役所広司×原作・司馬遼太郎『峠 最後のサムライ』幕末に近代武装!? 和平交渉に尽くした河井継之助の生き様

役所広司×原作・司馬遼太郎『峠 最後のサムライ』幕末に近代武装!? 和平交渉に尽くした河井継之助の生き様
『峠 最後のサムライ』©2020「峠 最後のサムライ」製作委員会

■原作・司馬遼太郎! の幕末映画

私のコラムはいつも、私の独断で戦国映画を選び、自分の好きなように書かせてもらっている。本当にBANGER!!!編集部には感謝しかない。大好きな戦国時代を舞台にした映画をたくさん観て、それを原稿にし、原稿料をいただく。こんな幸せな仕事はない。本当に有難く思っているのだ。そこで今月のコラムは特別編として、戦国映画ではなくBANGER!!!編集部から推薦された『峠 最後のサムライ』について書かせてもらうことに。2022年6月17日(金)公開のこの作品は、司馬遼太郎原作の幕末映画である。トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』(2003年)という映画があったが、今作品は実際にあった戊辰戦争の中の「北越戦争」という新潟県の長岡藩で起きた史実を元に、実在のサムライ、河井継之助(かわいつぎのすけ)を主役に据えた物語なのだ。

ここで一つお伝えしておきたいのが、私は戦国時代が一番好きではあるが、歴史もの全般が好きで、もちろん幕末も大好き。幕末の時代背景の作品もいろいろ観てきている。坂本龍馬や新撰組などにも多大なる影響を受け、京都に行った時は坂本龍馬のお墓参りに行ったり、鹿児島では西郷隆盛ゆかりの南洲寺の木彫りの不動明王を見に行ったり、函館の五稜郭には二度ほど行って、明治新政府の最後の戦いの箱館戦争も彼の地で堪能したこともある。それくらい幕末も大好きなことをご了承頂きたい。さて『峠 最後のサムライ』を観て、こんな安易な言葉で最初に言わせてもらうが、めちゃくちゃ面白い! さすが司馬遼太郎先生の原作を、黒澤明の助監督を経て数々の名作を撮ってこられた小泉堯史監督が手がけただけあって物語が面白いし、なんといっても映像が美しい! 日本人、いや日本の心を持っている人なら、誰もが感動するであろう作品なのだ。

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■サムライとは何か? 役所広司の名演に鳥肌!

物語は徳川最後の将軍、徳川慶喜が大政奉還で政権を朝廷に返上するとこから始まる。時代の波が押し寄せる中、薩長の新政府軍は新潟の長岡藩にも攻めて来る。長岡藩家老の河井継之助は幕府にも官軍にも属さず、長岡藩をヨーロッパのスイスを見習って中立、独立を目指すためあえて長岡藩を近代武装もしつつ、新政府軍との和平交渉に打って出るのだが、果たして彼の壮大な信念は叶えることが出来るのか!? と、私も全く知らなかったが、なんとこれが本当にあった話なのだ。この長岡藩家老の河井継之助を演じてらっしゃるのが、私の尊敬してやまない役所広司さん。もう兎に角、役所さんがかっこいい! 男惚れする格好良さなのだ。前にも書いたかもしれないが、私は役所さんが1983年の大河ドラマ『徳川家康』で織田信長を演じられた時からの大ファンで、役所さんの数々の作品を観てきたが、今回も役所さんが素晴らしい!!

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役所さんの演技で私が好きなのが、鬼気迫る場面の表情と、妻や家族さらには家臣に見せる優しい表情のギャップの素晴らしさ。優しさの中にある男の強さを演じさせたら、日の本一の名俳優だと私は思っている。また、時代劇であってもそこまで昔々しておらず、現代っぽい表現もおり混ぜられたような役所さんの台詞回しも感情移入しやすいと思う。そして今作では、サムライとは何か? 主君に対する忠義とは何か? 藩内の領民を守るにはどうするべきか? を役所さん演じる河井継之助から、これでもか! これでもか! とビンビンに感じられるところに感銘を受けた。また、圧倒的な数で攻めてくる薩長連合の新政府軍と、数では劣るが外国から仕入れたガトリング砲という最新兵器で迎え撃つ長岡藩士たちの壮絶な戦い! この場面には戦国好きの私は目が釘付けにされた。長岡藩の領内に敵を入れない為に峠を抑え、そこを死守する作戦会議のシーンなどでも、ま〜役所さんがカッコいい! そして一度は退却を余儀なくされ薩長の手に落とされた長岡城を、秘策を用いて再度奪還せんとする際の突撃シーンのセリフが、これまた鳥肌もの! これぞまさにサムライ!! というセリフなのだ。

もちろん見どころは激しい戦闘シーンだけではない。役所さん演じる河井継之助が自宅の縁側で、松たか子さん演じる妻のおすがに剃刀で髭を剃ってもらい、髷を整えてもらう、ゆっくりと流れる穏やかなシーンも良いのである。当時の武士の家なら何処にでもあったであろう朝の風景がこれまた美しく、観ていて心地よいのだ。この、激しいシーンと穏やかなシーンの対比がたまらなく良い。これぞ小泉監督の成せる技だと思うのである。さらにこの作品の脇を固めるのが、河井継之介の主君で長岡藩の先代藩主、牧野忠恭を演じる名優・仲代達矢さん。この牧野忠恭に下級藩士から見出され、家老にまで上り詰めた河井継之助。お互いに絶対的信頼を寄せていて、河井がこの主君の為に命をかけて長岡藩を守ろうとするあたりも美しく、感動する。

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■作品のテーマ「常在戦場」を解説!

さて、この映画に登場する四字熟語で「常在戦場」(じょうざいせんじょう)というものがある。これは、戦場での生きるか死ぬかの過酷な場所で、一瞬たりとも気を緩めることができないことから、常に戦場にいるかのような緊張感を持って物事に取り組むことの大切さを表現した言葉なのだ。

なぜ、この言葉がよく出てくるのか? 舞台となる長岡藩の開祖の牧野家は戦国時代、三河国(現在の愛知県豊川市)にあった牛久保城の城主だった。この場所は交通の要所で、最初は駿河の今川義元に属して松平家(のちの徳川家)と対立していたが、桶狭間の戦いで今川義元が戦死すると、牧野家は徳川家康の家臣・酒井忠次の配下となり東三河国衆として徳川軍の一員となって幾多の戦に参加。そして江戸時代を迎えると、徳川の譜代大名として越後長岡藩の藩主となった。その牧野家が藩風、藩訓として掲げたのが「常在戦場」の言葉である。この精神が幕末の時代に至っても家老の河井継之助が受け継ぎ、この物語の底辺にあるテーマともなっているのだ。

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しかし、私はいつも幕末物を見ると新政府軍、旧幕府軍のどちらも己の信念に基づき、お互いが国のためを思って深く考え、それぞれの正義があり、お互いの主義主張がぶつかり合い、国を二分した大きな戦争へと向かってしまった悲しさがあると感じる。原作者の司馬遼太郎先生は河井継之助の生き方を通して、現代の我々に何を伝え、何を考えさせたかったのか。皆さんにも『峠 最後のサムライ』を観て思いを馳せて欲しい、そう思わされる作品だった。文:桐畑トール(ほたるゲンジ)『峠 最後のサムライ』は2022年6月17日(金)より全国公開

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