凶悪犯に“感情”は生まれるのか?『クリミナル 2人の記憶を持つ男』 極悪ケヴィン・コスナーの胸熱サスペンス
2022年04月10日 11時30分 BANGER!!!
■極悪ケヴィン・コスナー
実直な正義漢やスポーツマンをハマリ役として、『アンタッチャブル』(1987年)、『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)、『ボディガード』(1992年)などで人気を不動のものとした名優ケヴィン・コスナー。『ダンス・ウィズ・ウルブス』(1990年)で監督としても成功を収め、キャリアは順風満帆だったものの、入魂の超大作『ウォーターワールド』(1995年)が本国で興行的に惨敗。監督・主演・製作を兼任した『ポストマン』(1997年)も振るわず、一時スランプに陥っていた。■粗野で凶暴な男に「人間らしい感情」が生まれる過程に心を打たれる
本作でコスナーが演じるのは、幼少期に父親から受けた虐待が原因で、倫理観や罪悪感、人間らしい感情が欠落してしまった凶暴な囚人のジェリコ・スチュワート。アナーキストによるテロを阻止する任務中に死亡したCIAエージェント、ビル・ポープ(ライアン・レイノルズ)の記憶を脳手術によって移植され、ビルが生前に保護していた天才ハッカー“ダッチマン”の所在を聞き出すための道具として利用される。■葛藤するジェリコの内面を表現した緻密なエレクトロニック・サウンド
本作のスコア作曲を手掛けたのは、現在コスナー主演のテレビシリーズ『イエローストーン』(2018年〜)の音楽を担当しているブライアン・タイラーと、彼と共にテレビシリーズ『HAWAII FIVE-0』(2010年〜2020年)の音楽を担当したキース・パワーの二人。『ワイルド・スピード』シリーズ(※)や『エクスペンダブルズ』シリーズ(2010年〜)、『アイアンマン3』(2013年)、『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年)など、オーケストラを用いたダイナミックな音楽を得意とするタイラーだが、本作ではアリエル・ヴロメン監督との話し合いで「普段とは違うタイプの音楽でいく」と決めたという。そこでタイラーはオーケストラを使わず、Nord Lead 2やRoland JUNO-106などのアナログシンセサイザーを駆使したエレクトロニック・スコアを作曲した。■※注:『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006年)から、『ワイルド・スピード EURO MISSION』(2013年)とスピンオフを除く、シリーズ全てのスコア作曲を担当。
かくして劇中では硬質な電子音と、畳み掛けるような打ち込みのリズムが鳴り響くことになったが、そのようなサウンドでジェリコの複雑な内面をどのように描いたのか。まずタイラーは、ジェリコの頭の中にビルの記憶が去来する状況を、リバーブのエフェクトで表現している。そして深遠な残響音とエッジの効いた電子音に、それぞれ善と悪、繊細さと強靱さといった対照的な要素を反映させているのである。■ポストロック/エレクトロニカ系の美しいテーマソングも必聴!
タイラーは映画音楽を本業とする一方、Madsonik名義でEDMアーティストとしても活動しており、本作のためにイスラエル出身の男女ポップ・デュオ、ローラ・マーシュと合作したエンディングテーマ「Drift And Fall Again」を書き下ろしている。リバーブを効かせた幻想的なサウンドと、ヤエル・ショシャナ・コーエンの夢心地のボーカルが、人生の漂流(Drift)と転落(Fall)を経て心の安らぎを得たジェリコの心象風景を連想させる、美しいテーマソングである。
記事にコメントを書いてみませんか?