三池崇史×役所広司『十三人の刺客』 真夏に傑作時代劇を!〜昭和の高校球児の思い出を添えて〜

三池崇史×役所広司『十三人の刺客』 真夏に傑作時代劇を!〜昭和の高校球児の思い出を添えて〜
「十三人の刺客」通常版
Blu-ray&DVD発売中
Blu-ray:5,170円(税抜価格 4,700円)
DVD:4,180円(税抜価格 3,800円)
発売元:セディックインターナショナル・小学館
販売元:東宝
©2010「十三人の刺客」製作委員会

■高校野球とプロレス

2022年も全国各地で甲子園の予選が始まった。私も元高校球児ということもあって、関東地区のそれぞれの予選をテレビでチェックしながら、甲子園大会にワクワクし始めるのが毎年の恒例。懸命に白球を追いかける高校球児を見ながら、自分の高校時代の野球部を思い出す。灼熱の太陽、グランドに上がる陽炎、田舎の山間にこだまするバットの金属音、流れる汗、泥だらけのユニフォーム、そして付けられた変なあだ名――。そう、私は1年生の夏ごろに、野球部の先輩方にあだ名を付けられたのだ。

■そこそこかっこいい僕のあだ名

当時、うちの野球部には様々なあだ名を付けられた部員が存在した。アベベ、タマネギ、歯ブラシ、ポポ、かしわ、ビビビ、じおや、メッキャ、などなど。それぞれの由来を説明していたら長くなりすぎるので割愛するが、様々なあだ名で部員同士呼びあっていた。そんな中、私が先輩に付けられたあだ名は「マードック」。そこそこかっこいいあだ名だと思うのだが、付けられた経緯がなんとも不思議なのだ。

やっぱりトムクルーズはカッコいいなぁ〜
グースの息子も良かったよ〜
??#トップガン #トムクルーズ #マーベリック pic.twitter.com/X1KTaTkspK

? 桐畑トール (桐畑ダボ男) (@KiriHemo) June 13, 2022
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あの頃、我が野球部は夕方に全体練習が終わると、それぞれ個人の自主練に入るのだが、その自主練に入るほんの一息の休憩中、陸上部の高跳びのマットの上でプロレスごっこをするのが恒例だった。ここでは先輩たちが各々好きなプロレスラーになりきって、マットの上を縦横無尽に暴れ回る。ある人はアントニオ猪木、またある人はハルク・ホーガン、スタン・ハンセンにブルーザー・ブロディと、いろいろなレスラーになりきって、それぞれのレスラーの得意技を繰り出すのだ。もちろん、先輩たち“なりきりレスラー”の得意技を受けるのも我々1年生の仕事だった。そんな中、私の一つ上のK先輩が大好きなプロレスラーというのが、“狂犬”と呼ばれ恐れられたプロレスラー、ディック・マードック! 彼の得意技にカーフ・ブランディング(子牛の焼印押し)という技があり、対戦相手の首を脇の下に抱える、いわゆるヘッドロックの状態で、そのまま走り込んで体ごとマットに叩きつける技なのだ。この技を毎回、リング外の同級生から「マードック! マードック!」とコールがかかると、リング(高跳び用のマット)中央で大きく手を挙げた、カーフ・ブランディングを繰り出すK先輩。この技を毎回掛けられていたのが、1年生の私だったのである。プロレスごっこのたびにマードック・コールがかかると、いく日もいく日もこの技を受け続けた私。いつしか先輩たちは、廊下ですれ違う私のことを「おい、マードック!」と呼び始めた。マードックの技をかけられ続ける1年生の私に、マードックというあだ名を付けたのである。そんな様々なあだ名を持った我々高校球児が甲子園を目指し、18番までの背番号を夢見て練習に明け暮れた時代。これもまた青春の思い出の一つなのだ。

■命を燃やせ! 名作時代劇が超豪華に蘇る『十三人の刺客』

さて今回のおすすめ映画は、前回に続き私の大好きな俳優・役所広司さん主演の『十三人の刺客』。この作品は1963年の工藤栄一監督、片岡千恵蔵さん主演の東映作品を2010年にリメイクしたもので、バイオレンスの巨匠とも言われる、あの三池崇史監督がメガホンをとっている。私などは「戦わなければ、変わらない。命を燃やせ。」というキャッチコピーを聞くだけで胸躍る作品だ。物語は江戸時代後期、家臣や領民に対して、残虐な振る舞いが目に余る将軍の弟、明石藩藩主の松平斉韶(まつだいら なりつぐ)の問題を受け、江戸幕府老中の土井大炊頭(どい おおいのかみ)が決意し呼び出したのが、御目付役の島田新左衛門。「松平斉韶の暗殺」という命を受けた新左衛門のもとに、死をも覚悟した12人の仲間が集い、斉韶一行が参勤交代で国元に帰る道中を狙って戦いを挑む……という、いわゆる勧善懲悪な物語なのだが、この物語を初めて観た時はかなり衝撃的だったことを覚えている。

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まず映画序盤、藩主の斉韶が家臣やその家族に制裁を加えるシーンは、かなり残酷に描写されている。この悪役を演じているのは、まさかの稲垣吾郎さん! 国民的スターが残忍な悪役を演じていることに驚かされる。無表情に人を傷つける斉韶を、あの吾郎ちゃんが完璧に演じているのだ。この役で複数の助演男優賞を獲ったことも頷ける。もちろん他にも名だたる役者さんが数多く出演されているのだが、ほんのちょい役でも有名俳優さんが演じていたりする。映画冒頭、門前で切腹して果てる侍役が内野聖陽さんだったり、妻を斉韶に手篭めにされて殺される若侍が斎藤工さんだったりと、かなり贅沢なキャスティングだ。そして何と言っても、やはり主役の島田新左衛門を演じられた役所広司さんがカッコいい! 映画のクライマックスでは、斉韶一行が通る宿場町を大金で買い取り要塞へと改造し、さあ、まさに戦闘が始まる! というシーン。役所さんの「各々方、斬って斬って斬りまくれ!」のセリフには痺れまくりである。200人以上の敵をたった13人で迎え撃つ戦闘シーンは、どの役者さんの殺陣もそれぞれ素晴らしいのだが、なかでも島田新左衛門の部下で御徒目付組頭・倉永左平太を演じられた、松方弘樹さんが飛び抜けて素晴らしい!! 刀さばきはもちろん斬った後のキメ顔は、時代劇ファンにはたまらないだろう。そして斉韶を必死に守ろうとする、明石藩御用人の鬼頭半兵衛を市村正親さんが演じておられるのだが、この半兵衛と島田新左衛門は若い頃からの道場仲間で、ライバルであり友でもありながら、立場の違いから刃を交えることになる辺りもグッとくる。
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一人で戦う者、仲間と一緒に戦う者、師弟で組んで戦う者、それぞれの持ち場を死守する“十三人の侍”の魂の戦いは、見る者に感動を与えること間違いなしである。そこで今回の雑学は、戦国時代に命を狙われた様々な武将の中から、いくつか例をご紹介しよう。

■あの有名武将も狙われていた!? 戦国物騒トリビア

■風呂あがりの太田道灌

まずは戦国時代、関東地方で活躍した太田道灌(おおた どうかん)という武将。最初に江戸城を築城した武将である。この道灌は武蔵国を拠点とする大名家、扇谷上杉家(おうぎがや うえすぎけ)の家臣で関東での様々な戦いに活躍するのだが、主君の上杉定正は家臣の道灌の優れた才能に恐れを抱きはじめる。そこで自身の館に招いて風呂を振る舞い、入浴後の道灌が小口から出てきたところを暗殺。道灌は死に際に「当方滅亡」と言い残したと伝えられており、つまり「自分がいなくなれば扇谷上杉家に未来はない」と予言を残したのだ。

■武田信玄の死因は美しい笛の音色!?

次に、誰もが知っている戦国武将、武田信玄。彼の死にもいくつかの説があり、病死が一番有名だが、ある説によると武田家3万の軍勢が徳川家康の遠江国を攻めた際、徳川領の野田城を何日も包囲していた。すると毎晩、野田城から美しい笛の音色が聞こえてくる。文化人としての面も持っていた信玄は、この笛の音を聞くのが楽しみになっていった。そして野田城内でも「笛を吹くと身分の高そうな武将が城の対岸に聞きに来ている」と噂になる。ならば、と徳川方は鉄砲の名手である鳥居三左衛門を配備し、笛の音を聞きに出てきた武将を狙撃。見事成功し、撃たれた信玄はこの傷が悪化して亡くなった言われている。どうも怪しい説だと思う方もいらっしゃるだろうが、愛知県新城市にある野田城跡の城内には<信玄公狙撃場所>との看板が立てられており、さらに野田城の対岸の法性寺にも<信玄が撃たれた場所>という看板が立てられているのだ。

■本能寺以前から狙われていた織田信長

そして最後に、この武将も暗殺未遂に遭っている。それは戦国の風雲児・織田信長。ご存知<本能寺の変>で明智光秀によって命を落とした信長だが、その何年も前に街道を移動中に命を狙われているのだ。犯人は杉谷善住坊(すぎたに ぜんじゅうぼう)という人物で、鉄砲の名手であったという以外は謎の人物。織田家によって近江国を追い出された六角氏から依頼され、犯行に及んだと言われている。ときは1570年5月。信長一行は京都から本拠地の岐阜城へ帰るため、伊勢方面に抜ける千種街道を通過していた。その途中、善住坊は険しい峠道の巨大な岩影に身を隠し、ターゲットの信長を待っていた。そこに近づいてくる織田軍の行列。その中でひときわ目立つ信長を見つけると、善住坊は確実に仕留めるために、なんと鉄砲の筒に2発の球を込める特殊な狙撃方法をとるのだ。けたたましい銃声と共に、2つの弾は目標の信長めがけて飛んでくる。しかし、放たれた弾はどちらも信長を捉えられず、かすり傷を負わせることしかできなかった。こうして善住坊の信長暗殺計画は失敗に終わったのだ。現場から逃走した善住坊は琵琶湖の西岸のお寺に身を隠していたが、激怒した信長の執拗な追手から逃れることはできず、家臣に見つかり捕縛される。最後は厳しい尋問の末に、竹の鋸で首を斬られるという残忍な刑で最期を遂げたそうだ。そして現在、滋賀県東近江市の甲津畑町には、善住坊が身を隠した「杉谷善住坊の隠れ岩」と呼ばれる岩が残っている。さて、これから夏真っ盛り。ビール片手に昼間は高校野球、夜はハイボール片手に日本の時代劇で盛り上がるのはいかがかな。文:桐畑トール(ほたるゲンジ)『十三人の刺客』(2010年)はBlu-ray/DVD発売中

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