韓国と北朝鮮が共闘!? 実話ベースの傑作映画! リュ・スンワン監督が語る『モガディシュ 脱出までの14日間』

韓国と北朝鮮が共闘!? 実話ベースの傑作映画! リュ・スンワン監督が語る『モガディシュ 脱出までの14日間』
『モガディシュ 脱出までの14日間』©2021 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS & FILMMAKERS R&K All Rights Reserved.
骨太、あるいは気骨といった言葉が頭に浮かぶ。リュ・スンワン監督の映画に共通する魅力だ。『相棒 シティ・オブ・バイオレンス』(2006年)、『ベルリンファイル』(2013年)、『ベテラン』(2015年)。そして最新作『モガディシュ 脱出までの14日間』に至るまで、リュ・スンワンは“男の闘い”を描き続けてきた。

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■「韓国人にとって“ご飯は食べましたか?”は単なる質問ではない」

『モガディシュ』の舞台は1990年のソマリア。当時の韓国はソウル五輪を終え、国連加盟を目指していた。そのためにアフリカ諸国でロビー活動を展開。そんな中、ソマリアで内戦が発生する。モガディシュはこの国の首都だ。現政権と関係があったとして、韓国大使館も攻撃を受ける。国外脱出しか道はない。同じ状況に陥ったのが北朝鮮大使館だ。これまでは敵対し、妨害工作も行なってきた。だが、お互い母国から遠く離れた土地で命の危機に陥った。“敵国”だが元は同じ国。言葉も通じる。実話をベースにした呉越同舟の脱出劇は、スリルとともに複雑なエモーションを観客に呼び起こさせる。端的に言おう、傑作だ。

日本での劇場公開に向け、リモートインタビューに応じてくれた監督は言う。
内戦の苦しみを描いた映画はこれまでにもたくさんありましたが、登場人物は直接の加害者や被害者でした。もちろん巻き込まれた外部の人間が出てくることもありますが、この映画では外部から来た2つのグループを描いています。しかもグループ同士は対立してきた。1990年代というのは、冷戦の名残りの時期。そんな時代に、南北の外交官が力を合わせて脱出する。そのことだけでも想像力をかき立てられました。地球上で最も敵対視している集団が、生きるために思想や哲学を超えていくんです。

印象的なのは、南北の大使館員たちが同じテーブルを囲んで食事をする場面だ。最初は慎重に、警戒しながら、しかし同じものを食べることで両陣営の関係性が少しずつ変わっていく。『ベテラン』ではファン・ジョンミン演じる主人公の刑事が、何かと「飯は食ったか?」と聞く場面が出てくる。監督にとって「食事」を描くことにはどんな意味があるのだろうか。
食べて寝て排泄するというのは、人間の基本的な営み。どれか一つが欠けても人生が破壊されてしまうと思います。韓国では家族を表す言葉として“食口”、シックと言います(ハングルでは“??”)。文字通り、一緒にものを食べるのが家族だという考えですね。韓国は20世紀に至るまで歴史の悲劇に見舞われて、人々は常に食べることの心配をしてきました。だから“ご飯は食べましたか”と人に聞くのは単なる質問ではなく、心から心配しているという意味なんです。訪ねてきたお客さんに食事をふるまうことは、韓国では義務のような感覚でもある。一緒にご飯を食べるというのは温かく美しく、崇高な意味がある習慣だと思っています。

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■「観客1人ひとりと良い関係を築ければ、必ず次につながる」

分かり合えるところも、分かり合えないところもある。それでも一つの目的に“敵同士”が協力し合って向かう。クライマックスは緊張感に満ちたカーチェイス。カメラワークにも注目してほしい。『ベルリンファイル』もそうだったが、リュ・スンワンはアクションの見せ方という意味でも最前線を走る映画監督だ。
アクションとは、映画というジャンルの誕生とともにあるもの。ということは100年以上の歴史があり、今も多くのアクション映画が公開されています。その中で、いかに新しい経験を観客にしてもらうか。そのことはいつも考えています。ありきたりのものは作りたくないですしね。

このカーチェイスシーン、南北の大使館員たちはあるもので車を“武装”する。映画オリジナルのアイディアだそうだが、何か理不尽な暴力に“知性と教養”で対抗しているようにも見える。そう監督に伝えてみた。
それは嬉しいですね。この場面では、見た人がどんな解釈をしてくれるんだろうと期待していたんです。私としては、見る人への信頼の表れと言ってもいい。だから“この場面はこういう意味じゃないか”と考えてくれるのが嬉しいんです。

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韓国の興行収入記録を更新するような作品を連発してきたリュ・スンワン。本作も2021年のナンバー1ヒットになった。だが、何よりも大事にしているのは観客との関係性だという。
自分としては、規模が大きい作品をこんなに作り続けるとは思っていませんでした。興行成績をまったく意識しないと言ったら嘘になりますが、かといって興行成績は常にうまくいくものでもありません。やはり最も気を使うのは映画館に足を運んでくれる人たちです。何を感じてもらうか、どんな関係性を作るか。私にとって“観客”とは1人ひとり、それぞれ別の人格を持った個人のこと。それぞれといい関係を築ければ、仮にボックスオフィスの成績で失敗したとしても、必ず次につながるんです。

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■「世の中のメインストリームではない人物に惹かれる」

観客を信頼する男は、われわれ観客にとっても、いま最も信頼できる映画監督の1人だ。各作品の底流をなすのは権力を笠に着る者たちへの怒りと反発、“現場”の最前線で奮闘する者たちへの共感である。そのルーツは、監督がこれまで見てきた映画にあるという。
子供の頃から西部劇だったり、外国の作品をたくさん見てきましたから。そこに出てくるヒーローたちは品位を持っていて、弱者のために犠牲になり、権力の抑圧に抵抗します。そんな姿に、私は熱狂してきました。たとえば黒澤明の『七人の侍』(1954年)や『用心棒』(1961年)。ドン・シーゲルの『ダーティハリー』とそのシリーズ(1971年ほか)。それにチャップリンやキートンも、世の中のメインストリームではない人が孤軍奮闘する姿を描いてきました。私はそういう人物に惹かれるんです。

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黒澤にシーゲル。リュ・スンワンは確かにこうした映画界の伝説に連なる監督だ。『モガディシュ』では「物語の焦点がボヤけるのでやめておきましたが、ソマリアの人たちのことも描きたかったんです」と言う。なるほど、そうなるとこれからさらにスケールの大きな作品を撮ることになるのではないか。信頼できる男が撮った、社会派としてもエンターテインメントとしてもアツい一作を見逃すなかれ。

文:橋本宗洋『モガディシュ 脱出までの14日間』は2022年7月1日(金)より新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開

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