中国版『ニュー・シネマ・パラダイス』!? チャン・イーモウ最新作『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』 新鋭リン・ハオツン23歳に大注目

中国版『ニュー・シネマ・パラダイス』!? チャン・イーモウ最新作『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』 新鋭リン・ハオツン23歳に大注目
『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』© Huanxi Media Group Limited

■我的張芸謀回来了

私が中国語のガリ勉を始めてから半年が過ぎてしまった。1年でペラペラになるとあちこちで宣言したのだが、そのゴールは遥か彼方にあるようで、杳として見えない。その間に中国嫌いの方々が巷で増殖しているようで、心穏やかではないのだが、このタイミングで私の、あるいは私たちのチャン・イーモウが帰ってきた。だって、チャン・イーモウの作品なら誰でも好きでしょ。観ずにはいられないでしょ。

習近平が何を言おうとも、何をしようとも、私は中国映画を愛するし、中国文学も心から愛している。早く中国語で中国の若い人たちと仲良く話がしたいものである。実は若い人、特に大学を卒業している人であれば、かなり流暢な英語も話すし、日本にいる人であれば日本語もペラペラなので、私が下手に中国語を頑張るより早いことはわかっているのだが、それでももうすぐ高齢者の私に残されている時間は少ない。早くロックダウンをやめて、私を受け入れてもらいたいものである。と、私のことだけ書いてしまったが、要は私たちが愛したチャン・イーモウが最新作『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』で帰ってきたのである。そうね、ある時から監督は夏冬オリンピックの開閉会式まで演出を担当し、大先生となり、どえらい予算のついた大作を撮るようになった。そして、画角は素晴らしいし、ド派手な演出なんだけど、なんだかねえ、ちょっと寝ちゃったかも、という作品がたまに混じり始めてしまった。遠い人になっちゃったのかもと一瞬気持ちが塞いだが、それでも私は監督のこれまでの作品を信じて、必ず劇場に足を運んだのだ。信じる者は幸せなり。

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■もうひとつの『ニュー・シネマ・パラダイス』

1970年代初め、中国は文化大革命の最中。チャン・イーモウ自身も下放され、10年間苦労した時代である。砂漠の中をボロ着を纏った年齢不詳の男がひたすら歩く。目的があるのか、せん妄状態に陥っているのかわからないが、足取りだけはしっかりしている。巡回映画のフィルムを追っている。当時、農村部での唯一の楽しみは、たまに回ってくる映画を観ることだった。村は総出でフィルムの到着を待ち侘びている。映画を観ることが祭りなのだ。

ところが突然現れた小汚い小僧がフィルムを盗み出した。冗談ではない。男は何がなんでもあの映画を観ないことには死にきれない。捕まえてフィルムを取り戻すが、小僧の小芝居のせいで一人また砂漠に置き去りにされてしまった。そもそも何も悪いことなどはしていないのに、この文革という訳のわからないものに人生をぶち壊された。まともな方が強制労働所に送られるのだからたまらない。妻には離婚されてしまうし、何よりも大事な娘とは連絡が取れなくなってしまった。脱走しかないだろう。逃げて成し遂げなくてはならないことがある。映画を観るのだ。観なければならない映画にはニュース映画がついているのだ。娘が映っているはずなのだ。

しかし、どこにでもトンマな奴がいる。フィルムを荷台に括り付けていた紐が緩み、大量のフィルムが剥き出しになったまま、砂漠で引き摺られてしまった。とても映写には耐えられそうにない。しかし、諦めるわけにはいかない。一眼だけでも娘を見なくては。映写技師はどうする。村人たちは何をすればいい。男には何ができる。そしてあの小僧は。

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■もう一人のチャン・ツィイー

砂漠で男を置き去りにした小汚い小僧は、よく見れば女だ。しかも、目にキラキラした光を宿している。作品の最後でみなさんは声を上げるだろう。『初恋のきた道』(1999年)のチャン・ツィイーじゃないか。違う。印象は彼女そのままだが、角度が変わるたびに表情が変わる。どうやってチャン・イーモウはこんな女優を探し出すのだろう。

このリウ・ハオツンという若い女優は、高校生の時にオーディションで本作に起用されることが決まったという。しかし、実際に撮影準備に入ったのはその数年後のこと。監督が数年は演技の基礎をしっかり固めるよう指示していたらしい。やっぱりそうか、粗製濫造でいい俳優が出てくるわけがない。『あの子を探して』(1999年)のように、素人から思わぬ存在感を引き出し、傑作を生んでいるチャン・イーモウだが、内容によってしっかりキャスティング方法を変えているのだ。私が一応断言しておくが、このリウ・ハオツンは世界に出ていく俳優になる。

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■文革と現代中国文化

あえて説明する必要もないが、文化大革命は毛沢東による独裁体制を固めるためのクーデターのようなものだった。死者がどれくらい出たかも定かではないが、とてつもない数の人の人生が狂ってしまった。チャン・イーモウは『活きる』(1994年)をはじめ、何本も文革をテーマに撮っているが、中国で上映禁止となったものは、この『活きる』のみである。

一時この作品を撮ったことで映画製作を禁じられていたが、チャン・イーモウはひと筋縄ではいかない。さまざまな撮り方で文革を間接的に非難している。かつて温家宝(おんかほう)が文革をやや遠回しに非難したが、なんとなくいなくなってしまった。上層部も「それはわかっているんだけど、言葉にしちゃダメなの、裏でやって」という姿勢なのだろうと私は勝手に解釈している。今でも北京の天安門広場には巨大な毛沢東の肖像画が掲げられている。それが私には現代中国の苦悩を表しているように見える。

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現在の中国文学の巨匠たちは何度も発禁処分を受けながらも、怯むことなく新たに中国を見返し、書くべきことを書き続けている。チャン・イーモウも72歳である。常に体制批判の作品を作って欲しいとは思わないが、もう怖いものは何もないはず。撮りたいものを撮り続けて欲しい、と私が偉そうにいうことではないか。

文:大倉眞一郎『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』は2022年5月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

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