『ディル・ベチャーラ』は号泣青春映画『きっと、星のせいじゃない。』インド版リメイク! スシャント・シン・ラージプートの遺作

『ディル・ベチャーラ』は号泣青春映画『きっと、星のせいじゃない。』インド版リメイク! スシャント・シン・ラージプートの遺作
『ディル・ベチャーラ』CS映画専門チャンネルムービープラスで2022年4月放送

■3つの<ディル・ベチャーラ>ポイント

タイトルの『ディル・ベチャーラ』はインドの言葉ヒンディー語で、「ディル」は「心」、「ベチャーラ」は「かわいそうな、哀れな」という意味である。「かわいそうな心、やるせない心」という意味にも取れるし、「心が痛む、心が沈む」という意味にも取れる。そしてこの映画は、3つの点で、見る者に「ディル・ベチャーラ」の感覚を味わわせる作品なのだ。

まず第一に、映画の物語自体が涙を誘うものであることだ。実は本作は、ジョン・グリーンの小説「さよならを待つふたりのために」を映画化したハリウッド映画『きっと、星のせいじゃない。』(2014年)のインド版リメイクである。甲状腺ガンを患っている少女と、骨肉腫で片足を切断した少年がガン患者の集いで出会い、文学などを通じて恋に落ちていく話で、2014年6月に公開されて世界的にヒットした。日本でも2015年に公開され、3億円近い興行収入を上げている。

その設定を、インド東部のコルカタに近い製鉄の街ジャムシェドプルに置き換え、主人公たちを年齢が少し上の大学生にしてリメイクしたのが本作なのだ。その他、細かい設定をいくつか変えてあったり、インドらしいファクターを付け加えたりしてあるものの、基本のストーリーは同じで、ラストは結末を知っていても涙がにじむ。また、ハリウッド版ではヒロインがある作家に傾倒し、未完の物語のラストをどうしても聞きたいため、アムステルダムに住む作家を訪ねるシーンがある。本作では作家がシンガーソングライターに置き換えられ、未完の歌を追求してヒロインはパリに住むそのシンガーを訪ねる。両方ともこのシーンは意外な展開になるため、観客は頬を張られたような感覚を味わうのだが、ラストでそれが癒やされる、という展開も同じだ。

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本作で、甲状腺ガンを患い、酸素吸入器が手放せないヒロインのキジーを演じているのはサンジュナー・サーンギー。『ヒンディー・ミディアム』(2017年)で主人公の妻の少女時代を演じて注目された女優で、本作でも素晴らしい演技を見せている。そして陽気で友だち思いだが時にはふざけ過ぎる、片脚が義足のマニーを演じるのはスシャント・シン・ラージプート。こちらは『PK ピーケイ』(2014年)や『きっと、またあえる』(2019年)で日本でもお馴染みの、見る者を引き込む演技ができる超イケメン男優だ。本作では彼が、ラストで我々を「ディル・ベチャーラ」状態、つまりやるせない気持ちにしてくれるのである。

■スシャント・シン・ラージプートの早すぎる死

第二の「ディル・ベチャーラ」は、本作の公開が新型コロナウィルス感染拡大の影響をもろに受けてしまったことだ。もともと『星のせいじゃない』の配給会社20世紀FOXは、公開直後の2014年夏にインドでのリメイクを決定したそうで、もっと早くに本作は完成するはずだった。ところが主演の2人がなかなか決まらず、紆余曲折のキャスティング作業の末、スシャント・シン・ラージプートが主演と決定したのが2017年10月。その後にサンジュナー・サーンギーが決定し、やっと2018年6月末から撮影が始まり、2019年2月に終了したのだった。

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当初、ポスト・プロダクションは半年もあれば終わるだろうと考えられていたらしく、2019年11月29日公開がアナウンスされていたのだが、その2週間前になっても作業が終わらず、結局公開は2020年5月8日に延期されることになった。この時点で誰が、翌年に起こるパンデミックやロックダウンを予想できただろうか。ところが、年が明けて2020年1月30日に初感染者が出たインドでは、その後感染者数増加が続き、3月24日から厳しいロックダウンに突入した。5月に入ってももちろん解除されず、その後ある事件が起きて、結局本作は配信を通じて公開される結果となったのである。その“ある事件”というのが第三の「ディル・ベチャーラ」で、何と6月14日に、スシャント・シン・ラージプートが自ら命を絶ってしまったのである。原因は、インド映画界のネポティズム(縁故主義)に嫌気がさしたため、と言われているが、遺書がなかったこともあって真相はさだかではない。こうして本作は結局、7月24日にディズニープラスホットスターによって配信されたのだが、スシャント・シン・ラージプートに敬意を表し、配信を利用していない人も見られるよう、誰でもがアクセス可能となった。

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■あのインド映画ネタなど細かな楽しどころも満載!

本作では、冒頭にスシャント・シン・ラージプートがギターを弾く姿に添えて、彼の言葉が出てくる。「惨めな自分と素晴らしい自分 どちらになるかは恐らく信仰心次第だ」そしてラストでは、彼の撮影中のショットがアルバムとして展開される。どれだけ惜しんでもまだ足りない、たぐいまれな才能がコロナ禍の最中に散った事件は、インドの映画界に深い傷を残すこととなった。第二と第三の「ディル・ベチャーラ」がなければ、本作は劇場公開されてヒットしていたかもしれない。音楽はA・R・ラフマーンで、メロディアスなバラードが何曲も使われている。特に初めの方で、スシャント・シン・ラージプート扮するマニーが大学のホールで歌い踊る曲「?ディル・ベチャーラ」は印象に残る。歌っているのはA・R・ラフマーン自身で、ナチュラルな振付によってスシャント・シン・ラージプートの肉体が躍動する様は、本作の見どころの一つともなっている。

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その他、ヒンディー語映画には珍しく、マニーはラジニカーントの大ファンという設定になっており、ラジニの真似に使うサングラスやタバコといった小道具のほか、『ボス その男シヴァージ』(2007年)や『帝王カバーリ』(2016年)のクリップも登場する。また、主人公の2人は秘密の合言葉に「サリ(タミル語で“イエス”や“OK”の意味)」を使うなど、明らかに南インドの観客を意識した演出もある。そんな細部でもいろいろと楽しめるのが『ディル・ベチャーラ』なのである。

文:松岡環『ディル・ベチャーラ』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2022年4〜5月放送

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