池松壮亮×松居大悟監督インタビュー!『ちょっと思い出しただけ』は照れ隠しナシで“人を想う”ラブストーリー

池松壮亮×松居大悟監督インタビュー!『ちょっと思い出しただけ』は照れ隠しナシで“人を想う”ラブストーリー
池松壮亮 松居大悟

■松居大悟×池松壮亮×尾崎世界観

ラジオドラマ、舞台、ミュージックビデオ、映画――。この10年余りで、数多くの作品を共に作り上げてきた松居大悟監督と池松壮亮。ふたりの最新共闘作『ちょっと思い出しただけ』が、2022年2月11日に劇場公開を迎える。

(c)?2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

第34回東京国際映画祭で観客賞とスペシャル・メンションをW受賞し、人気グラフィックデザイナー・大島依提亜による8種類ものチラシビジュアルを制作したことでも話題を呼んでいる本作。ケガを負い、いまは照明スタッフとして生きる元・ダンサーの照生(池松壮亮)とタクシー運転手の葉(伊藤沙莉)のカップルを中心に、様々な人物の2021年から2015年の6年間を「誕生日」に限定して描いていく。ジム・ジャームッシュ監督の名作『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991年)に影響を受けたというクリープハイプの尾崎世界観による楽曲に触発された、松居監督によるオリジナル作品だ。

(c)?2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

今回は、松居監督と池松にインタビュー。ふたりの道のりと、作品ひいてはミニシアターに対する想いを語っていただいた。

池松壮亮 松居大悟

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お互い遠慮せずにいられるのが“強み”

―おふたりの出会いは、2010年のラジオドラマ「相方のあり方」からでしょうか。

池松:そうですね。ただ収録は一日だけで、ほとんど話はしていないです。

松居:挨拶とかはしたから(笑)。そのあとは、2012年の舞台「リリオム」(テーマ曲はクリープハイプ『傷つける』)です。

―松居監督は、池松さんのこの10年の変化をどう見ていらっしゃいますか?

松居:出会ったころは20代前半だったと思いますが、おじいちゃんみたいな人だなと感じていました(笑)。全てにおいて達観していて、言葉の説得力がすごく、頼もしい。その深度が、一緒に作品を重ねて悩んで考えていくうちに増していったように思います。日本を代表する俳優ですし、いい意味でちゃんと変わらず、ブレずに歩み続けていて、会うたびにフェーズが変わっている気がします。

池松壮亮 松居大悟

―お互いにどういう部分が“合う”と感じていますか?

松居:最初に舞台を一緒にやっているときとか、結構つらいことが多かったんですよ。そういう痛みを知っているから、お互い遠慮せずにいられるところはあります。池松くんは僕の映画を観てよくわからないところはちゃんとそう言ってくれますし、気を遣わないから僕も気を遣わなくていい。

池松:気を遣わなくていい関係を長い年月をかけて構築して信頼しあえているのは、とても感謝しています。互いに意見が合わず、ぶつかって終わってしまうような関係はたくさんあるでしょうから。松居さんは本当にさらけ出してくれて、作品をやるうえで裸になってくれるので、同じ方向を向きやすいと思っています。

(c)?2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

松居:池松くんは友だちが少ないけど、めっちゃ大事にするんですよ。そこがすごくいいところだなと思います。何十年もこの業界にいたら、“業界臭”のする人が増えていきそうなものなのに、池松くんの周りには同業種とか関係なく普通にいいやつばっかり(笑)。

池松:いいやつが好きです(笑)。

松居:そうそう。今回もそういった友だちを巻き込んで一緒に作れましたし、周りにいる友だちを大事にしているところがすごく好きですね。

池松:そんなことを発表されるとは思わなかった(笑)。

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観た人それぞれが「ちょっと思い出す」映画に

―『ちょっと思い出しただけ』は、『君が君で君だ』(2018年)以来のおふたりのタッグ作です。どのような思いで臨まれましたか?

松居:今回は原点回帰ではないですが、クリープハイプ、池松壮亮、撮影監督の塩谷大樹くんほか、ずっと一緒にやっていたメンバーと4、5年ぶりにまた作品づくりができて、すごくうれしかったです。みんなと話し合ったのは、男女二人のラブストーリーだけど、その日、一日が主役になっていて、観た方がそれぞれ“ちょっと思い出す”ような作品にしたいということです。観ている人が余白を感じられるように、なるべく人物に寄らないようにして、カメラも極力動かさないように作っていきました。

6年分の定点観測のような構造ですが、「特別な一日にならないようにしよう」とは脚本段階で考えていましたし、現場でもそう話していました。誕生日なので何かしらはあるのですが、あくまで観る人が自分の人生を「ちょっと思い出しただけ」になるように、ドラマティックにならないようには心がけました。

(c)?2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

池松:ドラマティックが鉄則の恋愛映画をドラマティックにせずに作り上げるというのは、とても面白い発想ですよね。そして今作はたまたま恋愛映画のフォーマットを借りているだけであって、思い出すのは人でも場所でも、ものでもいいと思います。失われた過去をどう捉えていくか、質を上げずに密度をどう高めていくか、という試みに面白さを感じていました。松居作品の別種の代表作を目指して、それを実行しやり遂げるためのピースの一つとして参加するつもりでした。

時期的には、コロナによるミニシアターの危機的状況に、ミニシアター作品がどうあるべきかを打ち出すことを考えていました。ジム・ジャームッシュがミニシアターブームを作って、『ナイト・オン・ザ・プラネット』が日本公開されてからちょうど30年。そして、いま「ジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ2021」「ヴィム・ヴェンダース レトロスペクティブ ROAD MOVIES/夢の涯てまでも」といった特集上映がコロナ禍で行われ、そこに若い観客がたくさん訪れていると聞きます。自分も観直して、改めてメジャー映画では掬い取れない本当に素晴らしいことをやっていたと感じますし、他にも多くの気づきがありました。自分自身も自覚的にも無自覚的にもその恩恵を沢山受けてきました。 時代の変わり目に、過去を慈しむような映画は多く作られますし、それらとどう差別化し、この映画独自のものを獲得し形にできるかということも考えました。

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ミニシアターは、多様性を死守している場所

―ミニシアターについてのお話、おふたりのご意見をぜひ伺いたいです。

松居:『くれなずめ』(2021年)が公開延期になって、演劇もしんどい状況になっているのを見てきたし、自分にやれることは何だろうとずっと思っていました。結果論ですが、ジャームッシュがあの頃にミニシアターをみんなのもの――マニアックなものやサブカルチャーではないものにしたように、『ちょっと思い出しただけ』が「映画館で映画を観るっていいな」と思うきっかけになったら、すごくいいなと思います。

劇場で映画を観ていた人が結構配信のほうに行ってしまって、まだ全員が戻ってきているわけではないと感じています。僕はミニシアターや小劇場で作品と触れ合うことが好きだから、あまりミニシアターを知らない人と触れ合うためにはどうしたらいいか、やれることは全部やりたいなと思っています。

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池松:自分は作り手側の人間なので、ミニシアターをめぐる現状において、どちらかといえば「自分たちのせい」という感覚が強いです。もちろん他にも議論すべき余地はあります。でも何より今できることはミニシアターで人が見たい、観てよかった、と思えるような作品を打ち出し続けることだと思っています。例えばジャームッシュ映画を小さな映画館で観ることが何だかおしゃれでかっこよくて、誰かに自慢したくなっていたようなあの頃のように。

ミニシアターとは何か? といわれたら、ひとえに多様性と同じものではないかと考えています。資本にまみれていないものをちゃんと受け取ることができて、大きな映画館ではかからないような、多くの国の映画、世界と人生の光と影に出会える凄い場所です。この映画産業においては、より多様性を死守している場所ですよね。

『ちょっと思い出しただけ』に関しては、ステイホームや緊急事態宣言、蔓防など、疲れ果ててきた誰かがたまたまふらっと街の小さな映画館に入ったとして、何かしら自分の人生を投影して、ちょっと酔いしれることができる。うっとりできて、切ないんだけど何だかすっきりする。いつか夜明けはやってくるし、今生きている。これからも。そんな映画を目指すべきだと思っていました。照生と葉が思い出しただけの話にするべきではなかったし、登場人物全員がちょっと思い出しただけの話、作った人間たちがちょっと思い出しただけの話、観たお客さんがちょっと思い出しただけの話――そういうところを個人的には目指していきたいと思っていました。

(c)?2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

松居:そう、だからタイトルを出すタイミングは悩みましたね。照生が思い出しただけの話ではなく、観た人全員がちょっと思い出しただけの話にしたかったから、あのタイミングになりました。

東京国際映画祭での上映の際に印象的だったのは、みんなで暗闇の中で映画を観て、笑っている人もいればのめり込んで観る人もいて、それぞれが違う感じ方をしているということ。そして、上映が終わった後に灯りが点いて、みんながちょっと映画をまといながら、マスクの下に表情を隠して、それぞれの生活に帰っていく。少し遠回りして、ふた駅分歩いて帰ったりしたら最高だなと思います。そして昔の彼女のことをSNSでチェックしたりして……いや、しないほうがいいか(笑)。

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「好きとは何か」にちゃんと向き合った映画

―作家性についても伺いたいのですが、本作を拝見して、キスの途中でしゃべるシーンなどの“気恥ずかしさ”に松居監督らしさを感じました。『くれなずめ』にも通じますが、決めゼリフや王道展開になりかけると、茶々を入れる感じというか。

松居:『くれなずめ』は茶々を入れるというか、ふざけなければいけない構造でしたから(笑)。そんな作品も好きですが、今回は些細な部分にとどめました。ただ、それはきっと無意識的なものだと思います。たとえば水族館のシーンでも、「踊ったまんまじゃ終われないな」と思っちゃう。ふたりが愛し合っているときも「ここにはキスシーンを入れないでおこう」と考えていました。

池松:茶々を入れるというのは照れ隠しですから、茶々をいれない方が恥ずかしいことって結構ありますからね。これまでの松居さんの作品からすると、「“好き”ってなんだよ」と言っていた人間が、「好き」をちゃんとやったのが今回だと思います。そういった点でも、別種の作品になるとは思っていました。

(c)?2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

―なるほど! 確かに、これぞラブストーリーというシーン自体、いままでは少なかったかもしれません。

池松:やってるこっちは恥ずかしいですよ。「夢で待ち合わせね」って言わされるのとか、死ぬほど嫌でした(笑)。「なんでこんなの書いたの?」って言ったことがあります(笑)。

松居:え、使ったことありますよね。割と言いません?

―いやー……(笑)。

池松:言わない言わない(笑)。もちろん、先ほどおっしゃっていただいたような照れ隠しの部分はあるのですが、今回は極力茶々を入れずに、これまでの松居作品の格に通ずる“人を想うこと”に正面から向き合った作品だと思っています。

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取材・文:SYO

撮影:落合由夏

『ちょっと思い出しただけ』は2022年2月11日(金・祝)より全国公開

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