ニコール・キッドマンが“心身ズタボロ”の刑事に!『ストレイ・ドッグ』の“重くて不吉な劇伴”に脂汗!!

ニコール・キッドマンが“心身ズタボロ”の刑事に!『ストレイ・ドッグ』の“重くて不吉な劇伴”に脂汗!!
『ストレイ・ドッグ(2018年)』CS映画専門チャンネルムービープラスで2022年5月放送(C) 2018 30WEST Destroyer, LLC.
メジャースタジオの大作とインディペンデント系小作品の両方で存在感を示すニコール・キッドマン。伝記映画やミュージカル、ヒューマンドラマ、スリラーなど多彩なジャンルで活躍している。『冷たい月を抱く女』(1993年)、『誘う女』(1995年)、『バースデイ・ガール』(2001年)で見せた悪女役も印象深いが、CS映画専門チャンネル ムービープラスで2022年5月放送のクライムスリラー『ストレイ・ドッグ』(2018年)では、普段とは別人のような風貌の汚れ役を熱演して、観る者を驚かせる。

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■過去に何が!? 身も心もボロボロになった主人公の孤独な闘い

本作でキッドマンが演じるのは、ロサンゼルス市警の刑事エリン・ベル。17年前に犯罪組織への潜入捜査で取り返しのつかない過ちを犯した彼女は、罪の意識に苛まれ、身も心もボロボロになっている。しかし忌まわしい過去に決着をつけるため、事件の主犯との“私闘”へ身を投じていく。

「職場では同僚に疎まれ、不良と付き合っている16歳の娘とも不仲。過酷な環境での生活と深酒、不眠、さらに南カリフォルニアの砂漠地帯の強烈な日差しに晒されて、老化と肌荒れが酷くなっている」というエリンの劣化した容姿をリアルに表現した特殊メイクが凄まじく、彼女の姿が画面に大写しになると、病んだような表情に言葉を失ってしまう。

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しかし不思議なことに、これだけやつれた姿であるにもかかわらず、悪党との激しい格闘シーンや、アクションシーンでライフルを構えるエリンの姿には凛々しさが漂っている。そして疎遠になった娘シェルビー(ジェイド・ペティジョン)と何とか心を通わせようと不器用に接する姿からは、母の愛情が確かに感じられる。過度に特殊メイクの力に頼ることなく、エリンの怒りと苦しみ、贖罪の意識を体現した、キッドマンの演技力の賜物といっても過言ではないだろう。

ことほどさように彼女のいたましい姿が話題にのぼりがちな本作だが、回想パートでの若き日の姿も必見だ。ウブさを出すためにそばかすを追加する程度の“軽め”の特殊メイクで、15歳の年齢差があるセバスチャン・スタン(FBI捜査官のクリス役)と「若い潜入捜査官」を違和感なく演じられてしまうあたりも、さすがキッドマンと言うしかない。

そして一癖も二癖もある悪役を憎々しく演じるトビー・ケベル、タチアナ・マスラニー、ブラッドリー・ウィットフォード、ボー・ナップらとの鬼気迫る演技対決も本作の見どころとなっている。女の情念と執念に心を鷲掴みにされる、強烈なネオ・ノワール作品である。
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■主人公の妄執と疲れ切った精神状態を表現した不吉な音楽

本作のスコア作曲を手掛けたのは、『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008年)や『マイ・インターン』(2015年)のセオドア・シャピロ(発音的には“シャパイロ”が近い)。コメディの仕事が多いシャピロだが、本作のカリン・クサマ監督とは『ガールファイト』(2000年)でタッグを組んで以来、『ジェニファーズ・ボディ』(2009年)、『インビテーション/不吉な招待状』(2015年)などスリラー系の作品で音楽を担当している。筆者は以前『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年)と『シンプル・フェイバー』(2018年)のサウンドトラックアルバムに音楽解説を書かせて頂いたが、創意工夫にあふれたシャピロの音楽を聴いて、あらゆるジャンルに対応出来る彼の才能に感銘を受けた次第である。

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シャピロに全幅の信頼を寄せているクサマ監督は、本作でもテンプトラックを一切用いなかったという。脚本を読んだシャピロは、まず少人数のミュージシャンと即興的に演奏を行い、その音楽をもとにして、クサマ監督たちと様々なアイデアを考案してスコアを作り上げていった。スコアの方向性を決める際に、彼らのインスピレーションの源となったのが、カナダのポストロックバンド、ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーの“音の波”を感じさせる楽曲だった。かくして本作のスコアはテーマ曲の変奏で聴かせるオーソドックスなタイプのものではなく、トレモロやピッツィカートなどの演奏法を駆使した弦楽器、シンセサイザー、エレクトリックギターをオーケストラと組み合わせたアヴァンギャルドなサウンドとなった。動物の鳴き声や歯ぎしりを思わせる神経に障る音や、鼓動のような重低音のリズム、執拗に繰り返される下降音階が、憔悴しきったエリンの精神状態と、事件への異常なまでの執着心を生々しく描き出している。エリンの恍惚の瞬間を捉えた幽玄のアンビエント・サウンドも印象的であり、メロディではなくテクスチュア(音の組み合わせ方)で聴かせる実験的かつ野心的な音楽となっている。
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クサマ監督の音楽へのこだわりは、劇中で使用される既製曲にも反映されている。エリンの回想パートで「1990年代のデザートロックの攻撃的なサウンド」をイメージした彼女は、犯罪組織のアジトでカイアス、スリープ、ゴッドスマックらの楽曲を使用。そしてエリンとクリスがバーで潜入捜査の細部を詰めるシーンではダイアー・ストレイツの名前が挙がり、直後のシーンで1985年の名盤『ブラザーズ・イン・アームス』収録の「The Man’s Too Strong」が流れる。バーやクラブなどで流れるその他の楽曲も含めて、これらの歌曲も本作の退廃的な雰囲気作りに大きく貢献していると言えるだろう。文:森本康治『ストレイ・ドッグ』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2022年5月放送

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