『ブラック・レイン』徹底解説!デ・ニーロも松田優作と共演を切望!?『ブレードランナー』との共通点は? 必聴の副音声番組

『ブラック・レイン』徹底解説!デ・ニーロも松田優作と共演を切望!?『ブレードランナー』との共通点は? 必聴の副音声番組
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■ジャッキー・チェンがヤクザを演じていたかも!?

松田優作高倉健マイケル・ダグラスなど日米の大スターが共演した、リドリー・スコット監督作品『ブラック・レイン』(1989年)。問答無用の名作だが、実はこの作品の企画、元々は『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987年)の為のものだったことはあまり知られていない。もし『ブラック・レイン』がエディ・マーフィ主演だったら、おそらく全く違った話になっていただろう。これは実に意外だ。

そしてキャスティング案だ。マイケル・ダグラス演じる刑事、ニック役にはメル・ギブソン、カート・ラッセル、アーノルド・シュワルツェネッガー、シルヴェスター・スタローン、ブルース・ウィリスなど様々な案があった。リドリー作品つながりで、ルトガー・ハウアーとハリソン・フォード、この『ブレードランナー』(1982年)コンビも候補になっていたという。

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対する松田優作が演じた日本ヤクザ、佐藤役にはジャッキー・チェンの案もあったが、自分の悪役を客が見たがるとは思えない、と降板したそうだ。個人的に同感である。

■ロケは難航したが日本語ネイティブにしか理解できない楽しみもある

ご存じの通り、日本で大規模なロケを敢行した『ブラック・レイン』だが、撮影の苦労のエピソードは多々伝わってきている。とにかく日本では、街頭での撮影許可がなかなか下りなかった。せっかく認められても、時間もあまり長く取れなかったため、現場のスタッフはいつも走り回っていたそうである。さらに頭を悩ませたのは見物客対策であった。通行人が平気でカメラの前を横切り、国民的スターの高倉健にサインを求めるファンも多く、撮影に支障をきたすほどだった……。そんなこんなで、撮影時間はあっという間になくなった。結果として本作は、屋外での中、近距離の1カットの平均秒数は3.5秒ととても短い。怪我の功名ではあるが、これによって室内と屋外での演出のスピード感の差が生まれ、結果として緊張感を醸し出しているような気もする。

撮影監督が日本での撮影にストレスをためて降板、代わりに、後に『ツイスター』(1996年)などの監督としても有名になるヤン・デ・ボンが入ったりと、とにかくバタバタな現場であった。リドリーは後年、あらゆるものの値段が高く、ロケ地の許可を取るためのお役所仕事との格闘の日々を振り返り、「二度と日本では撮らない!」と述懐している。

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大変だった日本での撮影のあおりを食らい、最終決戦の舞台のロケ地は、日本ではなくカリフォルニア。制作者陣のビザの期限が切れ、アメリカで撮るしかなくなったのだ。ちなみに、ニックが招かれる菅井(若山富三郎)の邸宅はLAにある、エニス=ブラウン・ハウス。『ブレードランナー』のデッカード刑事のアパートとして使われている、あの建物である。大阪の主要な場所を舞台にしている本作だが、銃撃戦シーンが撮影された三菱鉄工所は現在はUSJに、作中に登場する<クラブ都>はドラッグストアに……と面影がなくなってしまったところも多いが、「この辺だったのか……」と聖地(遺構)巡礼するのもいいかもしれない。

もちろん実際の大阪、日本を知っている人にとってはさらに楽しめる要素も多い。そもそも日本人出演陣の印象的な発言、たとえばガッツ石松の「タバコしか持ってねぇよ!」や、ホームレスの「ダンナさん、ワシ腹ペコペコですねん」などの様々な名言には、英語字幕はついていない。字幕はストーリーに関わる重要な会話の時だけである。細かなやり取りを楽しめるのも日本人の特権だろう。

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■ロバート・デ・ニーロも絶賛し共演を切望した松田優作の熱演

リドスコは当時『ブレードランナー』で興行的、批評的にも失敗したと言われていた。CS映画専門チャンネル ムービープラス「副音声でムービー・トーク!」で紹介してきた他作品でもたびたび彼の名前はあがっているが、「『ブレラン』の一件でスタジオやスタッフの信用がダメになった」といったエピソードが度々語られていた彼の、本格的な復帰作と言えるのが『ブラック・レイン』だった。

6本目の監督作となる本作は『ブレードランナー』以来、彼が自分の世界観を存分に発揮できた作品とも言えるのではないだろうか。本気を出したリドリーの世界観が爆発し、本当の大阪とは全く異なる異世界(そもそも大阪の人が大阪弁をほぼしゃべらない!)、言ってみれば「昼もある『ブレラン』ワールドの延長された世界」が現出している。今あらためて見直すと、ダグラスとガルシアの『ローン・レンジャー』(1981年ほか)的な関係性など、日本を荒野と見立てての西部劇的側面もあることに気付かされる。保安官が馬をバイクに乗り換えて都会を失踪する、クリント・イーストウッドの『マンハッタン無宿』(1968年)的であるとも言える。冒頭やクライマックスなど、要所要所にバイクアクションが多用されるのも偶然ではあるまい。ラストに健さんを「カウボーイ」と呼ぶのもその証拠であろう。

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公開時には「日本のスター総出演」という扱いで、松田優作の逝去後は「彼の最後の作品」として扱われることの多かった作品だが、主役マイケル・ダグラスの魅力も爆発している。実際ダグラスにとって本作は、自身のお気に入りの1本だそうだ。余談だが、彼は実に銃の扱いがうまいが、ジョン・レノン暗殺をきっかけにトレーニングをするようになったそうである。そんなダグラスが演じるニックは、汚職疑惑もありながら子供に愛情を注ぐ野獣刑事。このキャラ造形は、葛藤はありつつも清廉潔白なヒーローが多い今の時勢では、あまりいなくなった役柄だ。かつての『ヴェラクルス』(1954年)のバート・ランカスターや、『さらば愛しき女よ』(1975年)などのロバート・ミッチャムの持っていたダーティー・ヒーロー感、これをダグラスは継承していた。

『ブラック・レイン』のクランクアップ5日後に『ローズ家の戦争』(1989年)を撮り始めるなど、当時『ウォール街』(1987年)や『氷の微笑』(1992年)など話題作に立て続けに出演、それくらい売れっ子であったダグラスが、その後病気等で次第に表舞台から姿を消したのは実にもったいないと言わざるを得ない。言葉も通じない日本で同じ“ガイジン”としてニックと心を通わせていく女性ジョイスを演じるケイト・キャプショーも、その後の映画界ではなかなかお目にかかれない大人の女性を強く感じさせる存在感を出している。のちにスティーヴン・スピルバーグと結婚し、育児などもあり家庭に入っていくが、もっと活躍を見たかったと思わないでもない。

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■「これで俺は永遠に生きられる」

他の役者陣にも、この作品に打ち込んでいたという気概を感じるエピソードが多い。健さんとアンディ・ガルシアがカラオケで歌うシーンは元の脚本には存在しなかった。このあと劇的にストーリーが展開するということで、よりエモーショナルに感情移入させようと現場でガルシアが思いつき、演じたそうである。そして皆知っているように、本作は松田優作にとって(海外での)最後の作品だ。彼自身が膀胱癌を患っていることを知っており、撮影中もどんどん悪化していった。それでも「やる」と立候補し、鬼気迫る演技で本作を演じきったのだ。1989年11月6日、本作のアメリカ公開後に40歳の若さで死去した彼に、この映画は捧げられている。本作を観たロバート・デ・ニーロが彼との共演を熱望したが、もちろん叶わなかったというエピソードは、我々に映画の「もし」を強く感じさせる出来事だ。そして若山富三郎も、本作での共演後ほどなく亡くなっている(享年62)。

彼らに限らず内田裕也や安岡力也など、本作に出演していた錚々たる日本の役者たちも、そのほとんどがすでにこの世にいない……。存命なのは國村隼、ガッツ石松両氏くらいであろうか。これはさすがに一抹の寂しさを感じずにはいられない。不遇を囲っていた時期に渾身の作品をモノにしようと奮闘したリドリーほか製作陣、言葉や文化の壁を越えて演じきった日米の役者陣。彼らのひたむきさ、そして「次はないかもしれない」という一期一会感が、この映画を時代を越えた1本にしているのではないかと考える。死を悟りながら渾身の演技を見せ、リドリーに対し「これで俺は永遠に生きられる」と言ったという松田優作。『ブラック・レイン』という作品は、そんな様々な映画人たちの「本気」が詰まった1本だ。

文:多田遠志『ブラック・レイン』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「副音声でムービー・トーク!」で2022年8〜9月放送、Blu-ray&DVD発売中、U-NEXTほか配信中

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