国境を超えるまでがパージです! 地獄の遠足『フォーエバー・パージ』の大殺戮劇が“分断と排斥”の現代にリアルに響く

国境を超えるまでがパージです! 地獄の遠足『フォーエバー・パージ』の大殺戮劇が“分断と排斥”の現代にリアルに響く
『フォーエバー・パージ』©2021 UNIVERSAL STUDIOS

■「パージ浄化部隊」の恐怖

終わったはずではなかったのか?『パージ』シリーズ第3作『パージ:大統領令』(2016年)で、「年に一度、12時間に限りあらゆる犯罪が黙殺される」――いわゆるパージ制度を提唱した政治組織NFFA(アメリカ建国の父たち)は崩壊し、パージ制度は消滅した――はずだった。ところが『パージ:大統領令』から8年後、NFFAは支配権を取り戻し、パージ制度は復活した。なぜか?シリーズ最新作『フォーエバー・パージ』の世界は白人至上主義と排外主義に取り憑かれた人々が増加し、アメリカはこれまで以上に荒んでしまっているのだ。彼らはダイバーシティやインクルージョンを徹底的に否定。そんな自分たちのエゴを突き通す輩からパージを求める声が高まった。その結果、NFFAが再び覇権を奪回したのである。

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今回の悪夢の舞台はテキサス。アデラとフアン夫妻は、メキシコの麻薬カルテルから逃れアメリカへ不法入国し、タッカー家の牧場で使用人としてひっそりと働いていた。目下彼らの心配事は明日に迫ったパージだ。しかし、彼らの心配は杞憂に終わった。移民仲間同士で鉄壁の防御線を張り、何事もなく12時間を切り抜けたのだ。だが翌朝、牧場へ行ってみると「パージ浄化部隊」と名乗る集団がタッカー家全員を縛り上げているではないか! パージはまだ終わっていなかったのだ。パージ浄化部隊は、テキサスのみならずアメリカ全土で非アメリカ人および彼らを擁護する人々を片っ端から血祭りに上げていく。この事態を鑑みた隣国カナダとメキシコは、6時間だけ国境を解放すると宣言。フアン、アデルそしてタッカー家の人々は一路メキシコを目指す。だが、彼らに「フォーエバー・パージ!」と高らかに宣言する人々が襲い掛かる!

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■貧困層を自滅に追い込む国家レベルのコストカット

“無限パージ”と聞いて、「え? それって、ただの暴動では?」と思うのだが、まさにその通りの映画だ。『パージ』シリーズは、これまで「12時間あらゆる犯罪が黙殺される制度」があったら人々はどういう行動を起こすか? というシチュエーションスリラーだった。しかし、本作はもはや『パージ』シリーズではない。憎しみに囚われた輩が暴徒と化し、気に食わない人々を片っ端からブチ殺していく暴力映画だ。

シリーズを重ねるごとに明かされていったパージ制度の真の目的は「パージを生き延びることができる裕福層以外を排除」することであった。1作目『パージ』(2013年)で描かれていたパージ制度の目的「12時間の自由を与えることで犯罪予備軍の鬱憤を晴らし、犯罪率を下げる」は建前であり、政府が救うべき貧困層を自滅に追い込む国家レベルのコストカットだったのだ。国家の掌で踊らされる人々を描いてきた『パージ』シリーズだが、『パージ・フォーエバー』は視点を変えてきた。一度廃止されたパージ制度を復活させるほどに鬱憤を溜めた人々のほとばしる怒りは、12時間でおさまるのか? 政府の指示通り、その怒れる手を止めるのか? と。本作の出した答えは、もちろん「ノー」だ。

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■まさに地獄の遠足!「国境を越えるまでがパージです」

『パージ』シリーズは手を変え品を変え、人の心に潜む疑念や怒りをファンタジックに描いてきた。しかし近年、現実世界でもこういった感情を隠さない人々が増えている。「今、誰もが誰かに腹を立てているのではないか?」心当たりはないだろうか? 考えてみてほしい。貧しく不利な立場に置かれた人々は、社会的地位が上がらないことに腹を立て、中間層の人々は物価や税金上昇、政治家の甲斐性のなさに憤慨している。男性たちは女性や移民、マイノリティらが自らの地位を脅かそうとする態度に腹を立て、マイノリティたちは時折ラディカルな運動を起こしている。まさに分断と排斥が目の前で起きている。

『パージ』シリーズが描いてきた疑念や怒りはもはやファンタジーではない。リアルな世界をデフォルメした『パージ・フォーエバー』は、嫌悪感たっぷりに怒りに駆られた人々を描写する。殺るなら徹底的に殺る。これが『パージ・フォーエバー』なのである。

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更に『パージ』シリーズの見事な点は、毎回奇怪なシチュエーションで裏に隠されたテーマをひた隠し、エンターテインメントに昇華させた点である。今回は無限パージというパワーワードの通り、はじめて陽光射す中、大殺戮劇が行われる。12時間耐えればいいのではなく、アメリカからメキシコへ国境を越えるまでがパージという“地獄の遠足”状態。しかも、主人公はメキシコからの不法移民と皮肉が効いている。政治的正しさを気にするあまりに、そこかしこで断絶が見られる近年、こんな映画を楽しむのも一興だろう。

文:氏家譲寿(ナマニク)『フォーエバー・パージ』は2022年5月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開

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