歴史的悪妻なのか?『チャイコフスキーの妻(仮)』セレブレニコフ監督作【カンヌ映画祭レポート】
2022年05月25日 20時18分 BANGER!!!
■ロシアを出て遂にカンヌ記者会見に登場!キリル・セレブレニコフ監督
『LETO -レト-』(2018)『インフル病みのペトロフ家』(2021)とコンペティションに選ばれながらもカンヌ入りがかなわなかったキリル・セレブレニコフ監督。プーチン政権に批判的なパフォーマンスを行っていたセレブレニコフ監督は政権に睨まれており、演劇に関する助成金を横領したなどの名目で拘束されていたためだ。拘束が解けて撮影したのが『インフル病みのペトロフ家』だったが、再拘束の不安の中ゲリラ的な撮影で完成させたという。そしてとうとう国を出ることを決意。学生時代からの付き合いという個人的な資金を提供するロシアの会社キノプライムに加え海外資本も得て完成させたのが今回の『チャイコフスキーの妻(仮)』で、これでやっとカンヌ映画祭の記者会見に登場することができた、というわけだ。TCHAIKOVSKY'S WIFE
? kirill serebrennikov (@kirillsilver) May 15, 2022
LA FEMME DE TCHAIKOVSKY
ЖЕНА ЧАЙКОВСКОГО
Photo by @fokinman pic.twitter.com/taT0jiLYX3
■チャイコフスキーはなぜ結婚したのか。孤独と夢
物語はタイトル通りロシアの国民的作曲家チャイコフスキーの妻の物語。シェイクスピアの妻と同じく「歴史的悪妻」という汚名を着せられたアントニナの物語である。国民的人気を若くして獲得した作曲家であったチャイコフスキーが37歳にして突然結婚したアントニナ。資産家の娘であり、作曲の勉強もしていたという女性で、彼女の方から熱烈な求婚をして結婚したという史実がある。しかしチャイコフスキーがなぜ彼女の求婚を受け入れたかは明らかになっていない。セレブレニコフはそのあたりから作家的想像を膨らませていく。原作は2014年に書かれた小説。それを脚本化し映画にしていった。■19世紀の女性の一生
しかし、そこに描き出される世界は、女性が自らの才能を生かして自立することが許されなかった時代に、天才音楽家を支えることで、家族の中でつまはじきにされる存在である自分を承認しようとして破滅に向かう強い個性を持った女性の一生だ。これまでのかなりトリッキーな表現を抑え、オーソドックスにも見える手法でとりくまれた本作は新しいセレブレニコフの誕生を思わせる作品になっている。文:まつかわゆま
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