トルコ対クルド:民族意識と独立を賭けた根深い紛争『オペレーション:ウルフパック 特殊部隊・群狼作戦』
2022年05月24日 11時30分 BANGER!!!
価格:4,180円(税込)/3,800円(税抜)
発売元:(株)彩プロ
販売元:TCエンタテインメント
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■トルコとクルド、因縁の戦い
かつて中東から北アフリカ沿岸部、そして東部ヨーロッパにまで版図を広げた、オスマン帝国という国がありました。現在のシリアもイランもイラクもオスマン帝国の一部だったのです。第一次世界大戦によってオスマン帝国が崩壊すると、帝国内の少数民族だったクルド人は勝手に引かれた国境線によって切り離され、受難の歴史が始まります。ちなみに、『アラビアのロレンス』(1961年)は第一次世界大戦期のアラブ対オスマン帝国の武力闘争が物語の主軸となっています。そしてこの時から、トルコ人とクルド人の民族意識と独立を賭けた紛争が延々と続いているのです。残念なことに、この紛争の出口は見えてくる気配もありません。トルコにとっては武装していようがいまいが、かつてのオスマン帝国領域内でクルド人が一定勢力となることが許せません。クルド人もトルコに組み込まれて“トルコ化”することは受け入れられません。『オペレーション:ウルフパック』でクルド武装力を「テロリスト」と呼んでいるのには、そんな背景があるのです。もっともクルド勢力側も分裂や衝突を繰り返した挙げ句、テロ事件を起こしているのも、事実ではあります。■「情」のトルコ映画
トルコ軍は強く逞しくて偉い! クルドは狡くて悪いテロリストだ! な主張が繰り返される『オペレーション:ウルフパック』は、いわゆるひとつの国策映画ではあります。あるいは“ご当地映画”かもしれません。たとえ国策映画でも映画として面白ければツッコミつつも楽しめるのですが、残念ながら本作はミリタリー・アクション映画として及第点に達しているとは言えません。銃撃戦も、味方の弾は次々と命中するのに敵の弾は当たらないのは定石だからよいとして、どうにも迫力がありません。■映画に兵器にメイド・イン・トルコ
2000年代、メイド・イン・トルコの映画やTVシリーズが盛り上がっていて、ヨーロッパや中東でも好評を博しているとのことです。イラク領内でIS/イスラム国に拉致された女性ジャーナリスト救出作戦の帰路、ISの虐殺に曝されているトルクメンの村人のために、任務でもないのに命を投げ出す7名のトルコ軍特殊部隊――という『エスケイプ・フロム・イラク』(2016年)は、回想シーンと情感と重兵器はマシマシ、国策臭はアッサリな、ミリタリー・アクション映画の佳作です。どこかで観たような内容ではありますけれど。最後に。近年、トルコは兵器開発でも躍進しており、ロシア・ウクライナ戦争でトルコ製UAV(無人機)「バイラクタル」がロシア軍地上部隊を次々を撃破し、現地ウクライナでは「バイラクタルの歌」が唱和されているというニュースに接した読者諸兄姉も多いかと思います。本作に登場するMRAP/耐地雷・耐待伏攻撃防護車両などの装輪装甲車両の生産輸出も堅調で、小型四輪軽装甲車は陸上自衛隊の軽装甲機動車の後継候補のひとつになったこともあります。ということで(?)、トルコ映画には今後とも興味を持っていただければと思います。
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