今日の午後ローは殺し屋映画の最高峰『ジャッカルの日』シャルル・ド・ゴール大統領 暗殺未遂事件

今日の午後ローは殺し屋映画の最高峰『ジャッカルの日』シャルル・ド・ゴール大統領 暗殺未遂事件
『ジャッカルの日』
ユニバーサル思い出の復刻版 ブルーレイ: 5,720 円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント

■殺し屋映画の金字塔『ジャッカルの日』

映画で映える職業といえば、殺し屋である。映画は殺し屋という超特殊職業を描いてこそなんぼであり、殺し屋が出てこない映画は魅力が半減してしまう。2022年、『トップガン マーヴェリック』にも『シン・ウルトラマン』にも殺し屋が出てきたらもっと面白くなったのに……なんて嘆いている人はさすがにいないと思うが、ひょっとしたらひょっとするのが殺し屋の恐ろしき伸び代で、まぁとにかく殺し屋と映画の相性は最高だ。最近でも『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年〜)や、日本だと『ザ・ファブル』シリーズ(2019年〜)、『ベイビーわるきゅーれ』(2021年)など、殺し屋映画を見ない年はない。そんな、いまだ隆盛を極める殺し屋映画といえば、前述した映画のようにアクションを全面に押し出した作品が多いが、アクションを排除しても面白くなってしまうのが殺し屋映画のすごいところ。なかでも『ジャッカルの日』(1973年)という作品は、派手さはないけどいぶし銀といえる堅実な作りで、なおかつ殺し屋映画の金字塔である。

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■原作はフレデリック・フォーサイスの実録ベストセラー

『ジャッカルの日』には実在の人物・出来事を基にした原作小説がある。舞台は1960年代のフランス。シャルル・ド・ゴール大統領は、1830年からフランスが支配下としているアルジェリアの民族自決に関する国民投票を行った。それまでのアルジェリア独立を阻止する路線だったド・ゴールの姿勢から一転するもので、これに対して国内の右派は「手のひらを返された!」と反発。極右民族主義者による武装地下組織・OAS(秘密軍事組織)が結成され、爆破テロをはじめとして、幾度となくド・ゴール大統領暗殺未遂事件が勃発する。これら実際の時代背景を下敷きに、ド・ゴール暗殺計画を進めるOASに雇われた正体不明の殺し屋ジャッカルと、大統領暗殺を阻止すべく右往左往するフランス当局を軸にした物語を、当時ジャーナリストとしてド・ゴール大統領に張り付いていたフレデリック・フォーサイスがわずか35日間で執筆した。当初は、「実際シャルル・ド・ゴールは暗殺されていないわけだし、失敗した暗殺未遂の話など面白くないよ」と複数の出版社から断られていたが、蓋を開ければたちまちベストセラーに。ド・ゴールの警護隊員たちなどから聞いた生々しい情報と正体不明の殺し屋、この虚実ない交ぜのポリティカル・スリラーはとんでもないリアリティをもって読者に迫り、1971年の出版から50年経った今でも全世界的に読まれ続けている。ジャッカルの日 (角川文庫 赤 537-1)
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■まるで殺し屋密着ドキュメンタリー

映画『ジャッカルの日』冒頭に描かれるのは、1962年7月22日に起きた3度目の暗殺計画「プティ=クラマール事件」だ。ド・ゴール大統領が乗った車がパリ南郊の同市交差点でOASメンバー複数人による銃撃を受ける。しかし同乗していた大統領夫人とともに、ド・ゴールは無傷で生還。指揮していたティリー中佐はあっけなく銃殺され、エリート軍人指揮下の計画でも組織的な暗殺は難航することから、OASはたったひとりの殺し屋・ジャッカル(エドワード・フォックス)に大統領暗殺計画を託すことにする。

ここから物語はフィクションに突入するが、ジャッカルが要求した莫大な報酬を工面するために銀行強盗までしているOASを描くところからして、小説の面白さをあますことなく描く姿勢が見て取れる。一方で、ノンフィクション感は薄れることなく、デヴィッド・ボウイ似のジャッカルがパスポートを入手して別人になり代わり、髪を染め、妙ちくりんで不気味な改造銃をゲットし、ゲイにも装いながら着々と暗殺計画を進める様を、まるで殺し屋密着ドキュメンタリーかのように淡々と積み重ねていく。

徐々にド・ゴール大統領に近づくジャッカルを描く一方で、上映時間50分を過ぎる頃にようやく登場するのが、フランス当局の腕利きクロード・ルベル警視(マイケル・ロンズデール)。お偉いさん方から軽んじられながらも、「任務だから」と寝る間を惜しんで静かにジャッカルを追う。計画に邪魔が入れば誰彼構わず躊躇なく殺す冷酷な殺し屋ジャッカルと、顔も素性もわからないジャッカルを追うルベル。立場が違う2人のプロフェッショナルは、結局ラストまで顔を合わせないという、なんとも粋な作りだ。
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■フォーサイスはMI6に協力していた?

監督のフレッド・ジンネマンは、ゲイリー・クーパー主演の西部劇『真昼の決闘』(1952年)で報復を恐れる元保安官を描き、その後の西部劇映画に多大な影響を与えた歴史的偉人。その後も、真珠湾攻撃間近のハワイで米陸軍組織を舞台にしたメロドラマ『地上より永遠に』(1953年)や、マーティン・スコセッシ監督偏愛のオードリー・ヘップバーン主演『尼僧物語』(1959年)など、アカデミー賞の常連監督だった。
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『ジャッカルの日』ではとことんリアリティにこだわり、出演者にはスターを排し、あまり知られていない実力派俳優を中心に起用。ラストのパリ解放記念日式典のシーンでは、実際にパリの街を通行止めにして撮影。そこに、一見しただけではわからない程度に実際の式典の記録映像を混ぜていたりと、小説同様ボーダーが曖昧な虚実ない交ぜ具合で観る者を大統領暗殺未遂事件の目撃者にしてしまう。上映時間143分間、最初から最後までシーンを盛りあげる音楽もなく、目を見張るアクションはない。けれども気づけば手に汗握ってしまっているのが、この映画の真に恐るべきところなのだ。ちなみにフレデリック・フォーサイスは原作の出版後、ナイジェリア内戦(1967年〜1970年)に敗れ祖国を失ったビアフラ人のために「ジャッカルの日」の印税を使って傭兵部隊を雇い、赤道ギニア共和国に対してクーデターを企てたとか。そして、その体験を基に執筆されたのが第3作にあたる「戦争の犬たち」で、1980年にはクリストファー・ウォーケン、トム・ベレンジャーらで映画化もされている。とはいえフォーサイスがクーデターに関わったことが嘘か本当かは、実はいまだにハッキリはしていない。そのあたりが細かく言及されていると期待した自伝「アウトサイダー 陰謀の中の人生」では、“イギリス秘密情報部(MI6)の協力者だった”と、かなりボンドな人生を送っていたことも自ら暴露。実際の人生が自ら執筆したスパイ小説よりもよほどスリリングでさらにわけがわからなくなり、小説も映画も著者の人生も、今じゃすべてが虚実ない交ぜとなった。文:市川夕太郎『ジャッカルの日』はテレビ東京「午後のロードショー」で2022年6月20日(月)13時40分から放送、U-NEXTで配信中

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