ウィル・スミス&ビヨンセがオスカー候補に! 驚きの実話『ドリームプラン』 最強テニス選手の育て方とは?

ウィル・スミス&ビヨンセがオスカー候補に! 驚きの実話『ドリームプラン』 最強テニス選手の育て方とは?
『ドリームプラン』©2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved 

■第94回アカデミー賞 6部門ノミネート

実在の人物を描くこと。それが多くの人にとって指針となったヒーローであること。そしてその行動が、常識を打破して、自らの信念に基づいていること……。これらはハリウッド映画の必勝パターンでもある。『ドリームプラン』は、まさにそのド真ん中を行く映画。第94回アカデミー賞で作品賞など6部門(主演男優賞、助演女優賞、歌曲賞、脚本賞、編集賞)にノミネートされたのも、作品の性質を考えれば納得の結果である。

ただしこの映画、先の必勝パターンの2つ目の条件がちょっと違う。主人公は、誰もが知るヒーローそのものではなく、ヒーローを“作り上げた”人である。だからこそ、王道のエンタメとは一味違う魅力が備わったのも事実だ。邦題は『ドリームプラン』だが、原題は『King Richard』。“王様リチャード”とは誰か? それはリチャード・ウィリアムズ。テニスのビーナス&セレーナ・ウィリアムズ姉妹の父親である。ある意味で、裏方。スーパースターを育て上げ、活躍させる側のストーリーこそドラマチックで映画にふさわしいと本作は証明する。そのプロセスがどんなものなのか。夢のような計画に想像力を掻き立てるという意味で、この邦題はなかなかうまいと感じる。

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姉のビーナス・ウィリアムズはグランドスラム(テニスの全豪・全仏・ウィンブルドン・全米の4大大会)で7回の優勝。妹のセリーナ・ウィリアムズは、なんと23回もの優勝を数える。ここまでの活躍をみせた姉妹は、テニスの世界のみにとどまらず、歴史的な存在と言っていい。そんな2人の偉業は、テニスの経験もなかった父の指導によって実現した。文字どおりの驚きの実話。これは映画にうってつけである。

スポーツを題材にしつつ、当事者、つまり選手を主人公にするのではなく、陰の立役者のストーリーを描く。しかも既成概念を打破する方法にトライし、その信念を曲げない。この点で重ねたくなるのが、ブラッド・ピット主演で映画化された『マネーボール』(2011年)。メジャーリーグのGM(ゼネラルマネージャー)が選手のデータ分析でチームを改革する物語は、縁の下の力持ちの重要性で感動させた。『マネーボール』も当時、アカデミー賞で作品賞などにノミネート。選手を導く側の傑作映画は他にも『ミリンダラー・ベイビー』(2004年)や『エニイ・ギブン・サンデー』(1999年)など多数あるが、それらも含めてカタルシスや爽快感をもたらす従来のスポーツ映画とまったく違う味わいも『マネーボール』と『ドリームプラン』に共通する。こうしたタイプの作品も人々の心を鷲掴みすることを2作は証明した。

『ドリームプラン』のリチャード・ウィリアムズの場合、「思い込み」と「自信」は突出している。自分ではテニスをプレーしていないのに、プロテニス選手で成功を収めれば大金が手に入ると知り、子供たちが生まれる前からテニスの教育法を研究。それを計画書にまとめ実行するという、かなり自己中心的な決意をする。最初の妻との間に生まれた6人の子供の中で、ビーナスとセリーナに才能を見出し、独自のトレーニング法でテニスの腕を磨いていくリチャード。当然、有名コーチなどテニス界の面々は彼の指導を疑問視するが、やがて姉妹は大会で実力を発揮。スポンサーもつくようになり、新たなコーチに指導されるようになるも、やはり肝心な場面ではリチャードが常識外の判断に固執したりも……。

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■“俳優”ウィル・スミスの集大成

はっきり言って、近くにいたら“面倒くさい人”である。でも、だからこそ映画の主人公としては効果的だと実感する。その最大の理由は、ウィル・スミスが演じているから。『バッドボーイズ』(1995〜2020年)や『メン・イン・ブラック』(1997〜2012年)のような当たり役のシリーズはもちろんのこと、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた『幸せのちから』(2006年)で伝わるように、意地でも自身の考えを貫き、夢を達成しようとする演技は、ウィル・スミスの真骨頂と言える。

そのためには相手の気持ちを誘導することも重要だが、彼の隠れた出世作『私に近い6人の他人』(1993年)では、その得意芸がすでに示されていた。要するに、このリチャード役は“俳優”ウィル・スミスの集大成なのである。今回のアカデミー賞主演男優賞も、ウィルのこれまでのキャリアを熟知したアカデミー会員から賞賛された、当然の結果なのだ。

こんな風に書いていくと『ドリームプラン』は、ウィル・スミスのワンマンショーのように感じられるが、そうではない。もしリチャードだけがぐいぐい前面に出てきたら、トゥーマッチな印象だったはず。やや浮世離れしたリチャードに対し、妻のオラシーンは現実を見据えて子供たちに接し、家族を守る。この思慮深いキャラクターで、演じたアーンジャニュー・エリスがアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたことは大きな喜び。熱演というよりも誠実な存在感として評価されたわけだから。そしてもちろん、ビーナスとセリーナを演じた2人のまっすぐな演技、そして要所でのそっくりな表情、たたずまいにも拍手を贈りたい。

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■テニス描写のリアリティ、ビヨンセの賞レースリベンジ

そして、こうしたキャラクターや俳優の魅力だけでなく、本作を成功に導いたのは、テニスのシーンのリアリティだろう。ラケットの振り方や、コートでの走り方、さらにボールの行方まで、テニスのあらゆるシーンに、映画としての“作り物”感がゼロなのだ。もちろんカット割りや編集でうまく見せている部分もあるが、プレイヤーを演じた俳優たちの努力と、作り手側のテクニックが見事にひとつになっている。テニスの映像がしっかり描かれているから、「勝つことだけがすべてではない」という、下手したら説教臭くなりがちなテーマも素直に響いてくる。

コーチと選手、スポンサーの関係や、マッケンローやサンプラス、カプリアティといった歴代の名選手の登場など、テニスのファンには裏舞台の見どころも揃えた『ドリームプラン』。満腹感を味わったエンディングで流れるのが、ビヨンセの「ビー・アライヴ」で、セリーナ・ウィリアムズの大ファンという彼女の強い愛も感じられるはず。

そのテーマ曲もアカデミー賞では主題歌賞にノミネートされた。ビヨンセはかつて『ドリームガールズ』の主人公役で絶賛されながら、アカデミー賞にノミネートされなかった苦い思い出もある。今回は主題歌だが、そんなビヨンセのリベンジの思いとともに聴けば、より感慨深いというものだ。

文:斉藤博昭

『ドリームプラン』は2022年2月23日(祝・水)より全国公開

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