家族を襲った“怪現象”の正体とは!?『NOPE/ノープ』ジョーダン・ピール監督、またも想定外のレベルに到達!

家族を襲った“怪現象”の正体とは!?『NOPE/ノープ』ジョーダン・ピール監督、またも想定外のレベルに到達!
『NOPE/ノープ』©2021 UNIVERSAL STUDIOS

■『ゲット・アウト』『アス』から何が変わった?

監督の名前を聞いただけで、妙な心のざわめきが湧き上がってくる……。現在のハリウッドで、そんな衝動を起こすトップランクといえば、この人、ジョーダン・ピールではないか。 初の監督作となった『ゲット・アウト』(2017年)は、あまりにも鮮烈な映画体験を届けることになった。アフリカ系アメリカ人(黒人)の青年が、白人のガールフレンドの両親宅を訪れたことから始まる恐怖体験のストーリーは、『招かれざる客』(1967年)など長年ハリウッドで描かれ続けてきた人種差別問題をベースにしつつ、ジャンル自体はホラー。社会派テーマへ目配せしながら、観る者を本能的に震え上がらせるというハイレベルな技をやってのけた。『ゲット・アウト』はアカデミー賞で作品賞など4部門にノミネート。ジョーダン・ピール自身も監督賞にノミネートされ、脚本賞でオスカーを獲得。一躍、時の人になった。 このピールの方向性は、監督2作目で確固たるものとなる。『アス』(2019年)は、主人公一家の前に、自分たちによく似た姿の集団が現れ、想像を絶する惨劇へ発展していく。その裏には『ゲット・アウト』ほど明白ではないものの、社会に潜む格差の問題を潜ませていた。脚本を担当した『キャンディマン』(2021年)でも、都市伝説を描くホラーの続編という基本は守りつつ、アフリカ系としてのピールの視点から社会派テーマを読み取らせる。そんな作りになっていた。

■舞台は黒人家族が経営する牧場

ホラーやスリラーとして単に怖がらせてくれるだけでなく、骨太な何かを察知させる、やや“上級者向け”の香りが漂うのが、ジョーダン・ピール作品の特徴だった。 ここで「だった」と書くのは、ちょっと勇気が必要かもしれない。しかし、あえて「だった」と断言したいのは、ピールの最新作『NOPE/ノープ』が、彼らしい「テーマを深読みさせる作品」というより、むしろ「映像をそのまま浴びて楽しむ」ような類の作品としてオススメできるから。そのうえで、映画愛にも溢れた一作なのである。

ジョーダン・ピール自身、本作を手がけたモチベーションについて「サマー・イベント・フィルムを作ろうと決めた」と語っている。つまりわれわれ観客も、この『NOPE/ノープ』にイベント的に興奮し、驚き、楽しむべきなのだ。

メインの舞台となるのは、ロサンゼルス郊外にあるヘイウッド家の牧場。この一家は代々、映画やドラマの撮影に使われる馬を調教してきた。ある日、空からの落下物によって一家の父親が急死。残されたOJ(ダニエル・カルーヤ)とエメラルド(キキ・パーマー)の兄妹は、不穏な現象を目の当たりにして、未知の敵に対峙することになる。

冒頭で、ある逸話が紹介される。イギリス出身の写真家、エドワード・マイブリッジが1887年、「動物の運動」という連続動体写真を完成。16枚の連続写真で、馬の走る動きが解析された。この連続写真をきっかけにトーマス・エジソンが映画を発明したと言われ、つまりこの写真こそ、すべての映画の“ルーツ”。そして写真で馬に乗っているのが黒人であり、その人の思いをヘイウッド家が受け継いでいる……というのが『NOPE/ノープ』の設定だ。 ここだけ聞くと、ジョーダン・ピールの映画なので黒人の歴史がストーリーに色濃く反映されると想像してしまう。しかし、このエピソードから広がる本作のキーポイントは「黒人」というより「映画」。社会派テーマに擦り寄っていかないところが、ピール作品として逆に新鮮な印象だ。

■怪現象を撮影→バズり動画でごっつぁん! のはずが命がけのミッションに

怪現象に立ち向かうヘイウッド家という中核のストーリーに対し、冒頭から挿入され、大きく絡んでいきそうなエピソードが、「ゴーディ、家に帰る」というTVドラマ。撮影中に惨劇が起こり、その生き残りの一人で元子役のジュープが、ヘイウッド家の近所で「ジュピター・パーク」というアミューズメント施設を経営している。ジュープ役は『ミナリ』(2020年)のスティーヴン・ユァンで、ただならぬ怪しいムードを醸し出しているのだが、「ゴーディ」での事件やジュープのパークが怪現象とどう関わるのか、いろいろな意味で予想を裏切るのではないか。

監視カメラに映る何か。牧場の厩舎での不審な影。動かない雲など、さまざまな不安要素、ドッキリ描写が積み重ねられ、どこかM・ナイト・シャマランの世界と接しているような錯覚にも陥るが、シャマラン作品に比べると理路整然と進み、ツッコミを入れずに没入できるのも大きな特徴。怪現象の正体とそのデザインに関しては、過去のどんな映画とも違う未体験のレベルで衝撃を誘うし、IMAXカメラによる映像の奥深さ、美しさに陶酔してしまうのは確実だ。 そして「映画」への強烈な愛があちこちに散りばめられることで、無意識な領域で感動を蓄積していく。「動物の運動」の写真に加え、ヘイウッドの兄妹が馬の調教で参加する撮影現場の舞台裏が描かれるし、怪現象を映像に残そうとする見せ場では、登場人物たちが一本の映画に命をかけるクルーと化し、撮影機材が映画の歴史を物語ったりして、異様なテンションを形成する。

■モンスター、SF、ファンタジー、そして『AKIRA』オマージュ

今回、ジョーダン・ピール監督が意識したと明言するのが、『キング・コング』や『ジュラシック・パーク』系のモンスターパニック大作、『未知との遭遇』(1977年)や『サイン』(2002年)といった異星人との遭遇映画、そして『オズの魔法使』(1939年)のようなファンタジーの王道……と、まさに映画史を振り返るような作品群。そこにアクション場面では、ピールが個人的に大好きだという『AKIRA』(1988年)の名シーンにオマージュを捧げたりと、遊び心を発見する瞬間も多い。

「NOPE」というタイトルに関して、当初は「Not of Planet Earth(地球のものではない)」の略かという説も出て、たしかにそれも正しいと言えるが、劇中に「No」のスラング「Nope」がセリフとして何度も登場する。ジョーダン・ピール監督は、作品に深い社会派テーマを込めることもひとつの作風だが、もしかしたらこの『NOPE/ノープ』で彼は、われわれにもっと目と耳で素直にスクリーンで起こっていることを受け止め、映画愛や映画のパワーを感じてほしかったのではないか。余計な裏読みの必要性に、彼は「Nope」と答えている気もする。

文:斉藤博昭 『NOPE/ノープ』は2022年8月26日(金)より全国公開

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