王道ロマコメは何度でも観たくなる! ヒュー・グラントの魅力がたっぷり詰まった『ノッティングヒルの恋人』

王道ロマコメは何度でも観たくなる! ヒュー・グラントの魅力がたっぷり詰まった『ノッティングヒルの恋人』
『ノッティングヒルの恋人』Film © 1999 Universal Studios. All Rights Reserved.

■ヒュー・グラントLOVE

この世の中にはヒュー・グラントにしか演じられないヒュー・グラント役というものがあると私は思う。ちょっと気弱で優柔不断、だけど正直で愛すべきいい奴、しかもハンサム。彼はもとより、両作の脚本を担当した、『ミスター・ビーン』シリーズ(1997年ほか)のクリエーターでもあるリチャード・カーティスの生み出す世界と、その登場人物たちが大好きなのだから仕方がない。

『ノッティングヒルの恋人』(1999年)は、誰でもすぐわかるように、かのオードリー・ヘプバーンの名作『ローマの休日』(1953年)を下敷きにしている。ローマならぬロンドンの下町ノッティングヒルに、王女様ならぬハリウッドの大スター、アナ・スコット(ジュリア・ロバーツ)が現れ、ふらりと入った旅行書専門店で、店主のウィリアム・タッカー(ヒュー・グラント)と出会い、恋に落ちる。ちなみに、『フォー・ウェディング』(1994年)ではなかなか結婚できない独身男だったヒュー・グラントは、本作では妻がハリソン・フォード似の男と駆け落ちしたバツイチ男に出世(?)している。

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■“出会い”のお手本はコメディの名手ビリー・ワイルダー?

ロマンチック・コメディで最も大切なのは“出会い”である。『お熱いのがお好き』(1959年)などで知られるコメディの名手ビリー・ワイルダーに、こんなエピソードがある。ワイルダーはナチスの台頭でオーストリアからアメリカに逃れた人だが、ハリウッドで頭角を現するきっかけが、大監督エルンスト・ルビッチの『青髭八人目の妻』(1938年)で、男女の出会いに卓抜なアイデアを出したことだった。それは、とあるデパートで男が店員に「パジャマの下だけ買いたい」と押し問答をしていると、「パジャマの上だけ買いたい」という娘が現れ、二人が仲良くパジャマの上下を買い分けることになる、というものだ。パジャマという、ちょっとエロチックなアイテムを出会いの鍵にしたところが秀逸である。
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それに比べると『ノッティングヒルの恋人』の出会いはパンチに欠けるが、それはヒュー・グラント演じるウィリアムのパーソナリティに合わせたからだと私は思う。それは、こんな風に行われる。ウィリアムの店に入ってきたアナがトルコの旅行書を物色していると、正直者のウィリアムは、彼女が見ている本よりも優れていると思われる本を薦める(実は彼女が見ている本には著者のサインが入っていて、ウィリアムの知り合いが著者だったという落ちがある)と、店内の防犯カメラに万引き犯が映っているのに気づき、注意に行く。このときの彼の台詞が、ウィリアムの誠実さとユーモラスな性格が滲み出た、さすがリチャード・カーティスという台詞で、アナが彼に好意を持つきっかけとなる。

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■よく出来たロマンチック・コメディは何度見ても楽しい

さて、主人公たちが恋に落ちるには1度出会っただけではダメ、必ず2度目が必要だ。『ノッティングヒルの恋人』の場合、それは数分後に訪れる。書店の経営が赤字で、お金がないために1杯のカプチーノを店員のマーティンと半分ずつ飲むことにしたウィリアム。当然のことながら物足りないのでオレンジジュースを買いに行き、通りの角でアナにぶつかってジュースを彼女の胸にぶちまけてしまうことになる。

この“小さな親切が大きな災難を招く”シチュエーションは、ミスター・ビーンでも多用されるリチャード・カーティス流コメディの定石でもあるのだが、おかげでウィリアムがアナを自宅に招くきっかけを作り、より親密な時間を持つチャンスが出来る。ここで月並みなラブストーリーなら当然、愛情表現の台詞が登場するわけだが、リチャード・カーティスがウィリアムにしゃべらせたのが“蜂蜜とアンズ”の小咄で(詳細は本編を参照)、彼の正直さ(または話のバカさ加減)に、またもアナはぐっときてしまうのだ。

本作のコメディリリーフを受け持っているのは、ウィリアムの変わり者の同居人スパイクである。彼は常にお邪魔虫として物語をひっかき回すが、最後には優柔不断なウィリアムに決定的な助言を与える重要なパートを受け持っている。スパイク役を演じたリス・エヴァンスは、ミシェル・ゴンドリーの『ヒューマンネイチュア』(2001年)では、パフと名付けられて研究対象にされる“猿人間”という、これ以上はない変わった役を演じて強烈な印象を残した。そんなキャラの立った脇役を得意にしている彼が、『ハリー・ポッター』シリーズ(2010年〜)ではゼノフィリアス・ラブグッドという比較的まとも(?)な魔法使いを演じているのが微笑ましい。

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さて、カーティス流“ロマンチック”な出会いの後で、ハリウッドの大女優と正直者の本屋の店主の恋は、大西洋をまたいで紆余曲折していくのだが、ラストで再び本家『ローマの休日』に戻り、本家では悲恋に終わるお別れ会見を、見事なハッピーエンドで締めくくっている。よく出来たロマンチック・コメディは、何度見ても楽しい。なぜかいつも同じところで感動してしまうのは、映画が名作である証拠かもしれない。

文:齋藤敦子『ノッティングヒルの恋人』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:恋のかがやき」で2022年6月放送

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