『エルヴィス』カリスマを蘇らせたオースティン・バトラーが語る! エルヴィスとの奇跡的な共通点とは?

『エルヴィス』カリスマを蘇らせたオースティン・バトラーが語る! エルヴィスとの奇跡的な共通点とは?
『エルヴィス』©2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
誰もが知るアイコン的存在を、そのイメージを損なわずに演じること。これは多くの俳優にとって、一度は試みたいチャレンジだろう。しかし、そのアイコンが偉大であればあるほど、プレッシャーも大きくなる。まして歌やステージのパフォーマンスを、長年のファンの期待を裏切らずに再現するとなれば、その覚悟と決意の大きさには計り知れぬものがある。そのすべてを乗り越え、カリスマを蘇らせることに成功した映画に、われわれは心が震えずにはいられない。エルヴィス・プレスリー役に挑んだオースティン・バトラーは、まさにその最高の例となった。

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■「友人に突然“君はいつかエルヴィスを演じるべき”と言われて……」

1950年代、圧巻のボーカルと、観客を熱狂させる過激なステージパフォーマンスで、ロックというジャンルを超え、音楽の歴史を変えたと言ってもいいエルヴィス。42歳の若さで逝ったカリスマの人生を描いた『エルヴィス』は、背景となる主な時代が1950〜1970年代だが、エルヴィス役のオースティン・バトラーは、その時代にもぴたりとハマる独特のムードを醸し出している。

どこかクラシック映画の俳優も思わせるそのたたずまい。あこがれの俳優を聞いてみると、その理由が納得できる。
父親が毎晩のように名作映画をテレビで観ていました。まだ子供だった僕は、その横に座るのが日常だったので、かなりの数の映画を観てきたと思います。日本映画では黒澤明監督の『七人の侍』(1954年)が好きでしたね。最も憧れたのは、マーロン・ブランドやジェームズ・ディーンでしょうか。とくに『エデンの東』(1955年)は、俳優になるうえで大きな影響を受けた作品です。あとはロバート・デ・ニーロが主演を務めたマーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』(1976年)、『レイジング・ブル』(1980年)、『キング・オブ・コメディ』(1983年)あたりに心酔しました。
本人も意識しているのだろうか。どこか憂いをたたえた表情、そして髪型もジェームズ・ディーンを思い出させる。「似てると言われませんか?」と聞くと、「はい、ときどき言われます」とオースティンは照れ笑いをみせた。

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ジェームズ・ディーンやマーロン・ブランドと同じく、エルヴィス・プレスリーもすでにこの世にいない。オースティンにとってもリアルタイムで目にした存在ではない。エルヴィスに特別な憧れや、何か思い出はあったのだろうか?
僕は祖母と仲が良かったのですが、彼女がエルヴィスの大ファンだったんです。子供の頃、祖母の家に遊びに行くと、必ずと言っていいほどエルヴィスの曲が流れ、テレビにはよく彼の主演映画が映っていました。つまり僕の記憶で、祖母の家の光景とエルヴィスは一体になっているんです。そしてエルヴィスとの接点ということなら、こんなことがありました。ある年のクリスマスの頃、友人とロサンゼルスの街をドライブしてたら、エルヴィスの「ブルー・クリスマス」が流れてきました。その歌声を聴いた友人は突然、僕に向かって「君はいつかエルヴィス役を演じるべきだ」と言ったんです。
そのクリスマスとは、2018年のこと。オースティンはちょうどクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)を撮り終えたところだった。彼は同作のクライマックスで、ロマン・ポランスキー監督の家を襲撃するマンソン・ファミリーの一人を演じている。

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■「偶然の一致に“宿命”を感じて、エルヴィス役をつかもうと心に決めました」

ギターやピアノを得意とし、周囲からはミュージシャンとしての才能も認められていたオースティンなので、この友人のアドバイスは説得力もあったはずだ。そしてここから偶然が重なって、彼はぜがひでもエルヴィス役を自分で演じたいと思うようになる。
ドライブの数週間後、自宅でピアノの弾き語りをしていたら、同じ友人から「権利を手に入れてでも絶対にエルヴィスを演じろよ!」と、今度は強く説得されました。それから数日して、バズ・ラーマン監督がエルヴィスの映画を撮るという連絡があったんです。これって、運命ですよね……。そこからエルヴィスについて書かれた本や、残された映像を探し、ものすごい勢いでリサーチを始めたんです。すると偶然の一致を発見しました。エルヴィスの母親は彼が23歳の時にこの世を去りましたが、僕も同じ23歳で母を亡くしているんです。そこで“宿命”を感じて、エルヴィス役をつかもうと心に決めました。

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正式なオーディションが始まったら、有力なライバルがたくさん現れるだろう。オースティンは一刻も早くバズ・ラーマンら製作陣に自分をアピールしようと思い、エルヴィスのナンバーを歌った自身のビデオを送ることにした。そして、ここでもエルヴィスとの偶然の一致が役に立つことになる。
最初に録画したのが「ラブ・ミー・テンダー」でした。でも見直したところ、単なるモノマネのようで“これでは送れない”と判断したんです。そんなある日、(生前の)母が死にかけるという悪夢にうなされ、目を覚ましました。本当に最悪な精神状態になり、その気持ちをぶつけるためにピアノに向かい、歌ったのが「アンチェインド・メロディ」です。この曲の歌詞は恋愛対象に向けられていますが、僕は天国の母への思いと、その喪失感を込めて歌いました。エルヴィスに似せようなんてことは一切考えず、あふれ出る感情のままに……。これを録画してバズ・ラーマンに送ったところ、彼は僕に会ってくれることになったんです。

「アンチェインド・メロディ」は、あの『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年)でライチャス・ブラザーズのバージョンが使われ、日本でも有名になった曲。エルヴィスも亡くなる少し前にステージで好んで歌い、死後にシングルが発売された。今回の映画『エルヴィス』にも同曲のシーンがあるが、このオースティンのエピソードを知ってから観れば、予想外の感動を味わえることだろう。
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■「僕の俳優としてのポリシーは“真実”を表現すること」

そこからバズ・ラーマン監督とオースティンの間で、役作りのための密なやりとりがスタートした。
バズから来てほしいと連絡があり、僕はすぐに彼がいるニューヨークへ向かいました。最初の日はエルヴィスや彼の人生について3時間くらい話し、そこから約5ヶ月間、バズから「脚本のこのシーンを読んで」「明日こっちへ来て数曲歌って」などと呼ばれ、僕の声が1950年代、あるいは1970年代のエルヴィスにどう合うかなど、細かく掘り下げていきました。最終的に公式のスクリーンテストを受けて役が決まったのですが、かつて経験したことのないオーディションのプロセスになりましたね。

この結果、おもに1950年代のシーンでは、オースティンの歌声がそのまま使われることになった。そしてステージでのパフォーマンスでは、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)でラミ・マレックを指導した、ムーブメント・コーチのポリー・ベネットが、各年代でのエルヴィスを再現するために協力してくれたという。
エルヴィスの動きは1950年代と1970年代ではまったく違いますし、同じ1970年代でも初期は“世界で最も美しい人物”と崇められながら、死の直前の1977年では別人に変貌しています。体重が増えた肉体でステージ上では空手の型なんかをやるわけで、特殊メイクも使って晩年の姿を再現しました。僕の俳優としてのポリシーは、“真実”を表現すること。それができないと最悪な気分になるので、映画を観た人にエルヴィスの変化を評価してもらえることを祈っています。
エルヴィス・プレスリーはもしかしたら、まだどこかで生きている……なんていう“都市伝説”も存在する。オースティンも、もしそうであれば本人に会ってみたいと笑う。
とにかく一緒に時間を過ごしたいですね。アメフトとかやってみたい(笑)。映画を観て、僕のパフォーマンスに彼が満足してくれたら、最高の喜びになるでしょう。
もちろんこれは夢物語だが、もし天国が存在し、そこにエルヴィスがいるのなら、オースティン・バトラーの演技に彼は心から感謝するに違いない。

取材・文:斉藤博昭『エルヴィス』は2022年7月1日(金)より全国公開

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