1日のうち、30分くらいはユートピアに身を置いて楽しんでほしいという想いを込めて、作りました。

私が配信作品を観るときに一番気持ちがいいのは、寝る前なんです。『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』(2007〜2019年)を1話見て、笑ってから寝るみたいな(笑)。「なんだこの人たち、羨ましいなあ。こんなふうにゆるく暮らしたいな」と思って、「自分もゆるく行こう」と気持ちよく寝てもらえたらうれしいです。

大九明子 監督

取材・文:SYO

『失恋めし』は2022年1月14日(金)よりAmazon Prime Videoにて一挙独占配信、読売テレビにて7月より放送予定

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