マッツと取っ組み合いの大喧嘩!? アナス・トマス・イェンセン監督が語る『ライダーズ・オブ・ジャスティス』制作秘話

マッツと取っ組み合いの大喧嘩!? アナス・トマス・イェンセン監督が語る『ライダーズ・オブ・ジャスティス』制作秘話
『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(c) 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.

■イェンセン×マッツ最新作

マッツ・ミケルセンが犯罪組織に殺害された妻の復讐を誓う軍人を熱演する『ライダーズ・オブ・ジャスティス』が、2022年1月21日(金)より公開となる。軍人マッツを支えるのはITを駆使する統計学者たちで、何も知らない一人娘も復讐劇に巻き込まれていく。

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(c) 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.

ハードなアクションに感動も盛り込まれ、すべての予想をことごとく裏切る意外性に満ちていて、かつめちゃくちゃ笑える本作。脚本家として活躍しながら、オリジナル監督作では2000年の長編映画デビューから常にマッツを起用しているアナス・トマス・イェンセン監督に、作品について、マッツとのコラボレーションについて聞いた。

注意:映画の内容に一部言及しています。

アナス・トマス・イェンセン監督

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「何が起こるかわからないよ」という観客へのメッセージ

―監督の作品には、いつもエキセントリックなキャラクターが登場しますが、それは意識していますか? 本作にも「問題を抱えている人は集まるんだ」という台詞があるように、どこかに問題を抱えている人が登場することが多いように感じます。

私は現実より20%くらい誇張するのが好きなので、作品に登場するのは通常より問題のある人たちが多いですね。私が監督したオリジナル作品は、すべて“はみだし者(misfits)”の男性についての映画です。

彼らはリアルな社会の外側に、自分たちのための社会を作り出します。言い換えれば“家族”を作っていくわけです。家族というのはどれも違うし、どんな家族にも少し変わったところがあります。でも、誰にも共通した“島”というものがある。島の中で似たような人が集まってうまく人生を成立させれば、他の人たちに受け入れられる必要は特にないんじゃないかと思っているんです。

問題を抱えている人だけでなく、有名人は有名人で、裕福な人は裕福な人で集まりがちですよね。同じような苦しみを経験していて、気持ちの上でも社会的にも、どこか似たものを感じている人たちが集まるのだと思います。それがとても興味深いので、ドラマを書いているときに、そういうことを考えるのが面白いんです。

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(c) 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.

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―特に今回は屈強な軍人とオタクな学者たちという、普通だったら絶対に交わらないような人々が出会い、家族のようになるのが面白かったです。

すべての登場人物が家族を失っている設定なんですが、その喪失にアプローチする方法が人によって違います。マークス(マッツ・ミケルセン演じる軍人)は自分の内面から隠れ、娘とも向き合わずに現実否認してしまう。喪失には理由があるはずだと、ロジックを探したりアルコールに逃げたりする。

でも喪失を受け入れていなかった人でも、それをシェアできるようになります。娘のマチルデさえも。何が起こるかわからない人生そのものを受け入れよう、家族を喪うようなことがあった人々も人生を楽しんで、新たな家族を探そうという物語なのです。

―彼らにクリスマスセーターを着せるアイディアはユニークでした。家族的な感じがよく出ていたと思います。どういった経緯で思いついたのですか?

その通り、家族らしさを表すためでした。おとぎ話として物語をスタートして、結末にもおとぎ話の要素を雰囲気として入れる、という意味でもありました。あのセーターは、そうした要素の一部として選んだんです。ただ、欧米人にとってクリスマスは家族が集まって一緒に過ごすものなので、セーターはそこにも効いてくるんです。それに単純に笑えるでしょう? かっこ悪くて(笑)。

―(笑)クリスマスそのものにもファンタジー性があるということなんですね。

もちろんです。あの映画の世界の一部でもありますね。冒頭の教会のシーンは、まるでディズニー映画みたいでしょう? クリスマスのおとぎ話は、いつもあんなふうに始まりますよね。そこから様々なジャンルが入った物語を展開させたかったので、あの冒頭シーンは「このおとぎ話みたいな始まり方を本気にしないでね。この映画では何が起こるかわからないよ」という観客へのメッセージになっているんです。

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(c) 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.

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「デンマーク人のユーモア感覚は、かなりブラックなんです」

―本作で描かれる、本当に小さな事柄にも予想を裏切られました。常に観客の予想を裏切るような物語にしようと考えていますか?

はい。映画学校では、最初はこう、中盤はこう、とストーリーテリングのルールを教えますが、驚きの要素が少なすぎます。Netflixを見ていても、エキサイティングなことが起こらないなと思ってしまいます。子ども向けの映画のように、すべてが正しくていいことばかりだと、驚くようなことは何も起こらない。私にとっては本を読むにしても、音楽を聴くにしても芸術作品を見るにしても、驚きの要素が大きいんです。

すべての芸術作品において、驚きというものは重要な要素だと考えています。ストーリーテリングのルールにも驚きが入っているべきです。ルール通りに映画を作れば安全でしょうけれど、私は何が起こるかわからない映画の方が好きなんです。何を見ているのか分からないくらいがいい(笑)。だから自分が好きな映画を作りました。

―通常の映画であれば悪いことが起こるフラグが立っているのに、その悪いことすら起こらないこともあるのが意外でした。

(アルフレッド・)ヒッチコックは「ベンチの上に爆弾を置いたら爆発させろ」と言います。でも現代の観客は、爆弾を見たら「爆発するんだろうな」と思いますよね。だから私たちは、ストーリーをどう作っていくか格闘しつづけなくてはならない。みんな新しい物語が好きだからです。

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(c) 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.

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―監督の作品の特徴は“ブラックユーモア”と評されることが多いですが、本作には虐待、紛争によるPTSD、グリーフケアなど、さまざまな問題が描かれています。監督はユーモアを人生の助けになるものと言ってらっしゃいますが、ブラックユーモアも同じように考えていらっしゃいますか?

区別していないですね。デンマーク人のユーモア感覚は、かなりブラックなんです。ほかの文化圏の人々ならユーモラスに表現するのを躊躇するようなこともユーモアにしてしまうと思います。私自身、人生で経験した一番おかしかった笑いの場は葬式でした。ユーモアが人生の一部なんです。

この作品を戦地でPTSDを患った兵士にも見せましたが、ユーモアがある描写だったことに、すごく喜んでくれました。シリアスな問題をあまりにも真剣に見つめすぎると、話ができなくなってしまうのではないかと思っているので、難しい問題こそユーモアを持って向き合うべきじゃないでしょうか。人生にユーモアは大事だし、役立つものですから。

―類型的な軍人だけれど実はPTSDに苦しみ、本当は助けが必要だったと理解するマークスの役は、なんでも一人で解決しようとしてしまうマッチョなスーパーヒーローへのアンチテーゼなんでしょうか?

この映画は、リーアム・ニーソンが主演しているような映画を脱構築したものなんです。ヒーローが本当はヒーローじゃないとか、悪い人が悪者とは限らないとか、この映画の要素はすべて“復讐もの”のアクション映画からきていて、それをコメディにしたんです。それが最初のアイディアでした。

―マークスは出会って5分で相手の首を折る殺人兵器のような軍人ですが、この役のためにマッツは特別にアクションの訓練をしたのでしょうか。

特にしていません。彼はすごく身体能力が高いし、これまで多くのアクション映画に参加してきたので銃の扱い方も知っているし、どう動けばよいのかも分かっています。もちろんリアルに見える演出は考えましたが、特にトレーニングはしなくても演じられたんです。

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(c) 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.

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「マッツは狂気に隠れたキャラクターの感情を深く理解して演じる」

―マッツ・ミケルセンと最初に会ったとき取っ組み合いの大喧嘩をしたそうですが、原因はなんだったんでしょうか。

私たちはすごく若かったし、どっちも飲んでいて、どっちも相手に勝ちたかった。正直、なんで口論になったのかも覚えていないんですよ。気がついたら床の上を転がって喧嘩していて。リーダータイプの男は、ライオンみたいに相手を支配したがるとしか言いようがないですね。ビールを飲んでいるうちはいいですが、本気で飲み出すと……。いまはもう、そんなことはしませんけど(笑)。

―まるで『アナザー・ラウンド』(2020年)のようですね。

ほとんどあんな感じでした(笑)。

―マッツはあなたの映画でエキセントリックな役柄を多く演じてきましたが、そのことについて彼と話したことはありますか? 毎回どのように役作りしているのでしょうか。

仕事について彼とはよく話しますが、マッツ自身、ノーマルなキャラクターを裏切るような役を演じるのが大好きなんです。俳優にとって、ぶっ飛んだキャラクターは演じていて楽しいものですし、彼が素晴らしい俳優である理由の一つが、どんなにクレイジーな役を演じたとしても、心理的には必然性があると表現できるところです。なぜそう感じてそう振る舞っているのかが観客に伝わります。マッツは狂気に隠れたキャラクターの感情を深く理解して演じるので、どんなに奇抜なことをしても観客が共感できるんです。

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』(c) 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.

―マッツの多面性を引き出すために、個性的な役をキャスティングしているのですか? それとも彼ならば問題なく演じられると信頼して、最初から当て書きしているのでしょうか。

両方ですね。いろんな要素のコンビネーションなんです。『ライダーズ・オブ・ジャスティス』の登場人物は、これまでの作品と比べると普通だと思います。ある意味、子どものようにシンプルな心理状態なんですが、描写がクレイジーなので「奇妙だ」と言われるのだと思います。マッツとのコラボレーションに関しても、さきほど言ったように彼は演技ができる人なので、ぶっ飛んだ役でも観客に理解できるように落とし込めるんです。

『メン&チキン』(2015年)はキャラクター像がぶっ飛びすぎていたので、最初は誰が演じるのかさえイメージできませんでした。自分勝手だし行動はダーティで、人類でも最悪な役だと思います。でも、マッツのおかげで観客に見せられるものになりました。それでも観客たちは上映後に「あの登場人物は最低だったね!」と言っていましたが(笑)。

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―賛美歌をバックに暴力シーンが描かれるのが印象的でした。あの賛美歌はどのような歌詞なのでしょうか。

あれは「神様、私たちを地獄から救ってください。私たちが問題に対処できるよう、お助けください」という歌詞なんです。ただ、メロディとしても古典的な聖歌が暴力シーンと対照的で合っていると思いました。

―ではトイレでマークスが暴れるシーンも、歌詞は情景にぴったりだったんですね。

選曲は感覚的なことなので説明は難しいんですが、あのシーンもいろいろと試してみたなかで、あの曲がぴったりでした。シーンが誇張されるような、ちょっと現実とは違う空気になるのがいいと思ったんです。

―次回作の構想はありますか?

“時間”に関する映画を考えているんですが、撮るのは少し先になりそうです。本作に数年かかりきりでしたし、脚本を頼まれている作品もあり、そういうサイクルで動いていますからね。

取材・文:遠藤京子

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』は2022年1月21日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開

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